「ちょっと!そこじゃないって!」
『えっ?』
「下手くそぉおお!」
『だってわからんもん!!!』
オンラインでゲーム中。動画サイトで知り合ったこの人はレトルト。ずっと実況を見てて、俺の憧れで、声をかけたのも俺からだった。
彼の動画を見ても、とても上手いとは言い難いけれど、何より楽しそうにやっているところに惹かれたのかもしれない。俺もこの人と一緒にできたらなって思って、勇気を出して誘ってみた。
「ゲームオーバーだな」
『キヨくん上手いなぁ…俺なんて残基なくなったわ』
「今日はこのへんにしとくか」
『せやね』
俺たちはオンラインでしかゲームをしていない。俺が知ってるレトさんは、鼻声でちょっとポンコツで、楽しそうにゲームしてて。
驚くことに、これだけ一緒にやっているのにまだ顔を知らないんだ。お互い、リアルで会ったことは一度もない。そんな話が出ないからかもな。
でも…やっぱり知りたい。一緒にゲームをしていくうちに、どんどんこの人のことが気になっていった。どんな顔してるんだろう。リアルでもポンコツなのかな。
今では週に一回はゲームをする仲だけど、その実、お互いのことをまだ殆ど知らないでいる。
『じゃあまた今度やろうな』
あ…切れちゃう…!
「まっ…待って!!!」
『うおっ…びっくりした…』
「あのさ…レトさんさえよかったらなんだけど…」
『ん?』
「今度、リアルで会いませんか?」
『……』
あれ、沈黙?まずいこと言ったかな…
『俺、キヨくんの期待通りの男やないで?それでもいいならかまへんけど』
あ、そんな心配か。
「いやいや、今さら気にすることでもないでしょ!いいよ、クソオタクでも、ポンコツでも」
『そこまで言うのは違うやろ!』
「ははっ、悪い悪い」
その後は会う予定を立てていた。外ではゲームできないので、普通にご飯を食べる流れになりそうだ。嫌いなものとか、好きなものとか、まだあんまり知らないから適当なカフェを選んだ。レトさんはどこでもいいよ〜なんて言ってくれて。
当日が楽しみだ。
駅のホーム。お互いの中間地点で会うことになった。ガラにもなく緊張している俺。
「やばい…」
心臓がぎゅって締め付けられるような感覚がずっと続いている。初めて会う人が相手でも、こんなことにはならなかったのに。昔から憧れてる存在っていうだけでこれほどまでに緊張するものだろうか。ただ声だけ聞いてゲームするのと、会うのとはやっぱり別次元だ。
何回も腕時計を見ては時間を確認する。あと数分でレトさんが来ちゃう…
髪型は変じゃない?服は?
スマホを見ながら細かくチェックする。
「キヨくん…?」
しばらくして、目の前に現れたのは小柄な男性。茶髪で切れ長の目をしたマスクの男性だ。
「え…その声はレトさん?」
「あ…えっと…初めまして」
驚いた。クソオタク(失礼)を想像していたけれど、全然そんなことなくて、爽やかなイケメンがあの声の主なんて。思ったより…なんていうか…かわいいじゃん。
「初めまして…だよね」
「びっくりしたぁ…キヨくん身長高いんやね。スタイル抜群やん」
「はは…」
あれ?オンラインではもっとスムーズに話せてるはずなのに。実物の破壊力ってエグいんだな…
しかも顔めっちゃ好みだし…どうするよ俺…
「カフェだっけ?はよ行こうや」
「あ…うん…」
「これこれ、これ食べてみたかってん」
「パンケーキ?」
「色々乗ってて美味そうやろ。キヨくんはどれにする?」
メニューを見ながら、パフェを指さした。
「あー、それもうまそうやな…」
「優柔不断かよ」
「うっさいわ!」
そんなやり取りをしながら、お互いのことについて話していた。
「キヨくんはゲームしてる時より静かやね。ぜんぜん違う人かと思ったわ。もっとはっちゃけるイメージだったのに」
「なんだそれ…」
「めっちゃオシャレだし、かっこいいしなあ」
「え…ありがと…」
「なぁなぁ、俺は?俺の印象は?」
「自分で聞くのかよ」
「うん」
「レトさんは…思った感じと違ってちょっと抜けてる印象だよ」
「それ酷くない!?」
そんな話をしていると、頼んだものが届いた。
「うまそ…いただきます!!」
よほど食べたかったんだろうな、目がキラキラしている。この人を見ていると、なんだか不思議な気持ちになった。ふわふわした、現実離れした感覚。しかもやたらと褒めてくるし。
でもそれが確信に変わるのにそう時間はかからなかった。一生懸命食べてるからか、口の端にクリームが付いている。子供っぽいなぁと思いながらも、本人は気づいていないようで。
「レトさん、クリーム付いてる」
「どこどこ?ここ?」
「違う、反対だよ」
口の端を指で拭って、付いたクリームを取ってやった。ここからは俺の加虐心だけど、このまま舐めたらどんな反応するんだろうな…
その反応を見たくて、手に付いたクリームをペロッと舐め取ってみた。
「…うま」
「は…なにしてるん…」
「ここの生クリームうまいな」
「じゃなくて…だってキヨくんいま…」
あれ、思ったのと違った。もっと、『やめろや恥ずかしい!!』って怒るかと思ったのに。
「レトさ―」
(うわ………)
真っ赤だった。
その顔を見た瞬間、また心臓がぎゅっと締め付けられる。普通なら怒るところなのにその反応はもうずるいだろ…
これは確定だな。憧れ以上の感情があるんだって実感した。レトさんもそうなのかな、わかんないけど。
「あのさ…このあとちょっと寄りたいところあるんだけど、いい?」
「………はい」
あれ、敬語になっちゃった…
なんだろうこの感じ…ムズムズする…
その後食べたパフェはあまり味がしなかった。
THE END.
コメント
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わーありがとうございますー!!!!ウォッカさんの小説大好きで勿論期待はしていたんですけど、想像してたのよりも何倍もキュンキュンでした~!!! お話の中に沢山のどきどきが詰まってて面白かったです…!!!リクエストかいてくださって、本当にありがとうございました…!!!!