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羊と亀のお遊戯会
510
#名探偵
空蝉 桜
136
おきつね
101
1 ◇初詣参拝
百子は自分も手を合わせ拝みながら隣で同じように参拝している夫の
伸之の様子をチラりと伺う。
自分は勿論のこと、今年も一年家族皆つつがなく平穏無事に過ごせますようにと
祈願しつつ、またここまで夫婦仲睦まじくこれたことなどに対するお礼、感謝の気持ち
などを申し上げた。
果たして……夫の伸之は何を思い何を祈願したのだろう。
そうは思うものの
『知りたいか? 夫の腹の底を。覗いてみたいか?』
と問われれば、NOと答えるだろう。
百子は、世の中には曖昧なままでいいこともあるのだ、と
いうようなことを飲み込める年代に達していた。
2◇出会い
秋野百子と石田伸之のふたりの出会いというか馴れ初めは、同じ会社に
勤めている上司と部下という形での出会いだった。
有り体に言えば世の習いというもので、毎日顔を合わし仕事を教え
教えられという仲で自然と互いを意識するようになってゆき、多少の紆余曲折は
あったもののそのまま百子からしてみればあれよあれよという間に結婚まで怖い
くらいにスムーズに進んだ。
――――――――――――――
交際と言えば、高校生の頃に特定の男子と学校帰りに一緒に駅まで歩いて帰ったり、
たまに駅前の店でチキンと飲み物を注文し食べて帰るというようなデート替わりの
かわいい付き合いがあったくらいで、その後大学では大所帯の10人組のグループに
属し合コンなども2度ほど参加したが、綺麗どころが揃っていたせいか、ちっとも
目立たずいつも百子は壁の花で終わっていた。
そのような経験から結婚には苦労するのだろうなぁという思いが
漠然とあったのだが。
◇ ◇ ◇ ◇
入社後、支店には同期の女子が3人いたが全員メイクバリバリ、
着ている洋服や付けているアクセサリー、持っている鞄などにかなりの額を
つぎ込んでおり、会社へは仕事半分で、未来の旦那探しに来ているのが周囲にも
バレバレの彼女たちだった。
会社へ仕事と未来の旦那探しに来ているというのは、
悪いことではないと思う。
自分だって、見てくれる男性がいれば、俄然頑張るだろうと
思うから。
しかしながら、どうしてだか彼女たちの輪に馴染むことができないでいた。
避けたわけでもなく気がつくといつの間にか同期たちの間では
ボッチという図式になっていた。
同じ島に40代の契約社員の女性がいて、昼食時も何かのイベント時も
その人にくっついていた。
くっつくという言い方も大概だけど、お相手が年上だからいいとしよう。
女性が二人しかいない課で残業のある時などは男性社員たちと併せて
総勢8名で飲食店へ出掛けることもあったり。
そんな環境下の職場で秋野百子は頑張っていた。
◇憧れ
入社して1年も過ぎる頃には、仕事熱心な上司の石田に憧れるように
なっていた。
いや、恋焦がれるようになっていたのだ。
だけど実らぬ恋と分かっていたため『憧れている』と自分の気持ちを
うまい具合に変換していた。
◇ ◇ ◇ ◇
営業が出払い、契約社員の黒田花子と自分との二人になった日の、
あまりの忙しさに息つく暇もないくらい二人共一心不乱に仕事をしていた
時のことだった。
一段落ついたのか彼女が『あ~あぁ、あともう少しだわ』と言いながら
首や肩回りを動かし始めた。
つられて自分も手を休めてぼーっと一つ左隣の机を挟んだ彼女のほうに
顔を向けた。
すると彼女が言った。
「ね、知ってる?」
「何をでしょう?」
「知らないみたいね。
石田さんってやっぱりモテるんだねー」
「そうかもしれませんね。垢抜けてますもんね」
「ぷぷぷっ、垢ぬけて……ぶはははっ。
秋野さんって何気にババ臭いよね、言うことが」
「黒田さん、言い過ぎですってば。……当たってるけど」
「ほら、秋野さんの同期の赤松さん、石田さんに押して押しまくり
ぶち当たって木っ端みじんに砕け散ったらしいよ」
「木っ端みじんですかぁ。怖いですね~」
「ね~、他人事だからいいけど、自分のことだったらもう会社に
来れないわよ」
「赤松さんと今日会いましたよ」
「それっ、どういう返しよ、秋野さんったら、ぷぷっ」
「彼女強い人ですね」
「そうよね、きっと辛いだろうけど。
だけど当たって砕けられる人が私からしたら羨ましいわぁ~。
私なんかが石田さんに告白したら周りから笑いものだもの」
私は黒田さんの台詞を耳にした瞬間、二人の年齢差を数えていた。
44才-28才=16才。
16の差かぁ~。
私は普段から親戚の18も年の離れた5才児と対等な会話をしているだけに
『大丈夫ですよ』と言いそうになった。
そんなことを妄想していたら黒田さんに言われた。
「そこ、そこーっ、何かフォローしなさいよ」
『大丈夫ですよ』と返したかったけれど……
そして心からそう思っているけれど、ここで『大丈夫ですよ』は
言ってはいけないような気がした。
本人がすごく気にしているようだし。
「そうですね、後もう2才若ければよかったですね」
「わははっ。
私は秋野さんのそういうやさしいとこが好きだわ。
さてと、皆が帰社するまでにもうひと踏ん張りしますか!」
「……ですね」
そっか、赤松さん石田さんに告白してたんだぁ~。
しかし、こんなホットな話題を同期からではなく、黒田さんから
聞く私って、いいのかこんなので。
元々私なんか、告白する勇気なんてなかったし、今日聞いて更に
『告白なんて滅相もございません』の境地に達してしまった。
でもあれだわ、聞けて良かった。
万が一にも血迷わずに済んだもの。
◇ ◇ ◇ ◇
なんかこの日を境に、好きという気持ちを失くしたわけではないけれど、
百子は以前ほど石田を意識せずフラットに仕事を進めることができるようになっていった。
どんな理屈なんじゃ~と言いたくなるが、赤松さんが駄目なら、
自分なんて絶対駄目なのだから、好いてもらえるかもしれないという
わずかな望みも絶たれ、希望的観測がなくなったという論法だ。
それだけで肩の力が抜け、百子の心は軽くなったのだ。
コメント
1件
うわ、めっちゃリアルな社内事情と心情描写…!百子さんの「告白なんて滅相もございません」って達観するところ、めちゃくちゃわかるわ。黒田さんとのやりとりのテンポも良くて、クスッときた。二人の距離感がじわじわ縮まるのか、この先どうなるか気になる~。続き読む!