魔法学園の教室は、嵐の中心と化していた。
エリザの魔法が雷雲を呼び、突風が吹き荒れ、雨が降り注ぐ。
稲妻が教室の壁を焦がし、轟音が響き合う中、レクトはバナナの杖を握り、エリザと対峙していた。
「母さん、俺はまだ諦めない! この魔法で、ちゃんと認めてもらいたいんだ!」
レクトの声は控えめだが、強い意志に満ちていた。彼のバナナの杖は、サンダリオスの血と共鳴し、フルーツの形をした光を放ち続ける。
エリザは冷たく笑ったが、彼女の目には微かな揺れがあった。
「認めてもらいたい? そのふざけた魔法で? 無駄よ、レクト!」
彼女の手が振り上げられ、雷雲から巨大な稲妻が落ちた。
突風が渦を巻き、教室の窓ガラスが粉々に砕けた。
レクトは咄嗟に杖を振り、パイナップルの形をした光の爆発を放ち、稲妻を散らしたが、風圧で後ろに吹き飛ばされた。
「レクト!」
ヴェルが叫び、壁に押し付けられた状態から抜け出そうとしたが、エリザの突風が彼女を再び押さえつけた。
「邪魔しないでちょうだい!」
エリザの声は嵐に混じり、不気味に響いた。
彼女の周囲では風が渦巻き、まるで彼女自身が嵐の化身のようだった。
レクトは床に倒れながらも、杖を握り直した。
「ふざけてるなんて……俺、思ってない。この魔法は、俺の魔法なんだ!」
彼は立ち上がり、杖からキウイの光弾を連射した。
緑色の光が嵐を切り裂き、エリザの雷雲に小さな穴を開けた。
エリザは一瞬驚いたが、すぐに手を振って竜巻を召喚。
光弾は風に飲み込まれ、レクトは再び押し戻された。
だが、
レクトの魔法にはどこか不思議な力があった。
フルーツの光は、嵐の猛威を完全に防げないものの、
エリザの魔法をわずかに乱し、彼女の集中を揺さぶった。エリザは内心で舌打ちした。
「なんてしつこい子……こんな馬鹿な魔法にサンダリオスの血が入るから……!」
彼女の声には、苛立ちと、ほんのわずかな感嘆が混じっていた。
エリザは、
レクトのフルーツ魔法がサンダリオス家の名にふさわしくないと信じていた。
だが、目の前で必死に戦う息子の姿に、彼女の心は揺れていた。
(サンダリオス家として、あんたの魔法は許せない……でも、個人としては……)
エリザは心の中で呟いたが、すぐに首を振った。
「そんな気持ち、邪魔よ!」
彼女は自分の中の心配や愛情を押し殺し、
嵐をさらに強めた。
雷雲が膨れ上がり、
教室の天井が軋むほどの突風が吹き荒れた。
雨が滝のように降り注ぎ、床は水浸しになった。
エリザの叫びに、嵐が教室の外へと広がった。
風がレクトを押し、校舎の出口へと強制的に導いた。
レクトはバナナの杖を振り、ドラゴンフルーツの刃を放って風を切り裂こうとしたが、嵐の力は圧倒的だった。
「まだ……終わらない!」
彼はマンゴーの光の盾を展開し、風を防ぎながら一歩ずつ踏み出した。
だが、エリザの魔法は容赦なく、盾を徐々に削り取った。
ヴェルが叫んだ。
「レクト、頑張って! 負けないで!」
カイザも、教室の隅で小さく呟いた。
「ふん……バナナのくせに、しぶといな。」
彼の目は、いつもの嘲笑とは違い、どこか認めているような光を帯びていた。
エリザは結界シールをさらに力強く握る。
彼女の目的は、レクトを校舎外に追い出し、
結界シールで学園の敷地に二度と入れないようにすることだ。
嵐が校舎の外へと広がり、レクトを校庭へと押し出した。
「これで終わりよ、レクト!」
エリザの声が雷鳴に混じり、
校庭に巨大な竜巻が現れた。
レクトは竜巻に飲み込まれそうになりながら、杖を高く掲げた。
「俺は……家族とまた一緒にいたい! そのために、絶対諦めない!」
バナナの杖からまばゆい光が放たれ、竜巻を一瞬だけ押し返した。
バナナの形をした光の波が、嵐を切り裂き、エリザの動きを止めた。
エリザは一瞬、息をのんだ。
「なんて力……あんた、こんな魔法でここまで……」
彼女の心に、息子への誇りが芽生えかけた。だが、すぐにそれを否定するように首を振った。
「ダメよ! サンダリオス家の名を汚すわけにはいかない!」
彼女はさらに嵐を強め、レクトを校庭の端まで押し出した。
「……っ」
ついに、レクトは校舎の外、
校庭の中央に立っていた。
嵐は校庭全体を覆い、木々が倒れ、地面が削れるほどの猛威を振るった。
レクトはバナナの杖を握り、フルーツの光で身を守りながら、エリザを見つめた。
「母さん、俺、ちゃんと話したい! なんで、こんなことするんだよ……っ!」
彼の声は、嵐の中でもまっすぐに届いた。
エリザは結界シールを手に掲げ、
呪文を唱え始めた。
校庭の地面に光の魔法陣が現れ、結界シールの封印が完成しようとしていた。
「話すことなんてないわ! あんたはここから出て行くのよ!」
彼女の声は強かったが、目には涙が滲んでいた。彼女は気づいていなかった。
自分の手が震え、呪文がわずかに乱れていることを。
レクトは最後の力を振り絞り、
杖から巨大なバナナの光を放った。
光は嵐を突き抜け、エリザの魔法陣を一瞬だけ揺らした。
だが、それでもエリザの嵐は止まらず、レクトは校庭の端、敷地の境界まで押し出されたまま。
「これで……終わりよ。」
エリザは結界シールを地面に貼ろうとした。
その瞬間、
彼女の目から
涙が
こぼれ落ちた。
「っ……どうして……」
彼女の手が止まった。
結界シールを貼ることができなかった。
息子の道を閉ざす罪悪感が、彼女の心を押し潰した。
エリザは膝をつき、
結界シールを握り締めた。
嵐が一瞬弱まり、雨だけが静かに降り続けた。
彼女の心に、幼いレクトの思い出が蘇った。
まだ小さかったレクトが、
庭でリンゴを手に笑う姿。
その他いろいろ。
エリザはいつも厳しかったが、内心では息子の笑顔を愛していた。あの頃のレクトは、どんな出来事も純粋に楽しんでいた。
「レクト……あんた、こんなに立派になって……」
エリザは呟き、涙を拭った。彼女は立ち上がり、レクトを見つめた。
「レクトの魔法、馬鹿馬鹿しいと思ってた……っ、でも……十分強い魔法使いよ……。
ごめんなさい、レクト。」
彼女の声は震え、初めて母としての温かさが滲んだ。
「私にはこのシールを……
貼ることが出来ない……!!!!」
レクトは目を瞠った。
「母さん……」
彼は一歩踏み出そうとしたが、嵐の残響が彼を押し戻した。エリザは首を振った。
「でも、まだ……私はレクトの魔法を完全に認められない。、……まだ…………っ、」
その時、重い足音が校庭に響いた。
校長のアルフォンスが現れた。
白髪の老魔法使いは、威厳ある目でエリザを睨んだ。
「エリザ、君は追い払ったはずだ。なぜ校舎内に無断侵入し、こんな騒ぎを起こした!」
アルフォンスの声は雷鳴のように響き、エリザは一瞬縮こまった。
「……私の過ちです。学園に、フロウナに、そして……レクトに謝ります。」
彼女は深く頭を下げ、遠くの塔にいるフロウナ先生を解放する呪文を唱えた。
エリザはもう一度レクトを見た。
「レクト、今日のことは……もう、忘れなさい。
と言ってもまぁ、無理だろうけど……、、
ごめんなさい」
彼女は結界シールを握り、
魔法で嵐を呼び戻した。
だが、それは攻撃ではなく、彼女自身を包む嵐だった。
風と雷が彼女を覆い、まるで逃げるように姿を消した。
「母さん!」
レクトの叫びは、嵐の残響に飲み込まれた。
校庭は静けさを取り戻し、雨だけが地面を濡らしていた。
塔からフロウナ先生が到着し、レクトの肩に手を置いた。
「君の魔法、素晴らしいよ。サンダリオスの血が、ちゃんと宿ってる。」
レクトは俯き、杖を握り締めた。
「母さんが……認めてくれた。でも、完全にはまだ……」
彼の声は小さく、涙が滲んでいた。
ヴェルが駆け寄り、抱きついた。
「レクト、すごかったよ! 絶対、もっと強くなるよ!」
カイザも近づき、鼻を鳴らした。
「はぁ、かける言葉が見当たらねぇな……」
彼の言葉には、いつもの嘲笑に混じって、わずかな敬意があった。
アルフォンスは校庭を見渡し、呟いた。
「エリザはまだ、自分の心と向き合えていない。だが、
レクト、君の魔法は本物だ。
明日にでもこれからの事について話し合おう。
マジカル共鳴とか、サンダリオスの血とかも……まだ分かっていないだろうしね。」
レクトは頷き、バナナの杖を見つめた。
「はい……俺、絶対諦めません。母さんと、家族みんなと、いつか笑い合える日まで。」
校庭に雨が降り続き、
レクトの決意が静かに響いた。
エリザ、いや、家族との戦いは終わっていない。
始まったばかりである。
彼女が城に戻った今、
レクトの試練は次の段階に進む!
次話 6月7日更新!
コメント
4件