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FORSAKENの神殿の朝は静かだ。
誰もがそれぞれの仕事へ向かい。
今日もまた、終わりのないゲームが始まろうとしていた。
……そのはずだった。
「……ありません。」
Mowlは自室のドレッサーの前で固まっていた。
黄色いリボンを整え。
赤い服の皺を払い。
茶色いマントを羽織る。
最後に愛用品を身につけようとして。
気付いた。
「モノクルが……ない。」
静かな声だった。
しかし本人にとっては一大事である。
Mowlは左目の視力があまり良くない。
モノクルがなければ焦点が合わず。
世界がぼやけてしまう。
「困りました。」
「裸眼では少々……。」
左目を細める。
さらに細める。
限界まで細める。
「……。」
「見えませんね。」
仕方なく。
右目だけを頼りに部屋を歩き始めた。
だが。
これが大問題だった。
黒ハチワレ猫の可愛い顔。
そこへ。
片目だけを極限まで細め。
顎を少し引き。
相手を凝視する姿勢が加わる。
結果。
出来上がったのは。
可愛い猫ではない。
極道だった。
神殿の廊下。
ノスフェラトゥは日焼け止めを丁寧に塗り込んでいた。
「今日は日差しも強そうですね……。」
ふと前を見る。
「……。」
誰かが歩いてくる。
片目を細め。
無言でこちらを見つめながら。
一直線に。
ずん。
ずん。
ずん。
「……。」
「……。」
「ひっ。」
ノスフェラトゥの背筋が凍った。
(なんだあの顔……!?)
(殺る顔だ……!!)
Mowlはゆっくり近付く。
「……ノスフェラトゥ殿。」
低い。
渋い。
重厚な声。
「あっ!」
「は、はいっ!!」
「私めの。」
「大切なものが。」
「見当たりません。」
「何か。」
「ご存じありませんか。」
ノスフェラトゥの脳裏に。
昨日の出来事が蘇る。
(昨日。)
(Mowl殿の高級ササミ。)
(一口だけ食べてしまった……。)
(大切なものって。)
(命のことか!?)
「しっ、知りません!!」
「私じゃありません!!」
「ごめんなさいぃぃ!!」
Mowlは首を傾げる。
「……そうですか。」
「なら結構です。」
ピントが合わず。
少し苛立って。
「チッ。」
小さく舌打ち。
そのまま歩き去る。
ノスフェラトゥはその場へ崩れ落ちた。
「た、助かった……。」
しばらくして。
アズールとホスフォラスが廊下で話していた。
「あ、Mowl。」
「昨日の換気扇掃除なんだけど——」
Mowlが振り向く。
ぎろり。
片目だけ。
鋭く細めたまま。
「……。」
「何か。」
二人の時間が止まる。
(怖い。)
(怖い怖い怖い。)
(今日のMowl怖い。)
アズールは勢いよく頭を下げた。
「掃除なら全部やります!!」
「触手総動員で!!」
「換気扇も!」
「窓も!」
「床も!」
「全部磨きます!!」
ホスフォラスも泣きそうだった。
「僕も!」
「尻尾切って猫じゃらしにしてください!!」
「だから睨まないでぇぇ!!」
「……。」
Mowlは心底不思議そうだった。
(なぜ。)
(皆様。)
(怯えておられるのでしょう。)
(私は。)
(落とし物を探しているだけなのですが。)
見つからない。
ならば。
上から探そう。
「失礼。」
ぽん。
一瞬で姿が変わる。
頭は猫。
体はフクロウ。
翼を広げる。
そして飛び立った。
ただし。
片目は。
まだ極限まで細い。
パタパタ。
パタパタ。
神殿の天井付近を旋回する。
真下を見つめる。
ぎろり。
「ひぃぃぃ!!」
「猫だ!!」
「フクロウだ!!」
「いや両方だ!!」
「しかも空からメンチ切ってる!!」
神殿中が大混乱になった。
ノスフェラトゥは柱へ隠れ。
ホスフォラスは尻尾を抱えて丸まり。
アズールは触手四本で顔を隠す。
「悪夢だ……。」
「FORSAKENの殺人鬼より怖い……。」
その頃。
玉座の間では。
スペクターが床に落ちた何かを拾っていた。
「あれ。」
「Mowlのモノクルだ。」
昨日。
可愛がって頭を撫で回した時。
外れてそのまま落ちていたらしい。
「あ。」
「探してたのこれか。」
廊下から悲鳴が聞こえる。
スペクターは首を傾げた。
「何だろう。」
廊下へ出る。
そこには。
配下たちを恐怖のどん底へ叩き落としている。
猫頭フクロウが飛んでいた。
「Mowlー!」
スペクターが大きく手を振る。
「君のモノクル。」
「ここだよー!」
「……!」
Mowlはぴたりと止まる。
一瞬で降下。
スペクターの前へ着地した。
ぽん。
元の姿へ戻る。
「スペクター様!」
「見つけたよ。」
スペクターは優しくモノクルを左目へ掛けてあげる。
カチ。
ぴたり。
「……。」
「おお。」
左目が開く。
世界がくっきり見えた。
「ありがとうございます。」
「これで。」
「正常に見えます。」
さっきまで極道だった顔が。
一瞬で。
いつもの知的で可愛い猫紳士へ戻る。
耳も穏やか。
表情も柔らかい。
Mowlは何事もなかったように一礼した。
「失礼いたしました。」
「モノクルがなく。」
「少々。」
「表情が硬くなっていたようでございます。」
少し離れた場所で。
三人が呆然としていた。
ノスフェラトゥ。
アズール。
ホスフォラス。
「……。」
「……。」
「……。」
三人同時に叫ぶ。
「ただの視力の問題だったのぉぉぉぉぉ!!」
スペクターはそんな三人を見て笑った。
「でも。」
「どっちのMowlも可愛いよ。」
そう言って。
いつものように。
ぐしゃぐしゃ。
わしゃわしゃ。
全力で頭を撫で回す。
「ミシッ。」
「ミシミシ。」
「あぁ……。」
Mowlは遠い目をした。
「スペクター様……。」
「首骨が。」
「正常な位置から。」
「少々。」
「旅立とうとしております……。」
「大丈夫!」
「可愛いから!」
「その理屈は。」
「毎回理解できません……。」
今日も神殿は。
少し騒がしく。
そして少しだけ平和だった。
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城プル
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ゆ
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