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「……これはどういうことかな?」
見事な中年太りの男は、戸惑いと呆れとその他もろもろが込められた言葉を吐く。男は会社の社長であり、ここは当然社長室。大きく立派な机には高級キーボードや、ボールペンなんかの仕事道具が並べられている。入口のそばには眼鏡をかけた、いかにもな秘書までいた。
二人、いや一人は突然呼ばれたことだから、一体いかようかと緊張していた。が、写真を見せられた今、そのような感覚は消えていた。そのような段階を飛び越えて、もはや焦りにまで達したからである。いつ撮られただとかは割とはっきりとしていたし、正直どうだってよかった。
不安要素はただ一つ――ここでへまをして認めるを得ない状況となる事だ。
晃一は聞こえない程度につばを飲み込む。時計の針は午前九時を嚙んだ。
午前九時。噴水前の時計眺め、冬馬は今一度気合を入れなおす。大きな深呼吸をし、青い空を眺めた。今日は天気予報によれば一日中晴れとのこと。どうか幸せな日となることを祈るばかりであった。
「ごめーん、待った? ……なんちゃって」
呆気に取られているうちに、そこにいた美蘭に焦って意味不明の言葉を束に続ける。天気がいいですねだの、日経株価がどうだの、電波による思考盗聴が危険だの。とにかく色々な言葉が何の文脈もなく飛んだと思う。
彼女はそんな僕を年下としてかわいく思ったのか、ただ笑ってくれたので、若干という言葉で収まりいらないほど悔しくとも安心できた。
そのうえで、落ち着いを取り戻せた僕の「いえ、ぜんぜん」の言葉でデートが始まった。