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村へ戻ると「主様、お帰りなさい。」そう火楽が言った。瑛斗も「お帰りなさい。」と言ってくれた。
村は穏やかな雰囲気に包まれていた。風に揺れる木々のざわめきと、遠くから聞こえる子どもたちの笑い声が咲莉那を迎えるように響いていた。「もうそろそろ出発しよう。白華楼に見つかったら、ただじゃすまないからね。」咲莉那が言うと、秋穂が優しく笑いながら手を振った。「そっか、気をつけてね。またいつでも戻ってきてね。」その言葉に咲莉那は短く頷き、心の中で感謝の念を抱いた。仲間たちの温かい言葉が、彼女の胸に静かに響いていた。
火楽と瑛斗はそれぞれ背負った荷物を調整しながら、咲莉那の言葉に応じて動き出した。そして、三人は再び旅に出るのだった。
旅を再開した瑛斗たちは、のんびりと道を歩いていた。「まだ村は見えないかな~?」と咲莉那が言いながら歩いていると、「主様、ほらあそこ、村が見えますよ」と火楽が言う。「おお、ホントだ!よし!行こう!」と咲莉那がルンルンで歩き出した。
道の先に広がる村の景色はどこか穏やかで温かさに満ちていた。村の中央には小さな噴水があり、子供たちがその周りを走り回って楽しそうに遊んでいる。商人たちは商品を並べながら明るい声で呼びかけ、人々がその場で談笑していた。「なんだか平和で良さそうな村だね。」咲莉那は微笑みながらその風景を眺めた。
森の中に足を踏み入れると、霧が漂い、日光は木々の隙間から細く差し込むだけだった。すると、どこからか慌ただしい足音と、かすれた声が聞こえてきた。「助けてくれ!」という叫びが木々の間を駆け抜け、咲莉那たちは立ち止まった。
声の主は傷だらけの妖怪たちだった。その表情には恐怖と疲労が滲んでおり、まるで追われているようだった。「どうしたんだ?」火楽がすぐに声をかけると、妖怪たちは息を切らせながら答えた。「大物妖怪が…オレたちを…無理やり使役しているんだ…助けてくれ!」
その言葉に、咲莉那の表情が引き締まった。「詳しく話してくれる?」と彼女が冷静に尋ねると、妖怪たちは震えながらも事情を語り始めた。
「妖怪が、オレたちの村にある食べ物や資源を全部独り占めしているんだ…」
その妖怪は、涙目で震えながら続けた。「あいつは強すぎて、誰も逆らえないんだ。オレたちは飢え死にするしかないのか…」
咲莉那はその言葉に眉をひそめた。火楽は険しい表情で頷きながら、「なるほど、だから森の中もどこか静まり返っているわけですね。」と呟いた。瑛斗も静かに考え込みながら、「ただの盗人ではなく、恐怖で支配しているのか…」と口にした。
「それで、そいつの居場所はわかるの?」咲莉那が問いかけると、妖怪たちは首を振った。「いつも突然現れては暴れ、すべてを奪い取るんだ…オレたちには何もできない。」その言葉に、咲莉那の目に炎のような意志が灯った。
「行こう。私たちがどうにかする。」咲莉那のその力強い言葉に、火楽と瑛斗も頷き、行動を開始した。
森の奥深くで捜索を続ける咲莉那たちの前に、突然異様な空気が漂った。霧が濃くなり、周囲の木々がざわめくように揺れ始めた。その時、低く響く声が森を切り裂いた。「なんだおめぇら、またきたのか…」咲莉那たちは足を止め、音の方を見つめた。
その声の主は巨大な影の中から現れた。鋭い牙と異様に光る目を持つ大物妖怪が、冷たい視線で彼らを一瞥する。彼は咲莉那たちをじっと見つめた後、「ん?いや、違うな…誰だ?」と不敵な笑みを浮かべた。その声には余裕と威圧感があり、咲莉那たちに迫る危機がじわじわと感じられた。
火楽はすぐに警戒態勢に入りながら低く呟いた。「…こいつが例の大物妖怪だな。」瑛斗も刀を握りしめながら周囲を見渡した。「気を抜くな。いつ何をしてくるかわからないぞ。」咲莉那は一歩前に進み、冷静な表情を浮かべながら大物妖怪を見据えた。
大物妖怪は咲莉那たちをじろりと見下ろしながら、口元に不敵な笑みを浮かべた。「なるほど!人の子か!ハハッ、俺様も舐められたもんだなぁ。」彼の声は森中に響き渡り、まるで木々も怯えるようにざわめいた。
火楽はすぐに身構え、鋭い視線で相手の動きを見極めようとしていた。「…主様、ここは慎重に。」一歩後ろに下がりながら、咲莉那は静かに彼を睨み返した。「舐められたのはどっちか、これから見せてあげる。」
瑛斗も刀を構え、周囲の地形を確認しながらつぶやいた。「油断できない相手だな。でも、やるしかない。」
三人はそれぞれの得意技を駆使し、大物妖怪を追い詰めていった。火楽の炎は森の空気を熱し、瑛斗の迅速な動きが敵を翻弄し、咲莉那は冷静な判断で攻撃の隙を見つけていた。「やるじゃねぇか、人間のガキども!」大物妖怪はうなり声を上げながら睨みつけた。
だが次の瞬間、大物妖怪は大きく手を振り上げ、怪しい霧の中から何十匹もの手下を呼び寄せた。小型の妖怪たちが一斉に現れ、森の中を埋め尽くすように襲いかかってきた。「これじゃきりがない!」瑛斗が叫びながら次々と敵を斬り倒していく。
火楽は手下たちをまとめて炎で一掃しようと試みるも、次々と押し寄せる敵に苦戦していた。「主様、大物妖怪に集中してください!私がこっちは何とかします!」火楽のその言葉に、咲莉那は大物妖怪を鋭く見据えた。「やるしかないね…」と呟きながら、彼女は大物妖怪へと突撃を開始した。
咲莉那が大物妖怪に刃を向けながら戦っているその瞬間、背後で奇妙な気配を感じた。「…何?」咲莉那が振り返ると、手下たちが何かを袋から取り出し、霧のように粉を振り撒き始めた。
その粉が空中に舞い上がり、咲莉那たちを包み込む。粉に触れた瞬間、体が重くなり、視界がぼやけ始める。「これって…毒か何か…?」咲莉那は眉をひそめ、必死に冷静さを保とうとしたが、感覚が鈍り始めたのを感じた。
「くっ…こんな姑息な手を!」火楽が声を荒らげながら炎を吹き上げ、粉を焼き払おうとするが、次々と撒かれる粉の量に圧倒されていた。一方で瑛斗は手下たちを必死に迎撃しながら、「何とかしてこの粉を止めないと…!」と叫んでいた。
その間も大物妖怪は不敵な笑みを浮かべ、「どうした人間ども、もう動けないのか?」と挑発的に声を張り上げた。
手下たちが撒いた粉が宙を舞い、咲莉那の目に入りそうになる。「っ…!」咲莉那はとっさに目を瞑り、周囲の気配に集中した。その瞬間、大物妖怪が声を上げて動き出した。「今だ!」鋭い爪が咲莉那に向かって振り下ろされる。
咲莉那はその気配を感じ、寸前で体をひねってかわそうとした。しかし、完全には避けきれず、鋭い爪が彼女の腹を掠めた。「くっ…!」激痛が走り、咲莉那の体勢が一瞬崩れる。彼女は手で傷口を抑えながら後退し、大物妖怪を鋭い視線で睨んだ。
「どうした、人間の小娘よ!その程度か!」大物妖怪は嘲笑を浮かべながら咲莉那を挑発する。その声に、咲莉那はゆっくりと深呼吸をし、痛みを押し殺して立ち上がった。「そんな挑発に乗るほど甘くないよ…!」彼女の声には決意が宿っていた。
その様子を見ていた火楽と瑛斗はすぐに咲莉那の状況に気づき、それぞれの役割を果たそうと動き出した。「咲莉那を援護する!」瑛斗が叫びながら手下たちに向かって突進し、火楽は炎を駆使して大物妖怪の動きを封じようとした。
そして三人はついに大物妖怪を倒した。火楽の炎が最後の一撃を放ち、瑛斗が手下たちを一掃する中、咲莉那は力を振り絞り、大物妖怪にとどめを刺した。しかし、その直後、咲莉那の体がふらりと揺れ、地面に崩れ落ちた。「主様!」火楽が駆け寄り、咲莉那の状態を確認すると、腹の傷から大量の血が流れていた。
「出血がひどい…このままでは危険です!」火楽は焦りながら瑛斗に指示を出した。「瑛斗、主様を抱き抱えてください!急いで村の医者のところへ!」瑛斗はすぐに咲莉那を抱き上げたが、その瞬間、何か奇妙な違和感を覚えた。
。咲莉那の体が異様に軽く感じられたのだ。「…何だ、この感じは?」瑛斗は一瞬考え込んだが、火楽に急かされる声に我に返った。
「瑛斗、早く!」火楽の言葉に従い、瑛斗は咲莉那をしっかりと抱き抱え、村へと急いだ。村に着くと、火楽が医者の家を見つけ、扉を叩きながら叫んだ。「助けてください!」医者はすぐに咲莉那を診察し、手当てを始めた。
医者が「もう大丈夫です。」と言うと、火楽と瑛斗は安堵の息をついた。傷の処置が済んだ咲莉那は穏やかな表情を浮かべて眠っていた。しかし、医者の顔には、安堵だけでない何か不安げな表情が浮かんでいた。
瑛斗はその曇った表情に気づき、静かに尋ねた。「先生、何か問題でもあるのでしょうか?」医者は一瞬言葉を詰まらせた後、ゆっくりと答えた。「傷口を確認した際に、不自然に出血量が多かったのです。普通の怪我ではありません。何か心当たりはありませんか?」
それを聞いた瞬間、瑛斗はハッと息を飲んだ。「そうか…あの粉だ!」彼の脳裏に戦いの最中、大物妖怪の手下たちが袋から撒いていた粉の光景が鮮明に浮かび上がった。「あの粉、ただの妨害ではなかった…出血を促進させる効果があったんだ!」
火楽はその言葉に目を見開き、すぐに医者に向き直った。「それが原因かもしれません。治療にその情報を役立てられますか?」医者は真剣な表情で頷き、咲莉那の傷を再度確認した。「確かに、通常の傷よりも出血が激しいのは妙でした。何らかの薬草や治療法を急いで探す必要があります。」
火楽はすぐに立ち上がり、「瑛斗、私が周囲で薬草を探そう。その間、先生と咲莉那を頼む!」と力強く言い放った。瑛斗も意を決して頷き、「わかりました、火楽様。気を付けて。」と答えた。
火楽は森の奥深くで薬草を探し続ける中、ふと背後から声をかけられた。「火楽様、先ほどはありがとうございます。」振り返ると、さっき助けを求めてきた妖怪たちが集まっていた。
火楽は彼らの存在に安堵しつつも、焦りを隠しきれず、険しい表情で口を開いた。「ちょうどいいところに、お前ら手を貸してくれないか!」妖怪たちは驚いたように目を見開き、「どうされたんです?」と尋ねた。
火楽はすぐに事情を説明した。「主様が、あの妖怪の手下の攻撃を受けて、危険な状態なんだ。薬草を探しているところだが、手伝ってくれないか?」彼の真剣な声に、妖怪たちの表情が引き締まった。「なるほど、そういうことですね。お任せください!」妖怪たちは素早く動き始めた。
その中のまとめ役の妖怪が仲間たちに声を張り上げた。「いいか、お前ら!火龍様と火龍使い様は恩人だ。絶対に助けるぞ!」その言葉が響くと、妖怪たちは団結して森の中を駆け回り、薬草を探し始めた。
火楽はその様子を見守りながら、心の中で静かに感謝した。「助けてくれて本当にありがたい。これで主様の命を救う可能性が広がる…。」
咲莉那は医者の家でゆっくりと目を開け、火楽と瑛斗がそばにいるのを見て微笑んだ。「もう平気だから心配しないで。」その言葉に、二人は目に見えて安堵した様子を見せた。
旅の準備を進めている最中、咲莉那はふと立ち止まると、思い出したように口を開いた。「そういえば…他の龍使いにしばらく会っていない。」その言葉に火楽も頷き、「確かに、他の龍使いたちが何をしているか分かりませんね。一度、様子を見に行ってみては?」と提案した。
瑛斗は考え込んでいたが、「龍使いたちが最後に報告された場所を確認しましょう。そこから足取りを追ってみるのが良さそうです。」と提案した。その言葉に咲莉那が笑顔で頷くと、三人は荷物をまとめて新たな目的地へと旅を再開した。