唐突に浮上した俺の意識が感じたのは、心地よい揺れ。
俺はまるで羊水を揺蕩う赤子の様に、ただそれに身を任せ目を瞑っていた。
何故 こんな場所にいるのか、何故 意識があるのに目を開けることが出来ないのか。
そんな疑問は浮かびそうになっては泡になって消えていく。
揺れる、揺れる、揺れる。
その内 この自我の様なものでさえ、水に溶けていく。
俺が俺でなくなっていく。
俺という存在が、泡沫の様に消えていく。
……それは、なんて恐ろしいことなのだろうか。
透明な水に絵の具を1滴垂らしたように、その感情は瞬く間に広がっていく。
その瞬間、もう動かないはずの体が消えたくない、と悲鳴をあげるように動き出した。
既に俺は人と呼べる形を保っていなかっただろうが、それでも 溶けかけた腕をを必死に助けを求めるように伸ばす。
消えるなんて嫌だ、俺を救ってくれと。
零れ落ちていく俺を掬ってくれと。
まだ 死にたくないと………
「そうか、きみは死にたくないんだな。なら俺を使えばいい。俺はもう…………疲れたんだ。」
俺の全てが零れる瞬間、白い神様の声が聞こえた気がした。
………
……
…
次に俺の意識が戻ったのは、赤黒い血が四方に飛び散った和室でだった。
次に鼻に来る鉄臭さと腐敗臭。
俺は思わず着ていた白い羽織で鼻を抑える。
………白い羽織?そんなもの持っていただろうか、と首を傾げていると 足元から びちゃりと濡れた音がした。
反射的にそちらに視線を向けてしまい、俺は思わず ひっ、と声を漏らして後ずさる。
「つる、 つるま…………俺の……俺の……っ!」
そこに居たのは、両目を潰され、足を折られ、胴を切り裂かれながらも 何かを乞うように俺の足に縋りつく男の姿だったのだから。
「つ、つる?どういう…あ、………そうだ 警察……!!スマホは…」
俺は気が動転していたのか、自らの容姿が前とは似ても似つかないものになっていることには気付かず ポケットの中を漁ろうとする。
勿論、今俺が着ている白い着物にポケットなどあるはずがない。
そうしている間にも、男は少しずつにじり寄ってくる。
「俺の、俺だけの……!は、はは…!」
ぐちゅり、ぐちゅりと胴の傷に障るのも気にせずに 体全体を揺らして男は笑った。
壊れたように つるまる、つるまる、と繰り返す男に俺は体を強ばらせる。
「つるまるって誰だよ…!スマホも何故か持ってねえし、くそっ…。」
俺は恐怖と苛立ちが綯い交ぜになり、思わず悪態を零す。
もう己の1歩先まで迫ってきている男にもう一歩下がろうとしたのだが、後ろは壁でこれ以上は下がれない。
元々血の気のない顔を更に青ざめさせた時……壁に何かが当たって かん、と音を立てた。
「……刀?」
なんと、何故か俺は白い鞘に金の鎖がついた素人目に見ても凄そうな刀を持っていたのだ。
俺はこちらに近づいてくる男と刀を交互に見て、ごくりと唾を飲み込む。
勿論俺は剣道部などに入ってはいなかったし、インドア派の陰キャだ。
剣道どころか運動さえしていない、非力なもやしである。
……だが、背に腹はかえられない。
相手が誰か、ここが何処かも分からないが これは正当防衛だ。
俺は自分に言い聞かせるように そう何度も頭の中で繰り返すと、その刀をすらりと引き抜いた。
「…綺麗だな…。」
改めて見たその刀身の美しさに、俺は少し罪悪感を抱く。
誰のものかは分からないが、こんなに刃こぼれもなく美しいのだから大切にされてきたのだろう。
それをこのよく分からない男の血で汚してしまうのは申し訳ない。
けれど躊躇っている暇はないのだ。
「つるまる……?お前、何を…」
俺が何をしようとしているのか気づいたのか、目の前の男は壊れた笑みから一転、表情を恐怖で染める。
そんな男に向かって俺は刀を振り下ろした。
……自分が無意識に笑っていることにも気づかず。
「鶴さん……っ!駄目だよ!!!」
「えっ、…は!?」
しかし、結果的にその刀が男に刺さる事はなかった。
唐突に障子を蹴り破る部屋に入ってきた眼帯をした男が、刀が当たる前に男を思いっきり蹴り飛ばしたからである。
余程強く蹴られたのか、男は跳ねるようにして吹っ飛ばされ壁に打ち付けられる。
その衝撃に男は呻き声を上げる暇さえなく失神したようで、ぴくりとも動かなくなった。
「大丈夫?、鶴さん。というか、顕現されたばかりなのに軽率に堕ちる様なことしないで貰えるかな!?」
そして眼帯の男はそんな男に見向きすらせず、 間抜け面で呆けているであろう俺の前へ寄ってくる。
「…え、どういう…というかあの男は…?」
あまりに怒涛の展開についていけない俺だったが、なんとか疑問を絞り出す。
眼帯の男はその言葉に苦虫を噛み潰したような表情になるが、その後 取り繕うように人の良さそうな笑みを浮かべた。
「ううん、なんでもないよ。『主』だったものの事なんてどうでもいいでしょ?……本当はもう少し片付いてから迎えたかったんだけれどね。」
「え、ある…いや、そうか……。」
『主』という聞き慣れない単語に聞き返しそうになるが、その眼帯の男の笑っていない目を見て口をつむぐ。
助けてくれたといえども、相手は 肥えた男を一蹴りで吹き飛ばす程である。
変に刺激するのは良した方が良いだろう。
眼帯の男は いきなり黙った俺を不思議そうに見やるが、唐突にそうだ、と声を上げる。
「この本丸を案内するよ。ほら行こう、鶴さん。」
「はあ?本丸?というか鶴さんて…っ!」
誰?と続けようとしたが眼帯の男に背を押され この血濡れの和室から 押し出される。抵抗しようとするも、この眼帯男 ホストのような容姿をしている割には力が強い。結局俺はそのまま眼帯男とこの本丸……と呼ばれているらしき場所を回る羽目になってしまった。
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この先は本丸を回る内に御神刀あたりに鶴丸国永と人の魂が混ざってることがバレると思う。
でもつまりは審神者としても生きれるってことだから、最初にあった燭台切あたりが主人公を審神者に推薦。
最初は本丸の皆にも反対されるけど、鶴丸が助けた人間ということで無碍に殺すことは出来ず とりあえず離れに監禁。
けどなんやかんやあって(適当か)和解して 審神者なって!
演練とかで 鶴丸似の審神者が居るとかで有名になってほしいなあ()
以下設定⤵
主人公(鶴丸国永)
前世で死んだところ、本霊に戻れず消滅しそうになっていた鶴丸国永によって体を与えられて助けられる。
体と言っても本体は刀なので与えられたのは鶴丸の魂のようなもの。
それによって 今は鶴丸としての人格と元の人格が混ざっている。
名前など細かなことは分からないが、人を殺すのに躊躇がなかったのはその為。
更に言うと容姿も本来の鶴丸国永とは少し 違っている。
容姿も喋り方もおかしい鶴丸国永に燭台切が違和感を抱かなかったのは、燭台切も堕ちかけていた為。
(主に手を上げることは出来ないはずなのに、思いっきり蹴り飛ばしたことなど。)
ちなみに前世では病弱で、あまり動くことが出来なかった。
それにより自分の心が動くような事を常に求めているような性格であり、鶴丸国永と波長があったと言える。
コメント
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すっごい面白かったです! 刀剣乱舞の成り代わりあんま見ないから嬉しい…( ;; ) 更新待ってます!!