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 ✧≡≡ FILE_035: 電磁波 ≡≡✧
 [ヴォクスホロウ研究所・地下第七分析室]

 爆弾の構造データを、ワイミー博士がホロモニターに映し出す。

 その横で、ひとりの少年がじっと画面を見つめていた。

 ワイミーは、その横顔を見ていた。

 歳は、まだ8つ頃か?

 だが、その瞳の奥には、何かが燃えていた。

 自分が信じたものの代わりに戦う者だけが持つ、“光”を。

 「臨界温度は28.7度以上。外気温では超えないが……“爆弾の内部で電気が発生”している以上、いつ臨界に達するかわからない」

 ワイミーの言葉に、少年はうなずいた。

 「つまり──温度の問題ではなく、“中の電気”が問題ってことですね?」

 「……あ、ああ」

 理解の速さは、8歳のそれとは思えなかった。

 「中に蓄積された電気が、“光”となって放出される。過去の臨界事故と同じだ」

 少年は椅子の上で膝を抱えるように座ると、まるで報告書でも読むように口を開いた。

 「Q(犯人)は、どうやって爆発させるつもりでしょうか?」

 「……恐らくは、爆弾自体の温度を28.7度以上に上昇させ、ルミライトを臨界に導くつもりなのだろう。外気温は低いが、内部に発熱素子を仕込んでいれば──」

 「それじゃ、遅いです」

 少年の声が、ワイミーの言葉を切った。

 「……遅い?」

 「“28.7度に到達するまでの時間”が、あまりに読めません。不確定要素が多すぎます。爆弾を“予告どおり”に起爆させるには、もっと確実な方法が必要です」

 ワイミーは言葉を失ったまま、少年の目を見つめた。

 「Qは、“近づいたら爆発させる”と言っていました。つまり、あの爆弾には“即時性のあるトリガー”が組み込まれている可能性が高いです」

 「……それは、遠隔からの起爆か……?」

 「はい。“28.7度”はあくまで物理限界。“人の意思”で起爆するにはそれでは遅い。だから、爆弾は監視カメラなどで見張られている。リアルタイムで状況を把握し、犯人の指一本で瞬時に世界を焼ける構造になってるはずです」

 「……」

 ワイミーは、何も言えなかった。

 子どもが語っているとは思えなかった。その口調には、確信めいた冷静さがあった。

 「……ならば、起爆方法はおそらく“電力の遮断”だろう」

 ワイミーは、研究室に拡げられた資料の山から電線図面を拾い上げた。

 「超伝導状態で電流を流し続けるループ構造なら、通電が断たれた瞬間、磁束が崩壊し、溜まったエネルギーが一気に熱へ変換される──“電気を止めたら爆発する”。それが最も単純で、確実なトリガーだ」

 少年が動いた。

 椅子の上で、そっと膝を抱えこむ。

 細い足を胸に寄せ、体を小さく丸める。

 そしてゆっくりと──親指を口に入れた。

 かすかに、“ちゅ”と湿った音がした。

 咥えた指先を軽く噛みながら、少年はホロモニターをじっと見つめたまま動かなかった。

 目だけが、研ぎ澄まされた刃のように光っていた。

 「……電気を……止めちゃいけないんですよね」

 親指を口から離さずに言う。

 声は幼いのに、言葉だけが妙に冷静だった。

 「爆弾の核は中に溜まった電気。電気を止めたら爆発する。でも、近づいたら……それも起爆につながる。そして……放っておけば、内部の電気が増えて……いずれ臨界で爆発する……」

 ひとつずつ条件を積み重ねるたびに、少年の瞳は鋭さを増していった。

 「起爆は避けられない、か……?」

 噛んでいた親指をゆっくり離し、湿った跡のついた指を、膝の上にそっと置いた。

 「爆弾の“中の電気”を抜き取る方法があれば──爆発は最小限で済む」

 ワイミーは顔を上げた。

 その時だった。


 ──グラリッ!


 重たい、地鳴りのような揺れが床を突き上げた。

 研究室の壁が軋む。

 棚に置かれた資料が雪崩のように崩れ落ちた。

 「地震……!? 違う……これは──!」

 「ワイミーさんッ、下がってください!」

 少年が、反射的にワイミーの腕を引いた。

 刹那、研究棟の西側から白い閃光が走った。

 目を焼くほどの光。

 ──次の瞬間、照明が一斉に落ちた。

 ワイミーが非常灯を手探りで点ける。

 空気が震えていた。

 「電源が……全部、落ちた?」

 「EMP(電磁パルス)か?」

 「EMP?」

 「強い爆発が起きた時に発生する、“目に見えない衝撃波”だ。電気を使うものが、一瞬で全部こわれる」

 ワイミーが報道用のモニターを操作する。

 画面は、砂嵐。

 ノイズだけが部屋に響いた。

 「……映らない……!」

 「情報が遮断されましたね……。でも、ひとつ確かなのは──」

 少年は確かな声で言った。

 「今の爆発、あれは“意図的な起爆”じゃない」

 「……なに?」

 「もし犯人が狙っていたなら、こんなに広範囲のEMPを出す必要はない。爆弾が“想定外の臨界”を起こした──つまり、28.7度を超えた」

 ワイミーの喉が鳴った。

 「……ということは、残る3基も──」

 「もう時期爆発するでしょうね……」

 少年が立ち上がる。

 「猶予なんて、もうありません──急ぎましょう」

 彼は立ち上がり、私をじっと見つめた。

 「ワイミーさん、お願いです……! 一緒に爆弾を停めましょう。誰かが……今この瞬間にも、あそこにいるんです──」

ウィンチェスター爆弾魔事件 -完結版-

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