テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あえて伏せていたのに、彼の方から両親の墓参りに行こうと言ってくれた。それが本当に嬉しい。
久しぶりに訪ねた両親の墓は、思ったより綺麗だった。わりと最近、誰かが掃除してくれたのだろう。周りに落ちてる枯葉を拾い、打ち水をするだけで今日はやめておいた。
成哉は花を供え、他に参拝者がいないことを確認した上で高らかに宣言した。
「ただいま、二人とも。この人が俺のダーリン、木間塚准さんだよ」
「ダーリンて……他に言い方ないか。日本語で頼む」
「じゃ、ご主人様」
間違いではないんだけど、彼が言うと引っかかるとは何でだろう。
疑問を胸に抱きつつ、口を閉ざして彼の話を聞いていた。
「……やっぱり戻って来ることにしたんだ。東京は色々すごくて面白かったけど、俺がいる場所じゃなかったんだと思う」
成哉はひとりでペラペラと話しだした。
空いていた時間を埋めるように、ここに眠る両親に向かって、小さなことから大事なことまで。
「しんどいこともたくさんあったけど、行って良かった。この街から出たから、また准さんと逢えたんだ」
弾んでいた声はいつしか鼻声に変わり、足元の砂利石に雫が落ちていた。
成哉は、肩を震わせて泣いていた。
「……っ」
時間が緩やかに流れる。
久しぶりに帰って来た故郷には、両親の墓以外何もなかった。
何も残っていないのは、東京に行く時に全て捨てたからだ。不要な物も必要な物も、大事な思い出も全部、ここに捨てていった。
何も持たずに東京に旅立った。だから独りだった。
そんなことに気付かないなんて、自分は本当に馬鹿だ。
「これから、真面目にやるよ。ちゃんと働くし、寝坊もしないし、お酒も……ちょっと控える。……ちゃんと生きてく。だからごめん。もう一度だけ俺のこと、見ていて……っ」
子どものようにしゃくり上げる成哉の頭に手を置いて、准も屈んだ。
「……うん。俺からも、お願いします」
もうまともに顔を上げられない成哉の代わりに、真っ直ぐ見据えて手を合わせた。
「息子さんのことは絶対、幸せにします。だからどうか、見守ってください」
「うぅっ……准さん……っ……俺もその台詞、いつか准さんのご両親に言ってみたいです」
「あぁ~……いつか、な」
だから今は、この一瞬を大事に。
彼の人生を大きく変えたこの地で、また始めよう。
大丈夫。二人はきっと、泣きじゃくる息子に「おかえり」と言って、笑ってる。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!