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「おっちゃんたち、ちょこちょこ帰って来てる」
「うん、電話で聞いた」
「忠志くんは?」
「うん…あのね……」
私はここで颯ちゃんに、お兄ちゃんとチカさんと会った話をした。
「そうだったか…すごい偶然、必然か?すごいな」
「うん、でもお父さんたちは私が東京にいると知らない」
颯ちゃんは美味しそうに焼酎を啜る。
私のことを酒豪と言ったが、颯ちゃんも強いんだ。
佳ちゃんはあまり強くないけどね。
「まだ言わないのか?」
「…まだかも……」
「どうしてそう思う?」
「自分が耐えられる自信がない……」
女将さんが蛸の陶板焼きと雲丹のご飯を持って来てくれたが、私たちの様子にすっと襖を閉める。
「電話でもお父さん…泣いてたの……会って泣かれても‘何泣いてんのよ’って言えるくらいじゃないと…自分も同じように泣いて泣いて…数ヶ月前に引きずり込まれそうで……ちょっとね…」
お箸を止めてそこまで聞いてから、颯ちゃんはご飯を食べ始める。
「うまっ、リョウも一口食え。絶品」
雲丹といくらの混ぜご飯を私に渡し、今度は蛸をお箸で摘まんだ颯ちゃんは
「リョウの思うようにすればいい」
と蛸を口に放り込み
「うまっ…これも早く食え」
私の口元に蛸を持ってきた。
「ほら」
唇に押し付ける勢いに負けて開けた口に飛び込んできた蛸は
「美味しい…」
「だろ?」
私がゆっくりとモグモグ味わいながら頷くと
「リョウ、慌てず好きに思うようにすればいい。もしも数ヶ月前に戻ったとしても俺が一瞬で引き上げてやる。もうこうして一緒に酒飲んで飯食えるんだから問題ない。怖いもんある?」
颯ちゃんはニカッと笑って見せた。
「颯ちゃんは私と同い年で、でも年下で……」
「同い年でいいだろうが…で?」
颯ちゃんは私をちょっぴり睨むようにして先を促す。
「子どもの時のままだって思うこともよくあるけど……基本的にとても大人だよね」
「それは誉めてんのか?」
「うん、誉めてます」
「もしそうなら、仕事してるからじゃないか?皆が大学に行ってる間に仕事していたから」
「そうかもね。2年ほどかな…あまり会わない時期あったよね」
「リョウが大学の講義が多い2年間だったんだろ」
「えー違うでしょ?颯ちゃんが遊び疲れるほど遊んでた時期でしょ?」
私は知っている…おばちゃんやお母さん経由で間宮兄弟が異常に遊んでいたことを。
「まあ……あの時期があって成長したわ、俺」
「ふふっ、自分で言う?」
「俺だけじゃなく、家でも言われるぞ」
そう言い視線を手元に落とした彼は、おばちゃんたち経由でしか知らない2年間を自分で語り始めた。
まず父親の店を兄弟で手伝ったが、3人も必要なほど仕事がないし十分な給料も出せない。
だから颯ちゃんは店の手伝いと同時にアルバイトもしていた。
ちょっと悪かった高校時代の友達と遊びまわり、彼らが大学で会った人たちも紹介され、男女問わず集まりワイワイしていた。
「でもワイワイ騒ぐのは1年で十分だった。大勢集まっても意味のない、価値のないうわべだけの会話が飛び交う空間が無駄に思えてきた。この時間に自転車いじれる、バイト代をこんな集まりに使っていたら、いつまでも自分の店を持てないって思った。それを周りに言うと理解してくれる奴と‘急に真面目になってダセぇ’と言う奴がいたんだ。ダセぇと言う奴の方が多かったな。それで気づいた……見分けられるようになった。本質的に自分に合う奴と合わない奴。そして、自分に大切なものがクリアになったな」
そう言い彼の視線は、私を真っ直ぐに捉えた。
コメント
1件
2人が接してない次期があったとは。 散々遊んだからこそ気付きもあって、颯ちゃんは早めに気付き自分の道を見つけ自分を信じやってきたんだね。だから熱いし真っ直ぐでブレることのない強さを持っている。 良子ちゃんを支えて寄り添っていけるのは颯ちゃんだね。楽しく飲めて食べれるしね☺️