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#見捨てられた
リコりす@コメントくれ
7,413
静寂。
ダイニングには、テーブルランプの薄い光だけが落ちている。
床には、勝負のあと。
散らばったチップ。
開かれたカード。
冷えたピザ。
そして——
二人。
向かい合ったまま、動かない。
チャンスは椅子にもたれ、どこか満足そうに笑っている。
対するマフィオソは、
ハンカチに包んだ写真をポケットへしまい終えたところだった。
「……」
長い沈黙。
その空気を先に破ったのは、マフィオソだった。
「約束だったな」
低く落ちる声。
チャンスが片眉を上げる。
「ん?」
次の瞬間——
ぐいっ。
「おっと」
マフィオソがチャンスの腕を掴み、そのまま強引に引き寄せる。
椅子が軋む。
そして——
ドンッ。
「……へえ」
チャンスの背中が、テーブルへ押し倒される。
勢いでカードが宙を舞った。
パラパラと、
トランプが二人の周囲に降り落ちる。
スペード。
ハート。
クラブ。
ダイヤ。
まるで賭け事そのものが崩れたみたいに。
「お前も、こちらに来ると」
マフィオソが低く言う。
逃がさないように、
掴んだ腕へ力が入る。
だがチャンスは抵抗しない。
むしろ——
楽しそうだった。
「……はは」
喉の奥で笑う。
「怖ぇな、ボス」
「今さら怖気づいたか」
「まさか」
口元が歪む。
「むしろ逆」
マフィオソはその顔をじっと見下ろす。
サングラス越しに。
ずっと隠されていた、その目を。
「……」
ゆっくりと、
マフィオソの指先がサングラスへ触れる。
チャンスは止めない。
カチャ。
静かな音。
サングラスが外される。
「……」
初めて、ちゃんと視線がぶつかる。
隠されていた目は、
思っていたよりずっと静かだった。
ギラついているわけでもない。
狂っているわけでもない。
ただ——
どこか空っぽで、
どこか飢えている。
「……」
マフィオソの目が細くなる。
「お前は」
低く問う。
「本当は、何が欲しい」
静寂。
チャンスは少しだけ瞬きをして、
それから笑う。
子供みたいに。
でも、
ひどく寂しそうに。
「全部」
即答だった。
「世界中の面白いもの」
「危険なもの」
「綺麗なもの」
「退屈しない時間」
視線が真っ直ぐ向く。
「欲しいもんは全部欲しい」
「……強欲だな」
「知ってる」
笑う。
でもその笑みは、
どこか諦めに近い。
距離が近づく。
あと少し。
本当にあと少しで、
唇が触れそうなところまで。
チャンスは笑ったまま、
逃げない。
「でもさ」
チャンスがぽつりと呟く。
「独り占めは、できなそうだな」
マフィオソの呼吸がわずかに止まる。
——その時。
ガチャーーーン!!
「ボスーー!!」
「無事ですか!!」
「生きてますか!!」
「ただいま戻りましたー!」
勢いよく扉が開く。
沈黙。
完全に固まる空間。
そこにいたのは——
カポ。
ソル。
リエーレ。
ラクティー。
そして。
テーブルに押し倒されてるチャンス。
その上から覆いかぶさるマフィオソ。
床一面のトランプ。
外されたサングラス。
近い顔。
「…………」
数秒。
世界が止まる。
最初に壊れたのはカポだった。
「は???????」
絶叫。
「何してんですかボス!!!」
「うわあああああ!!!」
ソルが真っ赤になる。
ラクティーだけが目を輝かせる。
「わぁ、事後ですか?」
「まだ着てるだろ!!」
カポ即ツッコミ。
リエーレは静かに目を覆った。
「最悪のタイミングですね……」
「違う」
マフィオソが即座に立ち上がる。
「誤解だ」
「どこが!?」
「全部だ」
「全部は無理あるだろ!!」
チャンスはテーブルの上で笑っている。
肩を震わせながら。
「ははっ……」
「最高だなお前ら」
「笑ってんじゃねぇ!!」
カポがキレる。
「ボスから離れろ!!」
「嫌だって言ったら?」
「ぶっ飛ばす!!」
「元気だなぁ」
完全に煽ってる。
「……静かにしろ」
マフィオソの低い声。
全員がピタッと止まる。
そして——
「今日から」
一拍。
「仲間になる」
静寂。
「…………は?」
カポの声が死ぬ。
「嫌です!!」
即答。
ソルまで珍しく大声。
「絶対嫌です!!」
「なんでですか!?」
ラクティーだけ楽しそう。
「いいじゃないですか〜」
「良くねぇよ!!」
カポが叫ぶ。
「こいつ絶対ボス狙ってるだろ!!」
「狙ってるよ」
チャンス即答。
「言うな!!」
さらに地獄。
「……ボス」
リエーレが静かに問う。
「本気ですか」
「……ああ」
マフィオソは短く頷く。
「約束だ」
「約束で人増やすな!!」
カポの情緒が忙しい。
チャンスはゆっくり起き上がる。
トランプを一枚拾う。
ジョーカー。
「よろしくな」
にやっと笑う。
「新しい“家族”」
「嫌だーーー!!」
カポとソルの声が綺麗に重なる。
ラクティーは拍手。
リエーレは深いため息。
そして——
マフィオソだけが、
ほんの少しだけ口元を緩めた。
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