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#chance
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静寂。
ダイニングには、テーブルランプの薄い光だけが落ちている。
床には、勝負のあと。
散らばったチップ。
開かれたカード。
冷えたピザ。
そして——
二人。
向かい合ったまま、動かない。
チャンスは椅子にもたれ、どこか満足そうに笑っている。
対するマフィオソは、
ハンカチに包んだ写真をポケットへしまい終えたところだった。
「……」
長い沈黙。
その空気を先に破ったのは、マフィオソだった。
「約束だったな」
低く落ちる声。
チャンスが片眉を上げる。
「ん?」
次の瞬間——
ぐいっ。
「おっと」
マフィオソがチャンスの腕を掴み、そのまま強引に引き寄せる。
椅子が軋む。
そして——
ドンッ。
「……へえ」
チャンスの背中が、テーブルへ押し倒される。
勢いでカードが宙を舞った。
パラパラと、
トランプが二人の周囲に降り落ちる。
スペード。
ハート。
クラブ。
ダイヤ。
まるで賭け事そのものが崩れたみたいに。
「お前も、こちらに来ると」
マフィオソが低く言う。
逃がさないように、
掴んだ腕へ力が入る。
だがチャンスは抵抗しない。
むしろ——
楽しそうだった。
「……はは」
喉の奥で笑う。
「怖ぇな、ボス」
「今さら怖気づいたか」
「まさか」
口元が歪む。
「むしろ逆」
マフィオソはその顔をじっと見下ろす。
サングラス越しに。
ずっと隠されていた、その目を。
「……」
ゆっくりと、
マフィオソの指先がサングラスへ触れる。
チャンスは止めない。
カチャ。
静かな音。
サングラスが外される。
「……」
初めて、ちゃんと視線がぶつかる。
隠されていた目は、
思っていたよりずっと静かだった。
ギラついているわけでもない。
狂っているわけでもない。
ただ——
どこか空っぽで、
どこか飢えている。
「……」
マフィオソの目が細くなる。
「お前は」
低く問う。
「本当は、何が欲しい」
静寂。
チャンスは少しだけ瞬きをして、
それから笑う。
子供みたいに。
でも、
ひどく寂しそうに。
「全部」
即答だった。
「世界中の面白いもの」
「危険なもの」
「綺麗なもの」
「退屈しない時間」
視線が真っ直ぐ向く。
「欲しいもんは全部欲しい」
「……強欲だな」
「知ってる」
笑う。
でもその笑みは、
どこか諦めに近い。
距離が近づく。
あと少し。
本当にあと少しで、
唇が触れそうなところまで。
チャンスは笑ったまま、
逃げない。
「でもさ」
チャンスがぽつりと呟く。
「独り占めは、できなそうだな」
マフィオソの呼吸がわずかに止まる。
——その時。
ガチャーーーン!!
「ボスーー!!」
「無事ですか!!」
「生きてますか!!」
「ただいま戻りましたー!」
勢いよく扉が開く。
沈黙。
完全に固まる空間。
そこにいたのは——
カポ。
ソル。
リエーレ。
ラクティー。
そして。
テーブルに押し倒されてるチャンス。
その上から覆いかぶさるマフィオソ。
床一面のトランプ。
外されたサングラス。
近い顔。
「…………」
数秒。
世界が止まる。
最初に壊れたのはカポだった。
「は???????」
絶叫。
「何してんですかボス!!!」
「うわあああああ!!!」
ソルが真っ赤になる。
ラクティーだけが目を輝かせる。
「わぁ、事後ですか?」
「まだ着てるだろ!!」
カポ即ツッコミ。
リエーレは静かに目を覆った。
「最悪のタイミングですね……」
「違う」
マフィオソが即座に立ち上がる。
「誤解だ」
「どこが!?」
「全部だ」
「全部は無理あるだろ!!」
チャンスはテーブルの上で笑っている。
肩を震わせながら。
「ははっ……」
「最高だなお前ら」
「笑ってんじゃねぇ!!」
カポがキレる。
「ボスから離れろ!!」
「嫌だって言ったら?」
「ぶっ飛ばす!!」
「元気だなぁ」
完全に煽ってる。
「……静かにしろ」
マフィオソの低い声。
全員がピタッと止まる。
そして——
「今日から」
一拍。
「仲間になる」
静寂。
「…………は?」
カポの声が死ぬ。
「嫌です!!」
即答。
ソルまで珍しく大声。
「絶対嫌です!!」
「なんでですか!?」
ラクティーだけ楽しそう。
「いいじゃないですか〜」
「良くねぇよ!!」
カポが叫ぶ。
「こいつ絶対ボス狙ってるだろ!!」
「狙ってるよ」
チャンス即答。
「言うな!!」
さらに地獄。
「……ボス」
リエーレが静かに問う。
「本気ですか」
「……ああ」
マフィオソは短く頷く。
「約束だ」
「約束で人増やすな!!」
カポの情緒が忙しい。
チャンスはゆっくり起き上がる。
トランプを一枚拾う。
ジョーカー。
「よろしくな」
にやっと笑う。
「新しい“家族”」
「嫌だーーー!!」
カポとソルの声が綺麗に重なる。
ラクティーは拍手。
リエーレは深いため息。
そして——
マフィオソだけが、
ほんの少しだけ口元を緩めた。