テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ん?」
街中で、見覚えのある人を見つけた。
賑わう人中で、カイが誰かとあれこれ指を差しながら楽しげに話している。
一緒に談笑している人は5人ぐらいに見える。
ここでは見ない王子みたいな服装で、赤いマントをたなびかせている。
…王道なコスプレだな。
でも陳腐な雰囲気には見えない。
…素材がいいんだろうな。
そんなことを考えながら物珍しさに見惚れていた。
…にしても、人数結構多いな。怖っ。明らかに陽キャだし。
まあ、話しかけないでおくか。
そう思ってやや俯きがちに通り過ぎようとしたところ。
馬の嘶きと共にガラガラガラ、と車輪が激しく石畳を飛ばす音が聞こえた。
思わずそっちの方向を見ると、モーゼの海の如く別れたその道の真ん中に、男の子がちょうどしゃがみ込んでいた。
危ない、と足が思わずぴくついて動きかけたが、うまく動かない。
走れない足がとても憎らしい。
思わず目を瞑ってその時を待った。
その時。
「ウワーーーーっ!!」
その声と共に2度目の嘶きとともに横転の音が聞こえる。
激しく車輪の回る音が響き、やがて止まった。
唐突の静寂の中で人のざわめきが聞こえる。
「危ねえ!」
「大丈夫?」
恐る恐るその声のあたりを覗き込めば、カイと先ほどの男性が子どものもとへ集まっていた。
「怪我はない?危ないから気をつけるんだよ」
そう声をかけられた小さい男の子は頷くと、顔を背けて走り出した、
…とりあえずは一件落着か。
安心して一歩踏み出すと。
「イテテテテテ!」
何か痛がる声を聞いてまたその方声を向いた。
…久しぶりだったものの、職業病は健全だったらしい。
さっきより分散して見やすくなったそこを見やると、痛がっているのは蹲っている男だと分かった。
「どうしたん?」
「さっき馬車に轢かれたんじゃない?」
「ここ病院的なとこあります?」
「あるけど…ちょっと離れてるな。動けそう?」
皆んながうろうろしているところで流石にもう声をかけないとまずいかと思った。
気づけば3歩近づき、
「あのー…」
遠慮がちに声をかけた。
「なるほどな」
リョウガと呼ばれた白衣の男が木造のシンプルな民家に連れて行ったあと。
白いマットレスにうつ伏せになった仁人の腰を片手で押すと、「いだだだだだ!!!」と悲鳴が上がった。
「折れてはないけど急に負担がかかったから痛めたんじゃないかな。脚と腰は連動してっからなあ」
「よかったなあ仁人、折れてないって」
「折れたときにはもう終わってる!!!!!」
太智の呑気な言葉に仁人は憤慨し、柔太朗と勇斗に宥められていた。
「打ち身じゃあしばらく痛いんじゃない?任務できそう?」
「出来はするけど0.5倍速になるよ」
「待って」
カイガ突然声を上げた。
「リョウガはこの街いちばんの医者だから大丈夫。ね、リョウガ」
そう言ってにっこり微笑みかけると、げんなりしたリョウガは「地味にプレッシャーかけてくんじゃん」と言った。
カルテを万年筆で書きながら付け加える。
「仁人は腰痛持ちなの?」
「えっ」
仁人を含む5人が目を丸くする。
「なんでわかったの!?」
仁人が思わず聞くと「そりゃわかるよ」と呟いて、両手を背中と腰に当てた。
「動くなよ」
そういうと、掌でぐっと数カ所押し込む。
「なんか気持ち良い」
仁人が呟いた。
しばらくしてリョウガが息をついた。
「どう?ちょっと動いてみて」
そういわれた仁人は立ち上がって目を丸くする。
「どうしたの」
「めっちゃ元気」
捻ると、目を見開いて仲間たちを見た。
「……治ってる」
「え、まじ?」
柔太朗が目を向いて聞き返した。
「まじまじ。腰全然痛くない。腰痛も治った」
「お前が?」
「すごいねリョウガ先生!!」
「じゃあいま俺が腰にビーム放っても大丈夫よな?」
「お前それしたらマジでシバくぞ」
わいわいと話す5人にカイが胸を張って言った。
「リョウガはマジですごい医者なんだよ。なんでも治せる」
「なんでお前が得意げなんだよ…」
「つーことで、せっかくだしみんなでこのままお茶しなーい??」
「俺んちだぞ?…まあいいや、なんか出しますわ」
「あ、俺やるから座ってなよ」
「いいよいいよ、別に歩けはするし」
よいしょ、と腰を上げて杖を手に取ると、右足を引き摺りながら奥へ歩いて行った。
その様子をみて、勇斗が立ち上がる。
「俺も手伝います」
「…足、歩きづらいんですか?」
カップを用意しながら聞くと、特に気を悪くした様子もなく「ああ」と答えた。
「昔ちょっとね、病気しちゃってさ。歩けはするんだけどちょっと感覚が麻痺してるだけ。悪いね手伝わして」
「全然です。持ってくの大変じゃないすか?」
「長いことこれだから、どうだろうな。普通よりもしかしたらちょっと大変かもな。助かるよ」
「…お、戻ってきた!」
カイガ声を上げる。
勇斗がトレイを持つ後ろからリョウガも遅れてやってくる。
「リョウガくん、勇ちゃんありがとう」
柔太朗がお礼を言いながら立ち上がり、勇斗がおいたトレイからティーカップを配る。
各々が座ると、カイがやたら改まった顔で「では」と仕切り直した。
「改めてまして…私、カイがこの場を進行させていただきます。この出会えた奇跡に…乾杯」
「なんでそんな宴会みたいなテンションなんだよ…」
恭しく頭を下げて見せたカイにリョウガが若干引き気味の顔でつぶやいた。
そんな彼をよそに仁人を除き、「乾杯!」と明るい声を上げた。
仁人は笑窪を深めその様子を眺めつつ、口にティーカップをつける。
鼻腔いっぱいに広がる芳醇な香りに「ん!」と瞳が溢れそうなほど目見開いてリョウガの方を見た。
「美味し!」
思わず声を上げるとははっと笑い、戯けたように「僕のとっておきです」と口角を限界まで上げてカップを掲げた。
他のメンバーも「うま!」「めちゃくちゃいい香り」と顔を見合わせて目を輝かせる。
「今はすっごい値上がりしたからもう買えないよね。こう言うの」
カイがお茶を口に含みながら言う。
「すごく豊かそうに見えるけど物価高なんすね」
「まあ、色々あるからなあ」
リョウガが紅茶の水面を眺めながら首を傾げて言った。
その水面が振動を伴い始めた時、不穏な地響きがした。
何かと思っていた瞬間、けたたましいサイレンの音が鳴り響く。