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#僕のヒーローアカデミア
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「ワイバーンの動きは?
陽動作戦かも知れません。
全方位を警戒してください」
赤い短髪をした青年は、年上であろうその場の
責任者らしき兵士に向かって―――
言葉使いこそ丁寧だが命令を下す。
「ハッ!
魔力探知機と連動し、東西南北全てを見張って
おります!
警戒範囲に入った時点で、100からなる
ファルコン部隊が飛び立つ事になって
おりますれば……!」
その発言にプラクスもぐるりと周囲を見渡し、
「しかし―――
出現したワイバーンの数が少ないですね?」
「はい。
目視でもたった5匹程度しか確認出来て
おりません。
魔力探知機でも、その5匹の他の反応は
無いとの報告が」
そこで青年は少し考え込んで、
「あの程度の数で、本気で反撃して来るとは
考えられません。
ファルコンの戦闘能力はワイバーンより大きく
劣るでしょうが……
いくら何でも20倍の数は相手に出来ない
でしょう。
だからこそ、少数での陽動と踏んだのですが」
「いかがいたしましょうか」
不安そうに現場の一人がたずねてくるので、
プラクスはそちら側に向き直り、
「やる事は変わりません。
引き続き警戒をお願いします。
どうも、こちらのスキを窺っているようにも
見えますから」
「了解です!!」
現場指揮官らしき男が最敬礼で答えると、
彼は再びファルコンに乗ろうと、そちらへと
足を向けたが、
バサッ、とプラクスが乗る予定だったであろう
ファルコンが、彼の目の前で飛んで行き、
「な!?」
と驚く間もなく、バサバサバサッ、と
羽ばたく音が連続で聞こえ、
彼らが見上げると、ファルコン部隊が次々と
空へと舞い上がっていた。
「どうした!?」
「何かが警戒網に引っ掛かったのか!?」
現場の兵士たちは慌てて状況を確認しようと
するが、
「ど、どうした貴様ら!?
止まれ、止まらんか!!」
空から混乱する声が聞こえ、そちらの方向へ
見上げると―――
ファルコン部隊の上官らしき男が、
必死に他のファルコンライダーたちと共に、
仲間を止めようとしていた。
「何があったのですか!?
降りて来て報告しなさい!」
プラクスが空に向かって呼びかけると、
その上官が地上へと着地し、
「こ、これはプラクス様……!
ファルコン部隊が暴走を始めました!
ザハン国側へと向かっているようです!!
攻撃命令も出していないのに―――」
そう言われた彼は困惑し、再び視線を
上空へ向けると、
「全部のファルコン部隊が……
というわけではなさそうですね」
「は、はい!
どうも奴隷階級のファルコンライダーたちが、
命令を聞かずに飛び立ったようですが」
すると今度は地上を駆けてきた兵士が、
「ほ、報告します!!
新魔導塔が稼働を停止しました!!
奴隷に対する制御が失われた模様!!」
その言葉にさすがにプラクスは目を丸くして、
「原因は!?」
「わかりません!
技術者の話では、突然機能が停止したと!!
現在、原因究明と復旧を全力で行って
おります!!」
それを聞いたファルコン部隊の上官と彼は、
共に空を見上げ、
「では、あれは―――
新魔導塔の効力が失われたので、逃げた、
と……?」
「慌てる事はありません。
本国から奴隷階級以外のファルコン部隊を
呼びます。
それで逃げられた分は補充出来ますから。
誰か一騎、本国に戻って要請して来て
ください」
あくまでも彼は務めて冷静に状況に対処する。
「プ、プラクス様は?」
「自分は新魔導塔へ向かいます。
この目で確かめなければ―――」
そして彼は駆けてきた兵士と一緒に、
異常原因の現場へと早足で向かう事となった。
「プラクス様!」
「ほ、報告はすでに受けているとは
思いますが……!」
新魔導塔の内部に入った彼を見て、技術者で
あろう白衣の者たちが一斉に頭を下げる。
「状況を説明してください。
まず、いつからこのような状態に?」
「は、はい!
まず魔力探知機で複数のワイバーン反応が
あったとの報告が入り―――
それでこちらも警戒態勢に入っていたの
ですが。
それから間もなく、機能が全て停止しました」
赤髪の青年はうなずくと、別の技術者に
視線を移し、
「全て、ですか?
どの部分から停止していった、という
ものではなく?」
「体感では、そ、その……
本当に一瞬で全ての機能が停止したかのように
見えました。
こ、これは私だけではなく、全員共通の
意見かと思われます」
ふーむ、とプラクスは一息ついて、
今度は特定の技術者へ視線を向ける事なく、
「魔力はどうなっています?
予備の動力源もあったはずですが」
すると気付いた順に技術者たちが、
「魔力はあります。
予備の動力源も問題はありません」
「機能だけが停止してしまったようなのです」
「片っ端から再稼働を試みておりますが、
何が原因やらさっぱりわからず―――」
彼らの疲労困憊の表情を見るに、本当に
わからないのだろう。
「新魔導塔の最終試験に参加していた者は?
この中におりますか?」
新たなプラクスの質問に一人が片手を挙げ、
「私が参加しておりました。
なので一通りの不具合可能性や、予想される
故障などの情報は知り得ておりますが、
このような状況は想定に無く……」
そこで彼はまた考え込み、
「(新魔導塔に関わる技術者は、モトリプカでも
一握りの優秀な人材です。
その彼らがわからない、という事は―――
事態は深刻なようですね。
初の実戦投入とはいえ、ドルミン様も
計画を焦り過ぎましたか)」
プラクスはしばらく黙考した後、
「とにかく原因究明と再稼働を急いでください」
「はっ!!」
「「「ハハッ!!」」」
彼の指示に一斉に技術者たちが答え、
「それと、ここの占領部隊に連絡を。
奴隷階級の戦力はこの際捨てます。
制御を失った彼らは追わなくても構いません。
最低限、現状を維持する以上の事は要求
しませんので」
「た、直ちに!」
新魔導塔まで同行していた報告者が駆け出し、
「あの、プラクス様は?」
技術者の一人が恐る恐る問うと、
「状況が落ち着くまでここで待機します。
何かあればすぐ知らせるように……」
こうして彼は、新魔導塔のトラブルに
対応するため―――
内部で待機する事になった。
「これで最後かな?」
「いや、記憶によればあと1本、じゃな」
その数時間後……
メナスミフ自由商圏同盟の上空では、
シンを始めワイバーンたちが浮遊島で、忙しく
動き回っていた。
「レイド君たちは?」
「少し仮眠をとるって。
次の目標についたら起こしてと」
アジアンチックな童顔の妻が私の問いに答え、
「しかしまあ、我が夫ながらえげつないのう」
ドラゴンの方の、モデルのような顔立ちの妻が
しみじみとした顔で語る。
新魔導塔が無効化されたと同時に―――
隷属化されていた人たちが、
モトリプカとは正反対の方向へ逃げ去るのを、
私とアルテリーゼはその目で確認している
からなあ。
彼らを支配下に置いていたであろう連中も
混乱しまくっていて、
「で、今は無効化した新魔導塔を、
また元に戻していく最中だけど」
「うん。
少なくとも、隷属化された人たちが
逃げ切るまで……
時間を稼げればそれでいいし」
そう、今は―――
一度無効化した新魔導塔を、順繰りに
元に戻していく作業中だ。
こうして元に戻す事によって……
『これは敵側の仕業では?』
『敵側が何か仕掛けてきたのでは?』
という疑問と可能性を消す事が出来る。
相手も、まさか無効化した新魔導塔を
わざわざ元に戻すなんて事は想像だに
しないだろうし。
これで混乱はますます加速する。
「シン殿!
次の目標が見えて来ました!
これで本日無効化させた新魔導塔は、
全て元に戻る事になります」
『見えない部隊』メンバーからそう報告を
受けると、
「そんじゃあ、いっちょやりますか」
「りょー。
あ、じゃあレイド君たち起こして来るー」
「これが終わったら、今日は一段落
つくのじゃな?」
日が暮れ始めているし、あまりよく
わかっていない敵地で夜間出撃は危険だ。
そう判断した私は、日中になるべく多くの
新魔導塔を無効化した後、さらに日没までに
それらを元に戻す、という事で動いていた。
「おはようございます。
次でもう今日は終わりッスね?」
5分もすると、褐色肌の青年が大きく伸びを
しながら、メルと共に戻って来て―――
「メルさん。
最後の新魔導塔から戻ってきたら、
何か暖かいものを頼めます?」
丸眼鏡のタヌキ顔の女性が彼に続き、
「任せてー」
とメルが答える。
ちなみに彼女はミリアさんの言う通り、
今回は裏方、調理担当で働いてもらっている。
「7本かあ……
という事は、1日あたりこの辺が
限界という事かな」
「まあ、そうでしょうな。
浮遊島もそれほど速度が出せる、という
わけではありませんし」
私の言葉に、いかつい顔をした白緑の髪の青年、
人間の姿をしたワイバーンのハヤテさんが返す。
この浮遊島自体が魔力で浮かんでいるので、
移動もなるべく魔導具や魔法を使わない
方法―――
浮遊島の動力である魔導具を自転車の
ように足漕ぎで動けるようにし、それを
魔力封じの腕輪をした獣人族が動かして、
自由商圏同盟各国の空を移動していた。
「戻って一息ついたら、ベルマイヤさんの
お屋敷で休ませてもらおう。
最後のひと踏ん張り、お願いします!」
私がそう号令をかけると、みんなそれぞれ
気合いを入れ直し……
そして飛び立っていった。
「新魔導塔が故障、だと?」
「は、はい!
全てでは無いようですが―――」
夜になって、すでにモトリプカの首都・
エムビーアに戻っていたドルミンは、
その白髪交じりの青みがかった短髪を揺らして、
報告者に振り向く。
部下らしき身分の高そうなその軍人は、
ソファに腰掛ける彼とは対照的に立ったままの
姿勢で返事を待っていた。
「確実性に欠けるのは仕方無いとしても、
一気に自由商圏同盟のほとんどを支配下に
置く事が出来たのだ。
そこまで持っただけでも良しとしよう。
奴隷戦力はどうなった?」
「プラクス様の報告では、ほとんど逃げられて
しまったとの事です。
新魔導塔はそれから数時間後に回復した
ようですが……
未だに原因はわかっていないとの事で」
初老の男はその報告を聞いて片目を閉じ、
「直った?
では今、新魔導塔は動いているのか?」
「各地からの報告では、今のところ全ての
新魔導塔は復旧したとの事です。
ただ不具合発生から回復までの時間は、
どれもばらつきがあるようでして」
「ふむう」
ドルミンは両腕を組んでソファに座り直す。
「今後、どのように動きましょうか」
軍人の中年が彼に指示を仰ぐと、
「まず奴隷兵を本国まで引き上げさせろ」
「し、しかし―――
それでは戦力に不安が」
心配そうな表情の彼にドルミンは、
「もともと、奴隷兵は単なる消耗品に過ぎん。
それを承知で今回の作戦の尖兵として使って
いたのだ。
敵地がほぼ占領下に置かれた今……
彼らをそこで維持する必要は無い。
それより逃げられる方が痛手だ」
「まだザハン国が残っておりますが、
そちらはどのように?」
その問いに彼は大きく息を吐いて、
「敵対勢力として―――
主要国で残るのはあの一国くらいの
ものだろう。
完全制圧出来なかったのは心残りだが、
そこ以外はほぼ全て制圧したに等しい。
後は今の勢力図を認めさせるだけだ」
「では……」
部下が次の言葉を促すと、
「奴隷兵を本国まで撤退させた後、残存戦力と
補充兵で現状を維持しろ。
新魔導塔が不安要素と化したが―――
その間に原因究明を急がせるのだ。
不確定要素を無くし復旧すれば再び、
奴隷兵を支配下に置く事が出来る。
それからザハン国を攻略するのだ」
「ハッ!
そのように各地に伝えます!!」
軍人は足を揃えて最敬礼すると退室し、
後には宙に目をやる初老の男が残され……
「いきなりの実戦投入―――
やはり無理があったか?
この侵攻計画は新魔導塔を軸に行っている。
その信頼性が崩れかけている、となると……」
表向きは冷静に対応していたドルミンだが、
事態の深刻性は理解しており、
「今までは攻勢を維持して相手を防御一辺倒に
回らせる事で、優勢を保ってきた。
この状況が覆される可能性は―――
残す主要国はザハン国のみ。
その程度の反撃はどうにでもなるはず。
クアートル大陸の四大国や、辺境大陸の各国も
うかつに介入する事は避けるだろう」
そこで彼は一息つき、
「むしろ問題は身内だな。
ここぞとばかりにこの不具合を騒ぎ立てるのは
目に見えている。
後方の安全圏にいながら文句しか言わない
バカどもが……
ん?
待てよ―――」
ドルミンはふと何かを思い立ち、
「誰かいないか」
彼が声をかけると、すぐに一人の軍人が
走って来て、
「ハッ! 何か」
「本国から何か連絡は入ってないか?
特にモトリプカ国内に建てた新魔導塔に
ついて」
初老の男の質問に、若い軍人は直立不動の
状態のまま、
「いえ、特には」
その返答にドルミンはアゴに手をあてて、
「本国の新魔導塔に不具合は起きていない?
故障したのは前線に出したもののみ、
という事か?
まあ本国の方が整備は完璧であろうし、
輸送中に部品の破損などがあったとも
考えられるが……」
使えるな―――
小声でつぶやいたからか、軍人にそれは
聞こえなかったようで、
「あの、今何か?」
「いや、何でも無い。
ご苦労だった。
引き続き任務にあたってくれ」
「ハハッ!!」
若い軍人は最敬礼すると退室し、
「必ずこの失態を突くヤツは出てくるだろう。
ならば逆に、前線のみに不具合が発生した事を
問題として提起してやる。
この侵攻計画に反発もしくは逆らう者が、
妨害した可能性がある、とな」
シンが新魔導塔の魔導具としての信頼性を
失わせようと動いている事は、ドルミンに
取ってもちろん想定外であったが、
彼はそれを逆手に取り……
この機会に味方側の反乱分子を粛清しようと
画策し始めた。
「現状はどんな感じー?」
「もう結構飛び回ったはずだが」
「うむ、膠着状態といったところだ。
失地回復、奪還など思いも寄りませぬ」
メルとアルテリーゼの問いに、ベルマイヤさんが
答える。
ザハン国商業都市・スタット―――
そこの富裕層地区の一角にあるロックウェル家の
お屋敷。
実質上、司令本部となったそこで、私たちは
状況の共有と整理を行っていた。
「思ったより崩れないな」
「新魔導塔で隷属化していた奴隷たちを、
後方に下げているとは……
対応が素早い。
なかなかのやり手です」
短い茶髪で、細マッチョという感じの青年と、
さらに彼より細身の青色の短髪の男性―――
『対鏡』のノイクリフさん、
『永氷』のグラキノスさんが
うなずき合う。
「意外と粘る……
という印象ですわね」
「まったく。
粘るのは納豆だけで十分ですよ」
やや外ハネしたミディアムボブの、パープルの
髪をした女性に、
ロングの白髪と、対照的な褐色よりも
黒い肌を持つ女性―――
『霧』のイスティールさん、そして
同じく魔族である『腐敗』のオルディラさんが、
呆れたように声を上げる。
「もうかれこれ、ここに来て5日ほどか。
シンによる嫌がらせにも屈しないとは、
なかなかしぶといなぁ、あちらさん」
「ル、ルクレセント様っ」
銀髪のロングヘアーに、切れ長の目をした
女性、人間バージョンのフェンリルが、
黒髪で、犬のような耳と巻き毛のシッポに
肌が褐色な少年……
ティーダ君にたしなめられる。
まあ言い方はともかくとして、恐らく侵攻計画の
中心・根幹であろう新魔導塔の信頼性を無くす
べく、私たちは連日飛び回っていたのだが、
隷属化が解けて逃げて来る奴隷たちも減り、
あちらさんの攻勢が止まった反面、
こちらからも決定打が出せないでいた。
「ワシが入手した情報では―――
どうもあちらさん、国内の引き締めに走って
いるようでしてなあ。
本国の新魔導塔には故障が起きていない
事を受け……
一連の不具合は不穏分子によるものと
決めつけ、反発もしくは敵対者を逮捕・
監禁しているのだとか」
「うわー、そう来たッスか」
「向こうもシンさんに負けず劣らず、
えげつないですね」
「なかなかの巧者なり」
老人の言葉に、レイド君・ミリアさん・
ハヤテさんの3人組が反応し、
「し、しかし戦争中だというのに、よくそんな
情報が手に入りましたね?」
私がベルマイヤさんに聞き返すと、
「情報も商品ですからな。
金次第で売る者もおりますれば。
それと、恐らくこの情報を売っても、
戦況に差し支えないと踏んだのであろう」
あちらさんの国内が混乱していると取るか、
それとも体制をより強固にしていると見るか、
微妙なラインだしな―――
「あのー、ルクレセント様」
「もう屋敷の庭に集まっておりますぜ」
「そろそろ移動を―――」
そこへ『見えない部隊』のメンバー、
赤毛の、恰幅のいい女性―――
ブロウさん、
その元部下で細身の男、ジャーヴさん、
さらに彼よりも頬骨が目立つほど痩せた顔の、
ユールさんが入って来て、
「ああ、来ましたか」
私が言葉を返すと、
「そういえばシン殿の指示通り、モトリプカから
解放された奴隷たちを中庭へ集めましたが、
いったい何をするおつもりで?」
するとルクレさんがふいっと前に出て、
「あー、ウチがやるんや。
何か隷属化? ってのをされとるんやろ?
それをきれいさっぱり無くしてやりとうてな」
「は、はあ」
生返事をするベルマイヤさんも同行し、
私たちは中庭へと出た。
「お、おーい!!」
「ここへ亡命させてくれ!!
もうモトリプカには戻りたくない!!」
「それか、クアートル大陸まで
連れて行ってくれー!!」
庭に出ると、新魔導塔を無効化した事で、
隷属化が解かれた奴隷の人たちがひしめき
合っていて、
「ザハン国はモトリプカと戦って
いるんだろ!?」
「あの魔導塔が再稼働したら、また俺たちは
奴隷に逆戻りしてしまう!!」
「お願い!!
どうかこの子だけでも……!」
そう、子供を差し出すように見せる女性の
姿も見え、
そこでルクレさんが群衆の前についっと
姿を現し、
「ん? 何だあの女は」
「誰だ?」
「いったい何を―――」
と奴隷たちが不審がると同時に、彼女は
本来の姿……
フェンリルに姿を変える。
「うわー!!」
「狼!?」
「く、食われるー!!」
と、当然の反応で混乱する群衆を前に、
ルクレさんは背中を下げると、今度は
ティーダ君がフェンリルに乗って、
「みなさん、落ち着いてください!
僕はフェンリルのルクレセント様の
番となる者です!
ルクレセント様はみなさんを救いに
やって来たのです!」
少年を大人しく乗せている事でようやく、
奴隷たちは落ち着いてきたのか、騒ぎは
静かになっていく。
ティーダ君は続けて、
「ルクレセント様は本来、人間の争いに
首を突っ込むような事はしませんが、
全ての命、特に幼い命を無下に扱う事に
心を痛めます。
そのような事があった場合、自然と
その者たちに天罰を与えるのですが、
この度の戦い―――
幼い子供が巻き込まれ、また奴隷として
無理やり戦争に参加させられているのを
見ました」
群衆は黙って彼の言葉に聞き入る。
そう、今回の戦いに少年兵や幼い子供が、
戦闘に従事させられているのを確認したので、
フェンリルが介入する理由が出来たのだ。
実際、それでこちらの女性陣の逆鱗に
触れてしまったというのもあるが。
「特に、意思に関係なく奴隷化させて
従わせるという仕組みも、大変不快に
思っておられるようでして……
よってルクレセント様は―――
そのような仕組みを破棄させる事に
しました。
フェンリル様に祈ってください」
ティーダ君の言葉に奴隷たちは、
すがるように顔の前で両手を合わせたり
組んだりする。
そして正面の神獣と獣人族の少年に
注目と神経が集まっている間に、
私は群衆の後方に回って、
「己の意志に関係なく隷属化させる
魔法など……
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやくと、私は正面のティーダ君に
軽く手を振って合図を送り、
次に彼が手でルクレさんの背中を回るように
撫でると、
「オオオォオオオー!!」
フェンリルは遠吠えのように、空へ向かって
声を上げる。
ビリビリと空気が振動するような衝撃が
全員に伝わり、
「これであなた方は解放されました。
あの忌まわしい魔導塔が再び動いたとしても、
二度と奴隷になる事はありません」
それを聞いた奴隷だった人たちは、
「やったー!!」
「自由だー!!」
「これであいつらに従わずに済むぞー!!」
と、喜びを爆発させ、
「あ、それと―――
あなた方以外にも奴隷だった方たちが
順番で待っておりますので。
その人たちにもこの事を伝えてあげて
ください」
ティーダ君の言う通り、逃げてきた奴隷は
まだまだいて、中庭に入るのは100人ほどが
限界だったため……
その他は外で待ってもらっていた。
「え、ええと―――
この後、俺たちはどうすれば」
と、中の1人が不安そうに質問すると、
「終わった人たちは、ロックウェル家が
いつくか宿や施設を押さえてありますので、
そちらに向かってくださーい!」
「あちらに案内人がおりますのでー!!」
ベルマイヤさんの護衛の青年2人が
誘導し始め、そちらにゾロゾロと奴隷たちは
向かい、
そして中庭には、次の奴隷たちが
交代するように入って来て……
再び、隷属の無効化を行う運びとなった。