テラーノベル
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極限状態の中、二人の絆が「生存」への最短距離を弾き出した瞬間。圧倒的な静寂と、その後に訪れる嵐の予感。
「……っ、元貴!!」
禁忌の術が発動し、大気が悲鳴を上げながら凍りつく瞬間、滉斗の脳裏を過ったのは勝利ではなく、背後にいる最愛の男の姿だった。この術は無差別だ。放てば、元貴の命さえも氷の花に閉じ込めてしまう。
滉斗は術の完成を待たず、弾かれたように地面を蹴った。
氷壁が迫りくるより早く、座り込む元貴の体を強引に抱き寄せる。その刹那、元貴が先ほどまでいた場所は、巨大な氷の結晶が突き上げ、すべてを無に帰す白銀の世界へと変貌した。
「はぁ、はぁ……間に合った……」
滉斗の腕の中で、元貴は恐怖に震えることなく、しっかりと滉斗の首に腕を回した。周囲は、数千の軍勢がそのまま彫像のように凍りついた、不気味なほど静かな空間となっていた。
「ひろぱ、聞いて。……今すぐ、ここを離れよう」
元貴の切迫した声に、滉斗は眉をひそめた。
「何を言っている。今のうちにこいつらを……」
「ダメだよ! この術には、致命的な欠陥がある」
元貴は、王家に伝わる古文書の記憶を辿るように、早口で告げた。
「この規模の氷術は、君の生命力を核にしている。術式が安定せず、長くは持たない。あと数分もすれば、氷は内側から砕け、彼らは一斉に解き放たれる……そうなったら、今の君の体力じゃ、もう防げない!」
滉斗は自分の手を見た。指先は感覚を失い、どす黒く変色しかけている。元貴の言う通りだ。もう一度同じ術を使えば、今度こそ命の灯火が消える。
「……逃げるだと? 王であるお前が、国を捨ててどこへ行く」
「国を捨てるんじゃない。僕と一緒に、生きる道を探すんだ!」
元貴の瞳に、王としての「義務」ではない、一人の男としての「渇望」が宿る。
「君をここで死なせたくない。……約束、守ってよ。一生、一緒にいるって!」
「……ふっ、お前には勝てないな」
滉斗は自嘲気味に笑うと、元貴を横抱きにしたまま、再び立ち上がった。
遠くで、ピキッ……と氷がひび割れる不吉な音が響き始める。術の崩壊が始まろうとしていた。
「掴まっていろ。……舌を噛まないようにな」
滉斗は残された全ての気力を脚に込め、氷に閉ざされた王都の門へ向かって走り出した。
背後では、凍りついていた兵士たちの瞳に、徐々に憎悪の光が戻り始めている。氷が砕け散る轟音が、二人を追いかける。
「ひろぱ、あっちの裏道へ! 私が植物の術で、追っ手の目を眩ませる!」
「ああ、頼んだ……元貴!」
最強の剣士は、今や王を守る盾ではなく、共に明日を掴み取る一人の男として、荒れ狂う戦火の中を駆け抜けていく。
二人の向かう先には、かつて見た琥珀色の夕暮れよりも、もっと険しく、けれど自由な夜が待ち受けていた。
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コメント
2件
2話も更新!?ありがとうございますぅ!今更ですがひろぱって読んでるの好きすぎる