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世界にはいくつか伝説がある。
曰く、海の底には人魚がいる。
曰く、氷の下には地下世界への入り口がある。
曰く、火口を潜ると宇宙人の基地がある。
曰く、空を流れる天使の国がある。
こんな感じで。
いくつかは嘘である事が証明され、いくつかは真実である事が証明されてきた。
それでもまだまだ伝説は残っている。
そして伝説を追う者たちをこの世界ではこう呼ぶ。
ドリームビルダー
と。
夢を作る者。追うではなく作る。
曖昧な伝説を夢に昇華させてしまうから、愛すべきバカ野郎と言う若干の皮肉を込めてつけられた呼び名だ。
でもってここにもそんなドリームビルダーが一人。
「ハッ、ハァ」
重い剣を地面に降ろして肩で息をする騎士。
そう、オレである。
誰にも邪魔されない環境で訓練しようと足しげく通っていた山林の中、もうボロボロの城の跡。
遠くに木組みの街を見下ろしながらオレは一人、今日も今日とて剣に『精霊』を宿した『霊剣』を扱う訓練をしていたのだ。
だけど。
「もうダメか……」
剣が錆びていく。錆びて崩れて霧散する。
オレの使役する『オーラ』の精霊の力に耐え切れずに。
けれどこの世界は精霊の使い手がモノを言う世界。このままではダメだ。
「剣を作るヒヒイロカネの純度がまだ低いんだ。
でも今の腕じゃこれ以上に金属純度をあげられない」
『王騎士』と呼ばれた亡き父、父の剣を鍛えてきた亡き母、二人の血をひいているのに完全に努力が足りていない。
きっと才能はあるのだろう。そいつを芽吹かせる努力が足りないのだ。
若さのせいもあるのだろう。まだ十五だ。が、言いわけにしかならない。
もっと訓練しなきゃ。
「予備の剣っと」
壊れた城壁に立てかけている二振りの剣の内、一つを手に取る。
取って、
「オゥル」
精霊の名を呼ぶと小さな光がオレの周囲を舞うように現れて。
鮮やかな赤系・躑躅色の光だ。こいつがオレに懐いてくれているオーラの精霊になる。
認めてくれている、とも言う。
オゥルとの出会いは幼少期。仲間の精霊とはぐれてしまったオゥルを見つけ、夜遅くまで他の精霊を探すのを手伝った。結果オレは両親に怒られたのだが、幸いな事にオゥルには懐かれた。
以来、オレたちは一緒にいる。
「また頼むよ」
城壁から離れてそう言うとオゥルが一つ強く輝いて――返事だ。精霊は口がきけないから光の強弱で感情を表現する――剣へと溶け込んでいく。
するとどうだ? 剣の全身が、切っ先から柄頭までの全身が躑躅色の光に変わって。続いて剣を握るオレの体にも同色の光が宿る。
「良し」
心を静かに。
瞼を落として耳を澄ませる。
風を感じろ。
草葉の擦れる音を聞け。
大地の脈動を察しろ。
ん?
「っ!」
オレは咄嗟に剣を振る。
目を瞑ったまま剣を放ち、飛んで来ていた小石を両断する。
いや小石じゃないな、拳くらいの大きさがあった。あっぶない。
「お~」
「お~、じゃなくて」
石を投げたと思われる人物が呑気に手を叩いている。感心した、と言うように。
「誰?」
「いやあ眠っているのかと疑いたくなるほどに静かだったからいっちょ実力試してみようかと」
「……ならせめて小石にしてくれ。当たり所によっては大けがだ。
で、誰って聞いたんだけど?」
相手も騎士だ。女性、いやまだ少女か?
白い帽子の下にある陽光を反射する漆黒の長髪は腰まで伸び、薔薇色の瞳は煌びやかな宝石のよう。
ただ白肌に纏う騎士装束は軽い物。手足は出ているし鎧も少なくあまり防御の役割は担えそうにない。
しかし、青系・空色の精霊を携えていた。
「ごめんごめん。
私はリルラ。リルラ=羊架。十六歳。
この子は精霊のキィ。
あなたは?」
「……」
凄く真面目に自己紹介をされてしまったな。本名、だろうか。こちらも本名名乗っておこうか。
「オレは……イア。イア=獅宮八。十五歳。
聖霊はオゥル」
少々迷ったが本名を名乗った。相手が本名だったら偽名を使うのは失礼だから。
イア=獅宮八。
純白の短髪に紫系・本紫の目。十五の男だ。
ってかリルラ、ちゃんと見ると美人さんだな。スタイルも出るとこは出て引っ込むべきとこは引っ込んでいる。や、一瞬で惚れるとかはないぞ、うん。
「なにしていたの? 正直隙だらけに見えたけど」
そりゃそうだ。
「わざとだよ。オゥルはオーラの精霊。オーラの結界をはって周囲の気配を探る為に構えは解いていたから」
だけれど侵入する物には敏感に反応出来るよう握りを握る手には力を込め、剣身はあらゆる角度に対応出来るよう揺らさなかった。だからこその石切りだ。
「聞いときながら言うのもなんだけど、喋っちゃって良いの?」
「騎士ならこれくらい看破出来るだろう?」
「だね。正直答え合わせで聞いただけだった」
「……」
出来るだろう? と聞いたものの下級騎士には無理だと思う。つまりこの人は下級ではない。が、見覚えないんだよな。
「リルラ、この街の騎士じゃないよな?」
「うん。今日引っ越してきたの。だから地理を知ろうと散歩してたんだ」
ああ、そう言う事か。
「そして迷子になりました」
「……」
言いながら全く反省も後悔もしていない笑みを浮かべるリルラ。
「いや~山って怖いねえ。街が見えているのに帰れる気がしない」
そりゃ崖やら小川やら迂回せんと行かんからね。
「……あっち、オレも迷わないように紐を括りつけてあるからそいつを辿れば街まで着くよ」
「そっか。ありがとう。じゃあね」
それだけ言うとあっさりと去って行く。
なんだ、通り雨みたいな人だったな。
「あ」
握っていた剣が崩れてしまった。
ずっと霊剣状態にしていたからオーラに耐え切れなかった。
一振りほぼ無駄にしちゃったよ……。
仕方がないので最後の一振りを取りに行って気づいた。
財布がねえ!
訓練前はあったんだ。まさか……ヤロウちくしょうなんてこったい!
「ん」
しょんぼり街まで戻ってみたらいたよいやがった。リルラ発見だ。
「?」
突撃かまそうかと思ったのだがリルラ、路地裏に入って行くではないか。
この街、騎士団がいるから治安は良い方だが全く悪事がないと言うわけではない。クスリをやっている奴もいるし、脅しをする奴もいる。こう言う連中は人目につかない場所を好む。
リルラ、まさかいけない事でもおっぱじめる気か?
現行犯で捕まえてやろうかと思ってしばしストーキングしてみたのだけれど、なんと。
オレの財布を片手にパンを子猫にあげていて。
「言ってくれればオレが買ったのに」
「うわぁ! どっから出てきた!」
「リルラの後ろから堂々と。
……お金ないのか?」
そう言うと「貧乏だなんて言えるか」と照れていた。
善い人なんだか悪い人なんだか。
「ん~、財布は返してもらうとして」
「中身くれんの!」
「やるか返せ」
「……っち」
舌打ちやがった! 許すのやめてやろうかこいつ。
「返してもらうとして」
若干乱暴に奪い返しながら、オレ。
「リルラ、どうやって財布盗んだ?」
「うん?」
「言ったろ、オーラの結界をはっていたって。その中でどうやってオレに気づかれずに財布盗った?」
石には気づいたんだ。結界は間違いなく機能していた。
「あ~」
「答えたら許す」
「答えなかったら?」
「騎士団に報告します」
「いやマジ勘弁して。前の街それで追い出されたんだから」
「前科持ちかい」
騎士としてどうなんだそれ。
「だってお腹空かせている小犬がいたんだもん」
「働けば?」
「働いてたよ。でもクビになったんだよ」
「なんで?」
「街の騎士団にケチつけたから」
「ケチ」
「そ。前の街の騎士団ね、『疑わしきは罰せよ』の精神で手当たり次第怪しく見える人を捕まえて自分の手柄にしていたんだよ。
彼らのやり口のせいで街人は怯えて暮らしているの。
だから私は吠えたわけ。
私は王立騎士隊の一人になって正しく国民を護る団を作って配置するの! って」
「そしたらクビになったと」
「そ。んでどこにも雇ってもらえなくなった」
……成程。
街の人も騎士団に目をつけられたくはなかったのだろう。
喰うに困って小犬を見つけて盗みを働き、これ幸いと追放されたか。
「似ているな」
「え?」
「オレ、前に女性を襲った騎士を捕まえたんだ。あ、未遂で終わらせたんだけど。
したらその騎士は不問になった。これまでの騎士の働きを考慮して、だってさ。
それに憤ったんで抗議したら十年間は騎士団と王立騎士隊への入団・入隊試験を受けさせない、て言われた」
王立騎士隊で隊長――王騎士だった父はこれをきっかけに失脚し、王都から離れ流行り病で母と共に亡くなるまで名誉は回復しなかった。しなかったと言うか今もだが。
「だから一人で訓練してたんだね」
「ああ」
父と母には自分の道を往けと言われた。貫けと。お前は正しい事をやったのだと。
だから後悔はない。が、やるせないな。
「二年頑張ったけどなにも変えられていない」
だから、だからこそオレはドリームビルダーになった。
オレが追うもの、それは。
世界で唯一『精霊王』と呼ばれる『聖霊』――だ。
しかし聖霊は歴史上一人しか認めていない。
この国の最初の王となった騎士、聖騎士だ。
パラディンは聖霊に認められた事で民衆を導く存在になり、新たな街を興し、新たな国を興した。
彼の死後聖霊は行方知れずになり、以後誰の前にも現れていない。
その為国はデパートが建つほどに発展したが騎士のレベルは落ちたと言われている。
オレが聖霊を発見し認められれば全てが変わるだろう。
でも、大丈夫だろうか? とも最近は思うようになって――
「なら二人でやりましょう! 努力は報われない。報われるまで努力するのよ!」
「……しんどそ」
けど……そうだな。オレが凹んでいては両親に申しわけない。なによりオレ自身が腐ってしまう。
それだけは、ごめんだ。
「良いよ、やろう。
オレはパラディンに到達する!」
「ん!」
グッと握った拳を太陽に向かって上げるオレ。リルラも真似て拳を上げる。
ところで。
「リルラがオレから財布を盗れた理由は?」
ここに至るまで聞けていない。
「あ、そうだったそうだった。
私の精霊キィは『水』の精霊なの」
こうやって、と言いながらキィを剣に宿すリルラ。
すると剣の全身が水になって。
「この霊剣の力の一つ“水鏡”――あらゆる現象を反射する水鏡。これでイアとオゥルのオーラを反射していたってわけ」
「……そんな事が」
可能なのか。
しかし水の精霊と言えば。
「確か魔族の一人が使役していたんじゃ」
魔族。どこからどうやって現れるのかすら判明していない人の敵。
中でも水の精霊を相棒に持っていたのは高位魔族のはずだ。
「うん。私のお父さん魔族だから」
「……は?」
ここが路地裏で良かったよ。こう言いながらリルラは被っている帽子を取る。取って威圧と共に現れたのはなんと。
「魔族の角!」
「声が大きい!」
バチン! と音が聞こえそうなほど強く口に手を当てられた。いやもう掌底の威力がありましたが?
けども今のはオレが悪いか。
リルラの頭、左側には一輪の白い花を内包した水晶の角があって。
水晶の角は魔族の特徴だ。
じゃあリルラは本当に?
「混血児」
「そうだよ。イヤになった?」
「……」
魔族に良い印象を持つ人は少ないだろう。
世界のどこかに潜む奴らは人の社会を乱し、壊そうとする。
政治、経済、金融、宗教、軍事、法律、人身、人心。あらゆるものを。
どうして魔族がそんな行動をとるのかは判明していない。
本能ではないか? と言われているが……。
「魔族が人を襲う理由は?」
「さあ? お父さんはお母さんを襲わなかったし、魔族の行動理由は教えてもらえなかったな」
「そう、か」
「因みに隠れ住んでいた私たち――お父さんとお母さんは王立騎士隊に見つかって処断され秘密裏に死刑にあいました」
帽子を被り直しながら、リルラ。
「私は二人に守られ逃がされたんだけど」
「……なら」
「イアのお父さんにじゃないよ。捕まったのも殺されたのも十四年前の話。
昔の王立騎士隊にだね。そん時イアのお父さん王騎士じゃなかったでしょ?」
しかしだからと言って。
「王立騎士隊に恨みは?」
「あるよ。だから私が変えるのさ。絶対に」
壊すのではなく変える、か……。
強い人だと思う。
優しい人だと思う。
オレが同じ立場なら恨みで大暴れしそうだ。
「ってかどうしてそんな大事な秘密をここで」
「え? イアが大事な事教えてくれたからだけど?」
当然じゃん。とリルラ。
そうか……この人は、こう言う人なのか。なら。
「……イヤにはならない。リルラ個人を見るよ」
「……ありがと」
泣くように、苦笑する。
「んじゃあこれからどうする?」
「オレは聖霊を探すよ。街を出て、国を出る」
二年の間、国中を探したが見つからなかった。きっともうこの国にはいないのだ。
「私も出ようかな。
王立騎士隊に入るには実力も実績も不足しているから」
「なら、さっき言った通りに」
「うん。二人で報われるまで頑張ろう」
「ああ。明日までに飛竜を用意する。
明日の八時にどっかで待ち合わせ――」
「や、宿賃ないから泊めて」
「……男の家に泊まると言う事の危険性について」
「襲ったら叫ぶから。て言うか斬っちゃうぞ」
華麗にウィンクされた。
可愛く言っても物騒だからな?
「で、だ。ベッドの他には予備の布団が一式あるだけなんだけど」
一度家に戻り、荷物を置いて二人で飛竜を買いに行き――高かったな、命買うんだから安いわけないんだけど――、街の知り合いに旅に出ると挨拶してから――リルラが一緒だったから駆け落ち言われた――再び家へ戻ったオレたちだったのだが、さあどうする? 家主なんだからベッドでの就寝を希望するか? だがしかし女性を床で寝させる、許される?
一応聞いてみるか。
「リルラ、どっちが良い?」
「え? 二人でベッド使えば良いんじゃないの?」
「……本気?」
「冗談です」
ですよねー。
「じゃんけんで決めよう」
は? なんだそれ?
「じゃんけん、とは?」
「あれ? 知らない?」
「ああ」
「お父さんが使っていた勝負の決め方だよ。遊びみたいなもんだけど」
お父さん。魔族が使う遊び。
魔族って遊ぶんだ。
「えっとね」
じゃんけんとやらの説明が始まった。
ふむふむ。安全かつ簡単な勝負だな。
「グー、チョキ、パー」
「そうそうその手の形。間違ってないよ」
「んじゃ」
「じゃんけんポン、のポンで出すのね。
やろっか。
じゃーんけーんポン!」
結果、オレが床になりました。
グーとパー。石って紙に敗けるんだ……。