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ここはホワイト・シティ(通称 雪の街)のノブレス・オブリージュ美術館。二つの螺旋階段の下にある広大なサロンには、暖房が行き届いていた。今の時間帯はいつもの会話や談話する着飾った人々は誰もいない。時計は深夜の2時を指している。サロンの壁面にはヨーロッパから取り寄せた13枚の美しい女性の絵画や30を超える高級な東洋の壺。回廊を繋ぐ4枚の大扉にはみずみずしい花を咲かせた花瓶が飾ってあった。
その中で、産まれたばかりの赤子を抱いた女性の絵画から一人の男が地に産み落とされた。その男は赤子ではなく20代の容姿の青年だった。
男の風貌は、背が高く。ゆったりと腰まで流れるような銀髪で、かなり痩せているが端正な顔で鋭い目つきだった。黒い服と黒いロングコートを着ていた。白いポロシャツに銀のロザリオを腰にぶら下げ、銀の大鎌を持っていた。
「母さん……。ここはどこ?」
男は産声を上げた。
男の名付け親は、男が最初に出会ったこの美術館のオーナーだった。オーナーの女性は男にモート(ウガリット神話に登場する死と乾季の神の名)という名を与えた。
オーナーは高校程度の教養があるのだが、この街での人生を何も知らない男に大学を通わせることにした。そして、1年後にはオーナーはモートの良き理解者となった。