冷たい空気が頬を刺す中、6人は荷物を持ってコテージへと入った。
木の香りがほのかに漂う広いリビング。暖炉の炎が、やさしく部屋を照らしている。
「わあ……思ったより広いし、落ち着くね」
みことが感嘆の声をあげると、すちはいつもの甘い表情で荷物を下ろした。
食事の支度をしながら、みんなの笑い声が絶えない。
ひまなつとらんはキッチンで鍋を作り、こさめといるまは飲み物を配る。
「みこと、すちもちゃんと食べてる? ラブラブすぎて食欲ないとか言うなよ?」
ひまなつが茶目っ気たっぷりに尋ねる。
「いや、普通にお腹すいてる」
すちが返し、みことが照れ隠しに笑った。
「すち、珍しいね。今日は妙に機嫌いいし」
らんがにやにやしている。
「大好きな恋人にだけは甘いんだよ、きっと」
こさめが軽く言うと、みことが顔を赤らめる。
━━━━━━━━━━━━━━━
夕食が終わる頃、すちが小声でみことに近づき、ささやいた。
「ちょっとだけ2人きりになりたい」
「…うん」
みことは頬を赤らめながら小さく頷いた。
すちはいるまに目配せし、合図を送った。
(頼んだよ……)
みことと外へ出ると、みんなは慌てて飾り付けの最後の仕上げを始める。
その間、みことはいつもと何か違うすちを気にし、廊下の端でそわそわする。
「みこちゃん、どうしたの? 」
「え!…いや、なんか…みんないつもと雰囲気違うなって思って…?」
「…そうかな?」
(何かしたかな…)と頭をぐるぐる巡る中、こさめが出てきて、みことの手を取った。
「お待たせ!」
誘われて部屋に戻ると、明かりが一斉に消え、部屋は真っ暗になった。
「え?」
すると一斉に、電気がつき、みんなの声が響いた。
「お誕生日おめでとう、みこと!!」
カラフルなバルーンやリボン、そして真ん中に大きなチョコレートタルト。
みことは思わず涙ぐみ、すちが真っ先に隣に寄り添う。
「……みんな、ありがとう」
こみ上げる感情を押し殺せず、みことは震える声で呟いた。
すちが小さく微笑み、そっと手を握る。
「みことのこと、ずっと大事にしたいから」
みんなの祝福に包まれながら、
みことは心の奥で、温かい愛をしっかり感じていた。
━━━━━━━━━━━━━━━
サプライズの余韻が残るリビング。
片付けも一段落し、いるま達が「疲れた~」とそれぞれ部屋へ引き上げていく中、
すちは何も言わず、そっとみことの手を取った。
「外、少しだけ出るよ」
「……え、寒いよ?」
「すぐ戻るから」
手を引かれて外に出ると、夜空には一面の星。
吐く息が白くなって、指先が少し冷える。
けれど、すちの手のひらはあたたかかった。
すちはポケットから箱を取り出し、無言でみことに差し出す。
「……これ、誕生日プレゼント」
「えっ、え……? さっきのケーキとか、あれで十分すぎたのに……」
「これは……俺からの分」
視線を逸らしながら、すちは言う。
みことが箱を開けると、中にはマットブラックとゴールドのペアマグカップ。
そこには、小さくふたりの名前が刻まれていた。
「……うわ、刻印まで……これ……」
「冬、寒いから。俺が淹れるから、これで飲んでよ。……毎日」
「……」
みことは一瞬、何も言えなかった。
胸の奥が、じん、とあたたかくなる。
「……すち……だいすき」
ぽつんと漏れたその言葉に、すちは表情を変えず、
けれどその耳が、ほんのり赤く染まっていた。
「……俺も。……誕生日、おめでとう」
━━━━━━━━━━━━━━━
暖炉の残り火がくすぶる部屋へ戻ると、誰もいない。
他の4人は気を利かせて、先に寝たようだった。
毛布を肩にかけ、ふたりは寄り添ってソファに座る。
「……なんかね、今日はずっと、あったかかった」
「……あっためたかったからな。心も、体も」
「ふふっ、変な言い方」
「照れてんの?」
「照れてるよ……あったかいのが、嬉しくて」
みことは少しだけ俯き、すちの肩に頭を預けた。
「俺、もう少しだけわがまま言っていい?」
「いくらでも」
「もっと、甘えてもいい?」
「……俺がそれをどれだけ待ってるか」
すちはそう言って、そっとみことの髪を撫でた。
この夜は、静かに更けていった。
もう何も飾らなくていい。
ただ、好きだと思える人が隣にいて、
その人の温度を、心から感じられる夜。
それが、何よりの誕生日だった。
━━━━━━━━━━━━━━━
リビングに朝の光が差し込んでいた。
暖炉の火は消えているけれど、部屋の空気はどこかぬくもりを残している。
すちはソファで眠っているみことをじっと見つめながら、そっと毛布をかけ直した。
みことの寝顔は、どこか穏やかで、安心しきっている。
「……起こすのもったいないな」
そう呟いた直後──
「ん……すち……?」
「……起こしちゃった?」
「……ううん……声、聞きたかっただけ」
まだ眠たげな声で、みことはすちに寄り添うようにして体を預ける。
その小さな甘え方に、すちはふっと目を細めた。
キッチンでは、ひまなつといるまが先に起きてパンケーキを焼いている。
「起きた起きた、誕生日ボーイもご登場〜」
「おはよ、みこと。寝癖がかわいすぎる」
こさめとらんも眠そうな目をこすりながら集まり、
6人は食卓を囲む。
「昨日の夜、最高だったな〜」
「みこと、びっくりして泣いてたよね?」
「だって、嬉しかったんだもん……!」
みことはそう言いながら、少し照れたように笑う。
その笑顔がとても自然で、すちは無意識にその頬を撫でていた。
「……好き」
ぽつりと、誰にも聞こえないように呟く。
その言葉を受け取ったように、みことはにこっと笑った。
食事のあとは、全員で記念写真を撮ることに。
「はい、チーズっ!」
スマホのタイマーに合わせて、6人が寄り添って並ぶ。
カシャッという音とともに、幸せな瞬間が一枚の写真に収まった。
「この写真、絶対大事にしよ」
「俺、スマホのロック画面にしようかな」
「すちはこっそり印刷して部屋に飾ってそう」 「うるさい」
そんなやりとりをしながら、ふたりは自然に手をつないでいた。
帰り支度をしながら、ふとみことは考える。
(昔の俺なら、こんなふうにみんなと笑い合うなんて、想像できなかった)
(でも今は、そばにいてくれる人がいるから……)
すちがバッグを持って「ほら」と声をかけると、
みことはその手をぎゅっと握り返した。
「……すち、ありがとう。全部」
「これからもするから」
「うん……頼りにしてる」
言葉にしなきゃ伝わらなかった、
でも今は、目を合わせれば伝わる。
ふたりの間にあるのは、静かで、強くて、あたたかい絆であった。
━━━━━━━━━━━━━━━
♡400↑ 次話公開
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!