コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
楽屋を出ていく涼ちゃんの背中は、いつものふわっとした雰囲気じゃなくて――
どこにも、温度がなかった。
足早じゃないのに、止められない空気だけが背中から漂っていた。
若井はしばらく動けず、ただその背中を見送っていた。
「……え、今の…涼ちゃん?」
声をかけても返ってこなかった冷たい“だいじょうぶ”。
目が合った時も、何かを閉ざしているみたいな、
若井が知ってる涼ちゃんじゃなかった。
胸の奥がズキッと痛くなるような、変な感覚。
「なんだ…今の顔……」
若井は焦りにも似た気持ちで、扉の前に立ったまま固まった。
あんな無表情で、あんな言い方で、
自分を避けるみたいに出ていく涼ちゃんを――
若井は生まれて初めて見た。
「絶対なんかあっただろ…」
そうつぶやいた声は、震えていた。