コメント
9件
新作!!カラスモチーフか~!!畳み掛けるような面白い展開、好きです!!
おもれー続き待ってる頑張れ(ノ•̀ o •́ )ノ !!byナナ
9月。夏休み明けの高校生活がはじまる。
特に、学校自体に特筆すべき変化はない。
2学期だからといって、
明確に気分が上がるわけでもない。
気づけば僕は、高校最初の冬休みを、
惜しげもなく棒に振った。
そして、始業式の日の昼下がり。
いつものように僕は、学校をサボって、
都内にあるカフェテリアの窓際の席に
座ろうと、あたりを見渡した。
平日でもそのカフェテリアは賑わってお
り、子供連れが多いのか、店の中には幼い
声が響いていた。僕も座ろうと思い、窓際
の席を探す。
しかし先客がおり、 仕方なくその近くの、
日が当たらない席に腰を下ろした。
いつも頼むブラックコーヒーを注文し、
ほどなくして、席にコーヒーが運ばれる。
コーヒーに口をつけ、外を眺めていると、
「カラスの死体を見かけないのはなんでか、 知ってっか?」
と、男の声が、コーヒーをすする僕の耳に
入ってきた。いつもは僕が座る席に 、
カッ プルと思わしき男女がおり、
耳だけでその話を聞く。
聞き耳をたてるようで嫌だったが、
僕の名前にも烏《からす》という字が入っ
ているので、つい気になってしまった。
不可抗力というやつだ。
「しらなーい、なんで?」と女の方が甘っ
たるい話し方で言う。
興味がないとはたから見れば分かりやすか
ったが、男の手前、少しでも可愛げを出そ
うとしているのがわかった。
「カラスはな、都会じゃなくて、山で死ぬんだよ。だから、カラスの死骸は滅多に見ることがないんだ」
「へー、なんでわざわざ山で死ぬの?」
「えーっと、それは…」と男が女の問いに
首を傾げ、 腕を組む。どうやらそこまでは
知らないらしい。だが、知らなかったで済
ませるのが嫌だったのか、男は矢継ぎ早に
こう言った。
「ほら、あれだよ、カラスも、都会の生活に疲れたんじゃないか?人間だって、余生は田舎に引っ越したりするじゃんか?カラスは人と同じくらい賢いっていうし 」
僕は落胆する。
答えを知れなかったのもそうだが、
誤魔化すにしたって、
もっといい理由があっただろう。
だが女はそれを聞いて、確かにね〜、
と相槌《あいづち》を打っていた。
まだ会話は続いていたが、
これ以上聞く気にはなれず、 店を出た。
将来僕に彼女なるものができれば、
あんな口からデマカセは言わず、素直に知
らないと言うだろう、そう思いながら、
家への帰路を辿った。
それからしばらくしてだろうか。
空が暗くなり、
ポツポツと雨が降ってきた。
傘は持っていなかったが、
それほど雨足も強くもないので、
気にせず歩く。
すると、帰り道のゴミ捨て場に、
一羽のカラスがいた。
カラスは、左目に大きな傷があり、
翼もボロボロだが、
いつも見るような他のカラスより、
かなり大きかったように感じ た。
気にせず横を通り、そのカラスを背に
歩いていくと、声が聞こえた。
「烏崎帳《からすざきとばり》、エンカウント。同期を開始します」
機械的な声が聞こえ、
僕は後ろを振り向 く。
すると、後ろにいたカラスが、
道の真ん中に佇み、
こちらをじっと眺めている。
さっきの声は、気のせいか?
と思いつつも、不気味にそこに佇むカラス
に言いようのない不安を抱きながら、
少し早足でその場を去ろうとした。
その時だった。
突然、カァー! というカラスの鳴き声
が、 あたりに響く。
その鳴き声は、僕の頭の中で反響するよう
に、何度も聞こえた。
何度も何度も頭の中で、
カラスの鳴き声がぐるぐると巡る。
しかも、どんどんそれが大きくなる。
やがて耐えきれなくなり、
うずくまって目と耳を塞いで、叫んだ。
「うぁぁぁぁぁぁぁッ!」
叫んだ途端、キィーンという耳鳴りのよう
な音がして、鳴き声が聞こえなくなる。
次に目を開けると、そこには、いつもの帰
り道が広がっていた。雨は止んでおり、
カラスの姿もない。
「幻覚でも見たのか…?」と僕が呟くと、
「あれ、人がいる!」という高い声が聞
こえた。声の方向に目を向けると、
そこには僕とおおまか同じくらいの年齢だ
と思われる、少女がいた。右の耳に、
なにやらヘッドホンのような、
イヤホンのようななにかを着けており、
着こなした制服には、僕と同じ高校を表す
校章が付いていた。
「あの!すいません!他に人を見かけませんでしたか?どこを探しても人っ子一人いなくて…」
「なんだって?」
なにを言っているんだ、この子は。
ひとまず立ち上がり、話を聞こうと思った
僕だったが、なにやら左耳に違和感を感じ
る。手を伸ばし触れてみると、そこには少
女が右耳に付けているものと同じものが装
着されていた。外そうとするが、外れな
い 。
「なんだ、これ」
「わたしもわかんなくて…突然変なカラスが鳴いたと思ったら、ここに…」
「君も?一体何なんだ、いきなり。何かのドッキリか?」
「わたしもそう思ってさっきから人を探してるんですけど、いないんです!しかも、なぜか家には帰れないし…助けてください!」
「助けてって言われたって…」
僕だって何がなんだかわからない。
助けを 求められても困る。
これだから、 女は嫌いなんだ。
やはり僕には彼女なんてものはできそうに
ない。
そんなことを考えていると、
少女が空に指を指す。
「あ!あれ!カラス!」
見ると、先程僕に鳴いたカラスがいた。
しかし一羽だけではない。目の傷の位置が
左目ではなく右目だったり、
傷がついている場所が翼だったり、
それぞれ微妙に特徴の違うカラスが、
数十匹ほどで空を覆っている。
「なんだ、あれ!?」
「わかんないですよ、私だって!」
混乱する2人をよそに、
カラス達は道を作るように左右へ退いた。
すると中央に一羽のカラスだけが残り、
太陽の光が後ろからそのカラスを照らす。
眩しくて思わず2人共目を手で隠すように
覆う。
するといつの間にか目の前に、
一人の男が立っていた。
男は真っ黒なくちばしのようなマスクで
顔を隠しており、 身長は僕より頭一つ分高
かった。体が真っ黒なマントで覆われて
いるのかと思ったら、バサァとそのマント
がはためく。
それはマントではなく、大きな翼だった。
黒い羽があたりに舞い落ちていく。
「お二人様、ようこそ、“鴉山《からすやま》”へ!」
男が腕を目一杯広げて歓迎し、
カラス達がそれに合わせて、
バサバサと翼で羽ばたく音が聞こえた。
僕の2学期は、 どうやらかなり変わった始
まり方をしたようだ。