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◆
「も、もう一回やってみてくれ…」
的とセルの間、五間(約十メートル)ばかりを視線が往復する先生とはきっと、今同じ気持ちだ。
−−本当に某が?−−
まず、魔法現象として現れる火や水は見えなかった。周りの木がまとう葉も揺れていない。つまり、風の魔法や自然的に吹いた風でもない。
とりあえず、もう一度魔石を的へ向け、右手を魔石に被せ、目を瞑り。
やはり魔力の流れは感じない。そもそもわからない。(……!!)
今度は力を込める直前に目を開け、視線を地に落とす。
小さな砂埃を立てて、的を二寸ほど飛ばした。
そして己の視線が段々と遠く低くなっていることに気付いた。咄嗟に後ろ受け身を取ろうとしたが、体が動かなかった。
脱力感。
「だ、大丈夫か!?魔力切れだな?少し日陰に……」
意識が浮遊する。
とん、とん。支えられている体が上下する。「はは、うえ?」「セル?大丈夫かしら?先生から伝書鳩が来てびっくりしたわ。慣れない事して大変だったのね。あまり無理しちゃ駄目よ?」
母がおんぶをしながら優しく話してくれる。温かく、安心できる背中はさっきとはまた別の感覚で意識を浮かせた。
次に起きたのは自宅のベッドだった。「セル!大丈夫か?体調は?体はしっかり動くか!?」
父がかなり慌てて近づき、肩をがっしりと掴む。
「あなた。起きたばかり何だから揺さぶったりしないでちょうだい。あと、取り乱しすぎよ?」
母はくすっと笑って父を見た。
「そうそう、セル。あなた剣術がかなりすごかったみたいじゃないの?先生褒めてたわよ?『初等部の、しかも一年生であそこまで剣を振れる人は初めて見た』って。お母さんの知らないところで練習でもしてたの?」
「いえ、そうではないのじゃが、少し詳しかっただけござる。それより父上!的に向けて魔石に力を込めた際に目に見えぬ物が的を捉えたのじゃ。どうしてか教えていただきたいでござる!」
無理やり変えた話題に父は、うーむと頭を捻り、眉間に皺を作る。
「なら、今度の休日に、団長のとに行ってみるか」
父は騎士団に所属していて、その団長とは同級生だそうだ。
「ところで父上。今日も勤めのある日ではなかったでござるか?」
目を逸らしながら「セルが心配で休みを……。」と、言っていた。きっと明日は忙しいのだろう。
◆白炎騎士団
父と約束した休日になり、町の方へ出掛けていた。正確には町より少し外れた場所にある砦が目的地だ。
「着いたぞ。セルはこの砦に来たのは初めてだったか?」
「んむ。町へ足を運ぶ度に見えはしていたものの、ここまで近くに来たのは初めてでござる」「そうか。じゃあ、はぐれたりするなよ……っと。ああ居た居た!おーい、だんちょー!」
そう言って一際目立つ鎧を身につけ、へその高さまである剣に両手をかけた男に駆け寄る。
「おい!何度言ったらわかるんだ。団員の前ではしっかりしろと……」
「いいじゃねえか。もう今更だろ。みんな気にしてないって」
周りを見てもこのやり取りに目を向けるものはいない。いつも通りなのかとあまり深くは考えないでおくのが良いかもしれない。
「ったく。で、その子が『魔力塊』を使った子か」
「お初にお目にかかります。カナクト・ヘデリオ。ローシェが息子のカナクト・セムロルでござる」
ちなみに父がヘデリオ。母がローシェである。
「俺は『ガウス・ウェスカー』だ。ふむ、ヘデリオより礼儀が成っているのがよくわかった。ヘデリオ、お前も見習ってくれ」
父は引きつった笑いを浮かべて両手を胸の前にして降参を表していた。
「早速だが魔力塊について話すとするか」
魔力塊とは体内の魔力を魔法現象に変えず、“そのまま”体外へと放出したものだ。
利点は形が変えやすく、外部からの力で形が変わりにくいこと。
欠点は多大な魔力が必要で、一定以上の魔力が体から無くなると、貧血の様な状態になることだ。
「それと、できる奴なんざそうそう見ねえぞ。第一次、使う上でデメリットが大きいしな」
すると面白いことを思いついたかの様な顔でウェスカーは笑みを向ける。
「そうだ。この親バカから聞いたが、剣もできるそうじゃないか?一戦やってみないか?」