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翌日の放課後。
いつものように、二人で帰る。
昨日、初めてキスをした。
その記憶がふいに蘇るたび、仁人は隣を歩く舜太の顔をまともに見られなくなっていた。
❤️「……仁ちゃん。」
💛「……なに。」
❤️「今日、ずっと俺のこと見いひんやん。」
💛「見てるだろ。」
❤️「えー? 全然目ぇ合わへんけど。」
💛「……気のせい。」
❤️「ほんまに?」
💛「……うるさい。」
いつもと同じやり取り。
いつもと同じ帰り道。
それなのに、昨日までとは何かが違っていた。
つないだ手の温度が、まだ指先に残っている。
思い出すだけで胸の奥が騒がしくなり、隣にいる舜太の存在が、いつもより近く感じられた。
もっと知りたい。
もっと一緒にいたい。
明日も、その次の日も。
できることなら、この先もずっと、隣にいてほしい。
そこまで考えたところで、仁人は足を止めた。
❤️「……仁ちゃん?」
💛「……舜太。」
❤️「ん?」
仁人は、つないだ手を見つめた。
昨日、自分から握った手。
昨日、自分から縮めた距離。
以前の自分なら、恥ずかしさに負けて、何も言えないまま終わらせていたかもしれない。
けれど、もう逃げたくなかった。
分かってほしいと願うだけではなく、自分の言葉で伝えたかった。
💛「……俺さ。」
❤️「うん。」
💛「昨日、帰ってからもずっと考えてた。」
❤️「……何を?」
💛「お前のこと。」
舜太が、ぴたりと動きを止める。
仁人は一度だけ息を吸った。
💛「一緒にいると楽しいとか、もっと一緒にいたいとか。そういう気持ちは、もう分かってるんだけど。」
言葉にするたび、心臓が大きく鳴る。
それでも、今度は目を逸らさなかった。
💛「……たぶん、俺が思ってるより、ずっとお前のことが好きなんだと思う。」
言い終えた瞬間、顔が熱くなった。
けれど、「忘れて」とは言わなかった。
なかったことにしたくなかった。
これは、誰かに導かれた言葉ではない。
自分で選び、自分の意思で伝えた言葉だった。
❤️「…………。」
舜太は、驚いたように目を見開いている。
💛「……何か言えよ。」
❤️「いや……。」
舜太は一度俯き、それから、こらえきれないように笑った。
❤️「……めっちゃ嬉しい。」
💛「……うん。」
❤️「俺も好きやで、仁ちゃん。」
その言葉は、思っていたよりもまっすぐに胸へ届いた。
ずっと知りたかった答えなのに、いざ聞いてしまうと、どう受け止めればいいのか分からない。
💛「……そっか。」
❤️「それだけ?」
💛「……いや、嬉しいけど。」
#snjn
のりもちさん
9,062
❤️「けど?」
💛「……恥ずかしい。」
舜太はとうとう声を上げて笑った。
❤️「もう、ほんまに仁ちゃんらしいわ!」
💛「笑うなよ!」
❤️「ごめんごめん!」
笑いながら、舜太はつないだ手を握り直す。
その温度に、仁人の胸の奥がゆっくりほどけていった。
❤️「……なあ、仁ちゃん。」
💛「なに。」
❤️「これからも、こうやって一緒に帰ってくれる?」
仁人は、少しだけ目を丸くした。
昨日、自分が願ったこと。
明日も、その次の日も、一緒に帰りたい。
その願いを、舜太も同じように抱いてくれていた。
💛「……当たり前だろ。」
❤️「……うん。」
💛「……お前が嫌じゃなければ。」
❤️「嫌なわけないやん。」
舜太は、いつもの笑顔で言った。
❤️「俺は、ずっと一緒におりたいもん。」
その言葉に、仁人は返事ができなかった。
困ったからではない。
胸の奥がいっぱいになって、言葉が追いつかなかっただけだ。
代わりに、つないだ手をぎゅっと握り返す。
舜太も、同じ強さで握り返してくれた。
言葉の代わりに交わしたその合図が、今は何より確かなものに思えた。
◇
駅に着く頃には、空はすっかり茜色に染まっていた。
改札の前で、二人は立ち止まる。
❤️「……じゃあ、また明日な。」
💛「……うん。」
いつもなら、ここで手を離して、それぞれの帰り道へ向かう。
けれど今日は、どちらもなかなか動かなかった。
離れたくない。
その気持ちは、言葉にしなくても分かってしまう。
❤️「……仁ちゃん?」
💛「……なに。」
❤️「まだ、帰りたない?」
仁人は、夕焼けの向こうへ目を向けた。
💛「……うん。」
❤️「……俺も。」
二人は顔を見合わせ、静かに笑った。
その瞬間、仁人はふいに舜太の手を引いた。
❤️「……え?」
驚いた声が聞こえる。
けれど、仁人は立ち止まらなかった。
つないでいた手を離し、今度は舜太の制服の袖をつかむ。
そして、一歩近づいた。
💛「……っ。」
舜太が目を見開く。
次の瞬間、仁人はそっと唇を重ねた。
ほんの一瞬の、短いキスだった。
けれど、今度は自分からだった。
舜太が何かを言う前に、仁人はゆっくりと離れる。
顔が熱い。
心臓が、大きく鳴っている。
それでも、逃げなかった。
❤️「…………。」
💛「……なにか言えよ。」
❤️「いや、ちょっと待って……!」
舜太は、驚いたまま自分の唇に触れた。
❤️「仁ちゃん、今……。」
💛「……した。」
❤️「急に?」
💛「……急にしたかったから。」
その言葉に、舜太の顔が一気に赤くなる。
❤️「……ずるいやん。」
💛「……お前がいつも急にするからだろ。」
❤️「そうやけど……!」
舜太は困ったように笑いながら、仁人の手を握り直した。
❤️「……めっちゃ嬉しい。」
💛「……うん。」
❤️「でも、心臓止まるかと思ったわ。」
💛「……大げさ。」
❤️「大げさちゃうって!」
そう言って、舜太は仁人の頬にそっと手を添えた。
不意の優しい触れ方に、仁人の呼吸が止まる。
💛「……っ、舜太?」
舜太は答える代わりに、仁人の目をまっすぐ見つめた。
その表情には、さっきまでの驚きと照れが残っている。
けれど、それ以上に嬉しそうだった。
やがて、舜太はゆっくりと顔を近づける。
そして今度は、舜太から仁人の唇にキスをした。
さっきよりも少し長い、確かめるようなキスだった。
離れたあとも、舜太の手は仁人の頬に添えられたままだった。
❤️「……これで、おあいこやな。」
仁人は、熱くなった頬を隠すように視線を逸らした。
💛「……急にするなよ。」
❤️「仁ちゃんも急にしたやん。」
💛「……俺はいいんだよ。」
❤️「なんで?」
💛「……なんでも。」
舜太は、くすくすと笑った。
その笑い声が近くで響くたび、仁人の胸はまた騒がしくなる。
やがて舜太は、つないだ手に指を絡めた。
❤️「……なあ、仁ちゃん。」
💛「なに。」
❤️「俺らってさ、ほんまにテレパシーあるんかな。」
仁人は、ふっと笑った。
💛「……あるわけないだろ。」
❤️「えー、ないん?」
💛「……でも。」
❤️「……でも?」
仁人は、つないだ手を見つめた。
💛「……言わなくても分かることは、あると思う。」
舜太は黙って、仁人の言葉を聞いていた。
💛「お前が今、帰りたくないと思ってることも。俺が、もう少し一緒にいたいと思ってることも。」
舜太の指が、わずかに動く。
💛「たぶん、そういうのは、言わなくても分かる。」
仁人はそこで一度、言葉を切った。
💛「でも、分かってるつもりでも、ちゃんと言わなきゃ伝わらないこともあるから。」
握った手に、少しだけ力を込める。
💛「……だから、これからはちゃんと言う。」
❤️「…………。」
💛「……好きだよ、舜太。」
夕暮れの駅前で、舜太は目を丸くした。
それから、ゆっくりと笑う。
❤️「……うん。」
握った手が、もう一度温かくなる。
❤️「俺も好きやで、仁ちゃん。」
その言葉を聞いた瞬間、仁人の中で、これまでの時間が静かにつながった。
最初は、隣にいるだけでよかった。
気持ちを見透かされるのが恥ずかしくて、分からないふりをしていた。
けれど、舜太が何度も手を伸ばしてくれたから、仁人も少しずつ、自分の心から逃げなくなった。
分かってほしいと思うようになった。
触れてほしいと思うようになった。
そして今、自分から伝えたいと思えるようになった。
特別なことなんて、何もない。
いつもの帰り道。
いつもの夕焼け。
いつものように隣にいる、大切な人。
それでも、二人の世界は昨日までとは少しだけ違っていた。
言葉にしなくても、分かることがある。
けれど、言葉にしたからこそ届く気持ちもある。
二人はもう一度手をつなぎ、並んで歩き出した。
駅前を離れると、夕焼けは少しずつ薄れ、空は淡い紫色へと変わっていった。
それでも、二人の歩幅は自然にそろっていた。
❤️「……なあ、仁ちゃん。」
💛「なに。」
❤️「明日も、一緒に帰ろな。」
仁人は、つないだ手に指を絡めた。
💛「……明日だけじゃない。」
❤️「え?」
💛「その次も。そのまた次も。」
舜太が、嬉しそうに目を細める。
❤️「……ずっと?」
仁人は少しだけ照れながら、それでも今度は目を逸らさなかった。
💛「……ずっと。」
舜太は何も言わず、握った手に力を込めた。
その温度が、言葉の続きを伝えてくれる。
二人はそのまま、薄暮の道を歩いていった。
言葉にしなくても、分かることがある。
けれど、言葉にしたからこそ届く気持ちもある。
だからこれからも、二人は何度でも伝え合うのだろう。
好きだと。
一緒にいたいと。
明日も、その先も、隣にいてほしいと。
テレパシーがなくたって。
二人なら、きっと大丈夫。
つないだ手の温度を確かめながら、同じ明日へ歩いていける。
薄暮の空の下、二人の未来は静かに始まっていた。
その一歩目を、二人は並んで踏み出した。
──── 完
コメント
1件
ああ、読了しました……!最終話、本当に素敵でした。仁人が「好きだよ、舜太」と自分の言葉で言えるようになった瞬間、胸が熱くなりました。テレパシーがなくても、ちゃんと言葉にすることで届く気持ちがある——そのメッセージが優しく沁みました。お互いに「ずっと」を約束するラストシーン、何度でも読み返したくなります。ちゃちゃゆさんの紡ぐ温度のこもった空気感が、本当に大好きです🌷