テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あわれな宇宙怪獣を倒し、その宇宙船を入手したちんすこうは早速中に乗り込んでみる事にした。
「ドロドロ向けの形してない?」
サーターアンダギーに尋ねる。彼女が言わんとしているのは、あんなドロドロしたスライムが乗っていた宇宙船を人間が利用できるのかという事である。もっともな疑問だ。
「ご心配なく。プレイヤーが最初の宇宙船を手に入れるためのクエストなので持ち主が何者だろうとプレイヤー向けの形をしてますわ」
身も蓋もないが、これももっともな話である。安心したちんすこうは早速中に入る。
「ううう……」
先程怪獣にぶつけられた村人が呻き声を上げているが、ちんすこうはこれをスルー!
「おおー! なんかすごい操縦席」
宇宙船は戦闘機のような外見をしていたが、コクピットは操縦桿といくつかのボタンが並ぶだけの簡単な作りになっている。そして全面を覆うモニターが外の様子を映し出しており、まるでガラス越しに外の風景を見ているかのようだ。
これは実はモニターを装って実際に外が見えているのだが、現実では宇宙船をそんなガラス張りにできないのでVRならではの演出と言える。もちろん外から中も見える。
「どうやって動かすの?」
「残念ながら、今は故障していて動かす事が出来ませんわ。修理するには材料と修理スキルが必要ですわね」
不時着して困っているという設定なのだから、そのまま飛べたらおかしいという事だろう。最初の惑星を全て探索してから宇宙に飛び出すという寸法だ。ゲームとして当然の話である。最初の村で最初のボスを倒してそのまま旅立たれてしまったらあまりにも寂しい。
「しょうがない。材料を探しに行くぞー!」
元気一杯、ちんすこうは宇宙船をそこに置いて村へと戻る。村人がまだ倒れているがまるで眼中にない。
「まずはこの村を出て北に行ったところにある……」
サーターアンダギーが次の目的地について説明を始めた。
「タックル!」
だが話を聞かずにその辺の家の扉にタックルを使うちんすこう。扉は粉々に砕け散った。
「一体どうしたんですの?」
もはや突拍子もない行動に驚く事もなく疑問の表情を浮かべるサーターアンダギー。
「材料を探してるの!」
そう答えて村人の家(どうやら留守だったようだ。家主はその辺に倒れているかも知れない)の中を物色するちんすこう。これは泥棒……いや、強盗である。その辺の家に宇宙船の材料があるのだろうか?
悪の化身は家の中をくまなく探し、部屋の一角にある金属製の机に目を付けた。そう、その机は先程見た宇宙船と同じ材質で作られた高級机だったのだ!
「へっへっへ、良いもの使ってるじゃない」
ふたたびタックルを繰り出すちんすこう。通常、彼女の筋力では金属製の机どころか家の扉も破壊する事は出来ないはずだが、タックルはゲームのスキルであり物を壊す効果が付与されている為、破壊不可の属性が付与されているオブジェクト以外は破壊する事が出来るのである。
(いくら自由度が高いと言っても、これではシナリオのテストが出来ませんわ)
彼女達はゲームのテストプレイをしているのだ。テストプレイヤーとして好ましくないのではと考えたサーターアンダギーはゲームの管理者である父にどうするべきか質問を送信した。
『問題なし。奇抜な行動を取ってもらった方がテストとしては好ましい』
返答は彼女の予想外のものだった。この時の寿甘の返答が後に重大な事態を引き起こすことになるかもしれないが、テストプレイは制作者の想定していないプレイングもした方がいいのは間違いなかった。
(そうなのですね!)
納得してしまったサーターアンダギーはちんすこうの暴挙を見守る事にするのだった。
「とったどー!」
ちんすこうは宇宙船の修理素材を手に入れた!
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!