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「材料が手に入ったので修理スキルを習得しましょう。まずはクエストをこなしてここに住むメカニックと仲良くなるのですわ」
メカニックから修理スキルを学んで宇宙船を修理するという展開だ。これはさすがのちんすこうも順を追わなくてはならないだろうとサーターアンダギーは安心していた。
「ここね。すいませーん!」
コンコンとドアをノックする。
「メカニックは仲良くなった人しか家に入れてくれないのですわ。こちらのクエストを」
「タックル!」
説明が終わらないうちにちんすこうがタックルすると、家の扉が粉々に砕け散った。破壊不可属性がついていないようだ。
(無理矢理入っても仲良くないと教えて貰えませんわよ)
意気揚々と家に入るちんすこうを温かい目で見守るサーターアンダギー。追い返されれば諦めてクエストをやるしかない。
「やあいらっしゃい!」
だがメカニックはドアを破壊して侵入してきた少女を笑顔で迎え入れた。
(ええっ!?)
「修理スキル教えて!」
ごく自然に話が進む。メカニックも快く彼女の要求に応え、見事ちんすこうは修理スキルを手に入れたのだった。
(これは……どういう状況でしょうか?)
混乱するサーターアンダギーはとりあえず管理者に報告した。
『恐らく仲の良い相手しか家に入れないという設定と家に入ってきたという事実の整合を取る為に、AIが彼女を自分と仲が良いものとして扱うという判断をしたのだろう。ここは要修正だな』
やはりおかしい状況だったと分かり、またバグを発見した実績を得た事で満足したサーターアンダギーは最大の問題点をちんすこうに伝える事にした。
「よーし、宇宙船を修理するぞー!」
スキルで宇宙船を修理する様子を黙って見守る。今度ばかりは絶対に上手く行かない事が確定しているのだ。その時が来るのを黙って待った。
「ところで、戦闘機みたいな形だけど宇宙で怪獣と戦うの?」
「そうですわ。あと、ちんすこうさんならきっと経験する事になると思いますが、他のプレイヤーと戦闘できます。PK、プレイヤーキラーというものですわ」
もはや悪人プレイをする前提でナビゲートするサーターアンダギーだが、当然のように目を輝かせるちんすこうだった。
「PK! ……あれ、他のプレイヤーっているの?」
彼女達はテストプレイヤーである。ちんすこうにしてはなかなか鋭い指摘であった。
「いますわよ。テストプレイは大人数でやるものですので、現時点で同時にプレイしているテスターは約千人ほど」
どこで募ったのか、カオスユニバースのテストに参加している人間は多かった。
「ですが、お互いにPKが可能になるのは二つ目の星を探索し終わってからですわ。初心者狩りを防ぐためですわね」
PKのあるMMORPGではよくある事だ。黎明期のMMORPGではしばしば初心者を標的にして安全にPKを行うプレイヤーが少なからず存在し、数々のトラブルを生んだ。
その為PKが出来る範囲が時代と共にどんどん狭くなっていった経緯があるのだった。
カオスユニバースのPK可能領域は過去のMMORPGに比べると非常に広いが、舞台が宇宙空間なのでそもそもPKに遭遇する確率が低いという事も考慮しての設定だった。
「そっかー、じゃあさっさと次の星に行こう!」
そう言ってコクピットに座るちんすこう。だが、宇宙船は動かない。
「あれ? どうやったら動くの?」
「燃料がありませんわ」
そう、燃料がないので飛べないのだ。
「燃料はここから南にあるサウスタウンという町の燃料ステーションに行かないと手に入りませんわ」
してやったりという顔で説明するサーターアンダギー。さすがにちんすこうもサウスタウンへ向かわなくてはならない。
「じゃあ、サウスタウンへしゅっぱーつ!」
特にがっかりした様子もなく、すぐに元気いっぱい歩き出すちんすこうであった。
(めげませんわね……まあその方が楽なのですけど)
やれやれといった様子で肩をすくめ、共に南へ向かうナビゲーターだった。