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死神は好かれない。
そんなの当然だ、みんな死が怖いんだ。そんなこと分かってる。
よく人はみんな死ぬ時は怖い顔するだろ?あれは死ぬ原因じゃなくてが怖いんじゃなくて、実は死ぬ間際に俺(死)が見えるからだ。
みんな、嫌 …..死にたがってた奴でさえ、「来るな、嫌だ」って足掻いて来る。運が悪いよな。彼奴らも俺も。
そんなことを考えながら、今日も俺は宙を漂っていた。死神ってのは結局人間で言うある種の職業的な奴で、それに正しさや満足感を求めるのは違うって分かってる。
「でも、きついんだよなー。嫌われんの、心にグサッてくる。」
死神はふらふら歩いてるだけでも、本能ってのがバシバシって刺激されてるのかな。何も考えず浮遊しててもこれから死ぬ人間に辿り着く。
「今回の人は俺を愛してくれるかな。」
そんな幻想じみた独り言を呟いて、これから死んじゃうカワイソーなターゲットさんへ視線を移す。
思わず、目を見開いて何も考えられなくなる。ただごくりと喉を鳴らす。
一言で伝えるなら「美しい」。
この世の絵画を煮詰めて1つのにしてしまうのなら、この人が作られるのだろうと言うほどの美貌。まるで大きな翼を広げる天使だ。
そんな彼女が、首を吊るためのロープを両手で掴み上目遣いで括り目を見つめていた。
その光景に似つかわしくないほど、そのロープを掴む手は、爪が深く食い込むほど強く握られていて彼女の覚悟と絶望が刻まれていた。
何があったのだろう。このまま生きていれば、女優にでもなれば、きっと名声も富も地位も一瞬で手に入るだろう。
とめどなくそんな思考が流れてくるがそれは彼女がこちらへ視線を向けた途端、またぱったりと消しゴムで消されたかのようにクリーンなものへとなった。
「貴方はだぁれ?」
そう問う口調は、死ぬ間際だからかロープを握る手とは反対に大変穏やかな口調だ。
「し….死神。」
「….そう。ホントに居たのね。それに貴方が本当に死神だって、嘘ついてないって分かっちゃう。不思議なものね。」
そう笑う彼女は、うっとりと目を細める目に生える長いまつ毛と、窓から差し込む夕暮れの光に反射する瞳がとても印象的だ。
「どうして、死のうと思ったわけなの…?」
眉を下げそう聞くと、不思議そうに細めていた目を開けてに小さく口を開けた。
何故か、出会ってすぐのくせにその仕草を見て嫌われたと思って息が荒くなる。
嫌われるのは慣れっこなのにそれに恐怖し、彼女の一挙手一投足に目が離せない。彼女のこちらに向ける瞳に吸い込まれそうになる。
彼女の瞳に反射した俺が居たならば、きっとそこには汗で濡れた俺が突っ立てて、己に首輪を付けられたと錯覚するだろう。
実際は扉が映されているだけなのに
「…..貴方は死神なのに、そんなことを聞くのね。人が消える理由なんて単純なものじゃないの?」
「ぁ….ごめ…」
「別に謝らなくったていいわ。怒ってないもの。」
彼女は一度ロープを握る手を離して立っていた台座に腰を下ろした。
「少し….学校でいじめを受けていて、それにお母さんからも暴力を受けて….もう休みたくなったの。少しくらい眠ってもいいでしょう?」
彼女はそう目を閉じて、昔話を子供に読み聞かせる様に変わらず穏やかに話し始めた。
「もし輪廻転生?ってものがあるならば、今回くらい棒に振ってもいいと思って。この罰で次がどんなに辛くなってもいいわ。」
「あぁでも、一度は誰かに愛されたいわ。
幼なじみの親友がいたんだけど、もう仲良く無くなっちゃって。きっと同じことをされたくなかったのでしょう。」
「でも、変に話しかけられるより何も話しかけてこない方が楽だったわ。そう昔から辛い時はじっくり1人で考えたいタイプだったの。」
少し瞳を開けて床を眺める彼女の瞳は少し揺らめいていて、なんだか吊り下げられたロープの輪っかが天使の輪のように見えてどんな名画より美しいと思った。
「じゃあ俺が….!俺がお前を愛したい!」
まるで犬が主人に駆け寄るように彼女の元へ駆け寄る。ぺたんと座って彼女を見上げれば、その揺らめく視線は俺の方に向けられた。
彼女を独り占めしたようで少しだけ優越感に浸る。心地いい、もっと浴びたいそんな欲が溜まっていく。
「ほんとうに?」
天使のような雰囲気から、一瞬年相応の子供のようにそう問いかけてきた。「勿論」と返すと、彼女は俺の頭を優しく撫でる。
それがこそばゆくて片目を細めると、彼女は台座から腰を上げて目線を合わせるように床に腰かけた。そして俺の手を掴み、首元へと持ってこさせる。
「じゃあ貴方が、お前が絞めて。力いっぱいに、ゆっくり….じっくり愛して。」
「….分かった。」
その言葉に、彼女からの願いに思わず笑みを浮かべる。
「愛してる。」
そう彼女に囁いて、押し倒すと手のひらに力を入れて締め始める。
ぱくぱくと息を取り入れる音が耳に入るが、それを打ち消してくれるように「わたしも」「だいすき」「あいしてる」と言う言葉が鼓膜に流し込まれる。
さらにギュッと力を入れると、喉が締め付けられて放たれる言葉は更に細くなる。
それと同時にだんだんと気づいていく。分かるはずだったのに分からなかったことが。
頬にある大きめのソフトパッド、手首に刻まれたリストカットの跡、血まみれのカッター。数多の絆創膏、部屋の散乱具合。空っぽの錠剤。破かれたノート、泣きシミのあるハンカチ。
服装は学校の制服のセーラ服、真面目な人間なのか膝丈のスカート、いじめの影響か、汗か、その両方か、少し服が湿っている。
目元に深いクマ。
誰かに愛され、愛したいと願いからでた嘘の告白と愛の言葉。
彼女は天使ではなく。ただの人間だ。
「結局は”‘俺もお前も”‘誰にも愛されないんだな。」
そう呟く頃にはその『人間』は冷たくなっていた。