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#恋愛
ばたっちゅ
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#オリキャラ
月咲やまな
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戸崎が我が家のインターホンを押したのは、それから数十分ほどが過ぎてからだった。
チャイムが鳴ってすぐ、柚乃は飛びつくようにしてインターホンのモニターを確かめ、ぱたぱたとリビングを出て行った。
柚乃の動きの素早さに驚きながら、私も一緒に行こうとしたが、戸崎が連絡してきたのは姉なのだと思ったら、足が止まってしまった。けれど、二人が何を話すのか、どうしても気になった。良くないことだと分かってはいたが、私はリビングのドアに少しの隙間を作り、そこに耳を当てた。
ぎこちないような挨拶の後、途切れ途切れに聞こえてきたのは、いつ帰ってきただとか、何をして過ごしていたのかだとか、他愛のない内容の会話だった。親密そうな言葉を交わし合っていなかったことに、ほっとする。
会話が終わってしばしの沈黙があった後、「それじゃあ、これで」と言う戸崎の声が聞こえた。
あぁ、彼がもう行ってしまうと思った途端、私は居ても立っても居られなくなった。ひと目でいいから顔を見たい、可能ならば言葉の一つも交わしたいと、気持ちのままに廊下に飛び出して玄関まで出て行く。
戸崎はまだ、開け放たれたドアの向こう側にいた。
私に気がついて彼は明るい笑顔を見せる。
「詩乃ちゃん、こんにちは。夏休みは楽しんでる?」
彼の眩しい笑顔にどきどきしながら私は答える。
「こんにちは。はい、それなりに」
「あはは。それなりにか」
戸崎は愉快そうに笑い声を上げ、柚乃の手元に目線を移して続ける。
「藤川さんに渡したそれ、俺の地元では『銘菓』って言われてるお菓子なんだ。食べてみてね」
「ありがとうございます」
礼を言う私に笑いかけてから、彼は柚乃に顔を向ける。
「それじゃあ、藤川さん」
戸崎はそこでいったん言葉を切り、瞳を揺らした後、ためらうような微笑みを浮かべた。
「帰ります」
「今日はわざわざありがとうございました」
柚乃は戸崎に礼を言い、ぎこちなく微笑んだ。
「あら?お客さん?」
玄関前のアプローチ側から母の声が聞こえてきた。仕事を終えてから、今日はどこにも寄らずに帰って来たようだ。
戸崎ははっとした様子で母の方にくるりと向きを変え、ぺこりと頭を下げた。
「は、初めまして。戸崎と言います」
緊張した様子の戸崎を助けるかのように、すかさず柚乃が補足する。
「私と詩乃の知り合いで、私と同じ神澤大の学生さんよ。今日は帰省のお土産を持って来てくれたんだ」
「あら、そうなの。なんだかすみませんねぇ。ありがとうございます」
にこやかに礼を言った母だったが、すぐにおやっというように軽く目を見開く。
「もしかして、この前柚乃の学生証を届けに来てくれた方かしら?その前には確か、柚乃を送って来てくださった?」
「は、はい」
「やっぱりそうでしたか。柚乃が色々とお世話になったようで、ありがとうございました」
「いえ、そんな、全然……」
「ところで、お土産を頂いたそうで」
柚乃は母に紙袋を掲げて見せる。
「これを頂いたの。戸崎さんの地元のお菓子なんだって」
「あら、その紙袋って」
母は嬉しそうに笑い、戸崎に訊ねる。
「もしかして、戸崎さんは、宮城県のご出身?これって、仙台土産と言えば、っていうあれですもんね?」
戸崎は驚いたように目を見開く。
「ご存じでしたか?」
「知ってるも何も、私の故郷の大好きなお菓子なのよ。私は仙台市なんだけど、戸崎さんはどちらです?」
「俺、いや、私もそうです。郊外の方ですけど」
「私も似たようなものよ。それにしても、二人の知り合いにお母さんと同郷の方がいたなんて、なかなかの偶然ね」
母は嬉しそうに言って、戸崎を見る。
「この後、もし特に予定がなければ、お茶でも飲んで行きませんか?わざわざ来てくださったわけだし」
「いえ、そんな、お気遣いなく」
戸崎が恐縮しながら答えていたところに、碧斗がやって来た。
「こんにちは!」
幼なじみは不思議そうに私たちを見回す。
「皆で玄関先で何やってんの?」
「あら、碧斗君、こんにちは。お茶でもどうですか、ってお客さんをお誘いしていたところなの」
「お客さん?」
碧斗はすぐに戸崎に気がつき、軽く会釈する。
「先日はどうもです」
「こんにちは」
「あら?碧斗君も知り合いなの?」
「えぇ、まぁ……」
「それなら碧斗君も寄って行かない?お菓子を頂いたの。これで皆でお茶しましょうよ」
「へぇ。それなら、お邪魔しようかな」
「ぜひそうして。さ、戸崎さんもどうぞ」
戸崎はまだ迷っている様子だったが、碧斗が靴を脱ぎ、玄関を上がったのを見て、気持ちが決まったらしい。
「それじゃあ、ちょっとだけお邪魔します」
戸崎はおずおずと言って、玄関の内に足を踏み入れた。
皆が家に入ったのを見て、母は玄関のドアを閉め、端の方で靴を脱ぐ。
「お母さん、先に行って、グラスとか、用意しておくわね」
「あ、お母さん。お茶請け、それじゃなくてもいい?」
「ん?いいけど、他に何かあったかしらね」
「実はパンケーキを焼いたのよ。詩乃はもう食べたんだけど、美味しいって言ってもらったから、皆にも食べてみてほしいかな」
「そうなの?それじゃあ、そうしましょうか。そっちは柚乃に任せるわね」
「分かった」
母がキッチンに入って行った後、碧斗がふと思い出したように私に訊ねる。
「そう言えば、さっきの電話って何だったの?」
「柚乃がパンケーキを焼いたから、良かったら食べに来ないかっていうお誘いだったの」
「柚乃が作ったのに、詩乃が電話をかけてきたんだ?」
碧斗の疑問に対して、柚乃は含み笑いをする。
「まぁね」
そこにいったいどんな意味を察したのか、碧斗は苦笑いする。
「でも、なんでまた、この暑い日にパンケーキ?」
「秋に学祭があるから、ぼちぼちその試作をね」
「あぁ、サークルの出し物か」
碧斗と柚乃の会話を聞いていた戸崎が、興味を引かれたように訊ねる。
「藤川さんって、お菓子作りとか、そういうの得意なの?」
「えぇ、まぁ、一応は……」
「たまに食べさせてくれるけど、なかなか上手ですよ」
「そうなんだ」
「と、とにかく、リビングにどうぞ」
褒められて照れたのか、柚乃はそそくさと戸崎の先に立ち、奥へと案内して行った。
二人の背を眺めていた私の胸中は複雑だった。戸崎が我が家の玄関をくぐり、同じ空間に身を置くことになったのは嬉しい。けれど、ただでさえ怪しいと感じている二人の関係が、ますます発展してしまいそうな予感がして、表情が曇る。
「詩乃?どうした?」
碧斗の声にはっとした。
彼は眉根を寄せて、心配そうに私を見ていた。
「何でもない。私たちも行こう」
私は表情を取り繕い、作った笑顔で碧斗を促した。