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レーナが王都から戻って二日後の朝。 郵便受けから新聞を持ってきたレインは国王陛下が裁判にかけられるため、急遽王太子が王に即位したと教えてくれた。
「ふうん、あの王太子仕事が早いのね」
「『お手つき』になった魔女にイカサマ仕掛けてデマだとでっち上げようとしたんだ、退位じゃ生ぬるいくらいさ」
「レインの言う通り、裁判なんて生ぬるいわ。斬首にでもなればいいのよ」
「ノア、この前からどうしちゃったの!? 物騒だよ!?」
カチコミに行こうと言ったり斬首と言ったり、最近のノアはいちいち言うことが物騒で困る。
「アタシのレーナにちょっかいかけられたことが許せないだけよ」
「それは、その、ありがとう」
ここ数日の物騒発言の理由が分かり、レーナは嬉しいやら恥ずかしいやらで、ごにょごにょと言葉を濁した。
「はいはい、惚気るなら後にしておくれ」
その日の午後、何かと因縁をつけてくるメイが慌ただしく店にやってきた。
「失礼します! レーナはいますか!」
珍しいお客はレーナに用があるようだ。本当に珍しい。裏方で魔道具を作っていたレーナは店に顔を出した。
「なあに、メイ」
「ここじゃアレだから、レーナの部屋に行きましょう。レインさん、レーナをお借りします!」
「ええ? どうしたの?」
「いいから!」
メイに手を引かれながら、レーナは二階の自室へと向かった。レーナの部屋に辿り着くなり、メイはレーナに迫った。
「ねえレーナ、この前王室から呼び出されたんじゃないの?」
なんでそれをメイが知っているのか疑問に思うレーナだが、召集にかけられたなんて言えないので嘘ををつく。
「そんなことあるわけないよ」
「だったら、どうして王室の馬車から降りてきたの?」
「まさか、メイ見てたの……!?」
「やっぱりあんたとノアさんだったんだ……」
根が正直者のレーナは、最後まで嘘をつけなかった。
「この部屋、わずかだけど悪魔の力が残ってる。レーナ、もしかして、ノアさんの『お手つき』になったんじゃないの?」
魔女としての能力が非常に高いメイは、プライドも高くレーナをポンコツ呼ばわりしてくるがプライベートには踏み込んでこなかったので、どうしてここまで気にするのか分からなかった。
「そんな、違うよ」
「じゃあ、どうして王室から呼び出されたの? 隣村で馬車を降りたの? 何もやましいことがなければそのままトート村までかえってくるでしょう? でも、レーナとノアさんはそうしなかった。知ってる? 魔界は今、王子の婚約発表で毎日お祭り騒ぎだと魔界新聞に書いてあったわ。『ノア王子、人間の女性と婚約』って──」
「メイ、魔界の新聞も読んでるの?」
魔女であるレインは魔界から新聞を取り寄せているが、レーナは目を通していなかった。もちろん、ノアも読んでいる。
「当たり前でしょう。考えてみればおかしいことだらけよ。ノアさんの美しさは、そこらの美男子より遥かに優れている。それに、隠しきれない魔力の高さ……。レーナは麻痺して気づいてないのかもしれないけれど、この部屋はノアさんの魔力の片鱗があちこちに残ってる。意地悪してきた私に問い詰められても言いにくいのは分かるわ、今までごめんなさい。でもね、同じ魔女としてこれでも心配してるのよ。『お手つき』になった女は一生魔界で暮らすの、さすがに知っているでしょう? レインさんのお店はどうするの? レーナの夢は? レインさんのような魔女になることでしょう!?」
熱く語るメイはうっすらと涙を浮かべていたので、レーナは大変驚いた。
ずっと嫌われていると思っていたレーナは戸惑う。実際そうなのかもしれないし、違うのかもしれない。
でも、魔女としての誇りを強く持っている者同士、思うところはあるのだろう。
「メイはずっと私のことが嫌いなのかと思ってた。でも、ちょっと違ったんだね」
思ったことをそのまま言ってしまうレーナに、メイは苦笑しながら想いの丈を話してくれた。
「……私はレーナが羨ましかったのよ。レーナには立派な魔女レインさんがいる。でも、私の家族には誰ひとりとして魔女はいない。ないものねだりってやつね」
「そうだったんだ……」
「でも、レーナの運のよさは本物よ。あのレインさんよりも上ですもの。ねえレーナ、本当のことを言って、誰にも言いふらさないから」
メイのかつてない真剣な表情にたじろぐレーナは、真っ直ぐ見つめる意思の強い瞳には勝てなかった。
「……メイの言う通りだよ。私はノアの『お手つき』になったの」
「やっぱりそうなのね……。ねえレーナ、あんたはそれでいいの?」
「そもそも私の過失だし、ノアのことはちゃんと好き。でもね、ノアは私と一緒にここにいるって言ってくれたの。このお店も、私達の子どもが継ぐ予定。ノアって悪魔なのにすごく優しいの。いずれは魔界に渡るけど、それもずっと先なの。メイが言ってくれた私の運のよさは本当だった。だって、こんなに私のことを愛してくれるひとはノアしかいないって断言できるから」
レーナが朗らかにそう言うと、メイは面食らったように瞬いた。
そして、やれやれといった風に微笑んだ。
「レーナ……。余計なお世話だったみたいね。でも、ローラとリリスにも言っていないのでしょう? 言わなくていいの?」
「やっぱり言った方がいいかな?」
「変に噂が広まってそこで知るよりいいと思うわ」
「噂?」
「あんた、そんなだからポンコツって言われるのよ。勘のいい魔女だったら気づくはずよ、ノア王子が誰かだって──」
「もう、こんな時までポンコツって言わないでよ。でも、ありがとう。ローラとリリスには言うよ」
「そうした方がいいわね。それにしても、あのレインさんがこのことをレーナに言わなかったなんて意外だわ」
「おばあちゃんは私とノアを信じてくれてるからだと思う」
「信頼が厚いのね、やっぱり羨ましいわ。でも、そうね、とりあえず婚約おめでとうでも言っておこうかしら」
「ありがとう。メイと話せてよかったよ」
レーナは屈託なく微笑んだ。その笑みは、今まで意地悪なことを言ってきたメイに向けられたものだ。メイは嫉妬で嫌なことを言ってきた自分を恥じた。レーナのように真っ直ぐ生きてみたいと思わされるほど、メイはレーナの心の美しさに眩しさを覚えた。
「……レーナ、ありがとう」
和やかな雰囲気で話は終わり、一階へ行こうとしたら急にノックされてふたりはびっくりした。ノックの返事も聞かずドアを開けたのは、話題の渦中にいたノアだった。
ノアはにっこり微笑んで「秘密の会話は終わりましたか?」と言った。
「ええ、魔界の王子様が婚約されたお祝いをしていたところです」
メイが挑発めいたことを言うのでハラハラするレーナをよそに、ノアもそれに応じ誰もが見惚れる美しい笑みを見せた。
「そうですか。王子もさぞ喜んでいることでしょう」
ふたりとも分かっていてやっているとレーナでも分かる一触即発のふたりを見て、どうにか宥めようとしているレーナを見たメイは、なんだか可哀想になってきたのでやめてあげた。
「……レーナのこと、ちゃんと幸せにしてくださいね」
「言われなくても」
それだけ言うと、メイは帰って行った。
ふたりでメイを見送ると、ノアは「あの魔女、本当に勘がいいわね」とぼやいた。
「まあ、おばあちゃんに次ぐ魔女はメイっていわれてるくらいだから……。メイにね、ローラとリリスには言った方がいいって言われちゃった。勘がいい魔女は私とノアのことに気づくかもって言ってた。私、家族も大切だけど、友達も大切なの。ねえノア、ローラとリリスに言ってもいい?」
「レーナがいいのなら」
「あのふたりならきっと受け入れてくれると思うの。だって、友達だから」
「……そうね、レーナはいい友達を持っていたわね」
次の休日、レーナはローラとリリスを自宅に呼び出した。
「……という訳で、私はノアと出会い、今に至ります」
ふたりは驚きに固まり、やや恐怖の混ざった表情でノアを見つめた。
しかし、思うことはふたりとも一緒だったようで、顔を見合わせて頷いた。
「ノアさんは、レーナのことを愛してますか?」
「ええ、もちろん。世界中の誰よりもレーナを愛しています」
ノアの確固たる意志を聞いて納得したふたりは、笑顔を浮かべレーナとノアに微笑みかけた。
「だったら私達に言うことはありません。レーナを絶対幸せにしてくださいね」
「当然です」
「ねえノアさん、本当の姿って見せてくれます?」
興味津々といった風にリリスは食いついた。真実を知らせた今、隠すことはもうない。
「いいですよ」
ノアは魔法を解除すると、金髪赤眼の元の姿に戻った。黒髪黒眼でも美丈夫だったが、本来の姿は悪魔なのに神々しいと思ったローラとリリスは、そのあまりの美しさに惚れ惚れする。
「わあ、悪魔って感じがします」
「それはどうもありがとう」
「ふたりが出会ったきっかけも、その『お手つき』というやつなの?」
どうやらまだ混乱しているらしいリリスは、先ほど説明したことを聞いてきた。無理もない、魔女ではないローラとリリスにはそもそも縁のない話なのだから。
「そうだよ。私がノアを召喚して、ノアの方が力が上だったから主従が逆転して『お手つき』になったの」
「『お手つき』になったらずっと魔界にいなきゃいけないんじゃないの? レーナはどうしてここにいるの?」
親戚に魔女がいるローラは、少しだけ知識があるらしい。
「それは、ノアが私とおばあちゃんを家族だと思っているからだよ。家族はみんな一緒にいるものでしょう? だから、ノアも一緒にこっちにいるの。 ……でもね、おばあちゃんが儚くなって子どもがお店を継いだら、魔界に渡るんだ。『お手つき』になった女は不老長寿になるの。だから、友達を見送ることになるけど、私はずっと忘れないよ。みんなのことが大好きだから」
「レーナ……!」
ローラとリリスは泣き崩れた。
ノアが魔族でレーナを『お手つき』にした張本人なのに、それでも優しさを感じるローラとリリスはノアを憎めなかった。それほどまでに、ノアがレーナを深く愛していることを知っていたからだ。
「私が悪魔だということを隠していただけませんか? その方が村人も安心するでしょうし」
「そうですね。こんな小さい村だと何かあった時に噂が広がるのが早いもの」
「分かりました、私とリリスは生涯黙っていると約束します」
「ありがとうございます。それと、あなた達はレーナの一番親しい友人ですから、素を出してもいいですか?」
「じゃあ、私達も敬語はなしで」
「それで決まりね。はあ、アタシの本当の姿を知っているひとがいるってこんなに気が楽なのね。 ……あら、どうしたの?」
ノアの独特な話し方に、ローラとリリスは面食らったらしい。
「ううん、話し方が独特だなあって……」
「ノアさんって男のひともいけるの?」
言葉を濁したのがローラで、率直な意見を出したのはリリスだった。
「ちょっと! ノアさんに失礼でしょ!」
ローラはリリスに怒った。ひとの趣味嗜好を否定するような物言いをしてしまったからだ。
「いいのよ、昔からよく言われていることだから」
「……気を悪くさせてしまってごめんなさい、ノアさん」
「本当に気にしてないから大丈夫よ。それと、アタシの恋愛対象は女の子だけなの。期待に添えなくてごめんなさいね」
「こ、こちらこそごめんなさい!」
ノアとリリスのよく分からないやり取りを見ていたローラは、次期王となるノアの親しみやすさに親近感を覚えたのだった。
レーナが「女の子同士で話したいことがあるから、ノアはおばあちゃんと下で待ってて」と言って、ノアを部屋から追い出した。
「ふたりに話したいことが他にもあるの」
「なあに?」
「その、実はね、ノアと最後までできたの」
「よかったじゃない、レーナ!」
ローラとリリスはレーナの報告に喜んでくれた。色んな説を言ってああでもない、こうでもないと話したことを思い出す。
「どうしてそうなったの?」
「あのね、私達いわゆる恋人ではあったんだけど、私はノアに好きって言ってなかったの」
「そうだったの?」
「うん。好きって言ったらおばあちゃんと離れて魔界に行くものだと勝手に思っていたから……。でもね、ノアは私の気持ちを最優先してくれて、数十年はこっちにいることを許してくれたの」
「そうだったのね。レーナもたくさん悩んでいたし、気になっていたのよ」
「ローラはオリオンとラブラブだもんね」
「レーナには負けるわよ」
「えへへ、なんか照れちゃう」
「そこは否定しなさいよ」
「好きなひとに愛されるってこんなに幸せなんだなって思ったよ」
パートナーがいる親友ふたりの会話を聞いていたリリスは「羨ましいー!」と大きな声で嘆いた。
リリスは面食いなので、村の芋男では満足できないようだ。
「ふたりともいいなあ、私も恋人欲しい! ねえ、誰かいいオトコ紹介してくれない?」
「いない」
レーナとローラは声を揃えて否定した。
「もう! 分かってたけどそこは乗ってよね!」
「さっきも言ったけど、『お手つき』になった女は相手の魔族と同じ寿命になって不老長寿の身になるの。それでも友達でいてくれる?」
「もちろんよ、レーナ! そんな寂しいこと言わないで」
「そうよ、私達小さい頃からの仲じゃない!」
「見た目はノアの魔法で年を重ねているようにみせるから、村のみんなには怪しまれないと思うの」
「そうなのね。こんなに大事なこと話してくれてありがとう」
「……実を言うと、ふたりに話すように助言したのはメイなんだ」
「なんでメイが出てくるのよ。レーナのことあんなに意地悪してたくせに、一体どういう風の吹き回し? というか、なんでメイがノアさんのこと知ってたの?」
「それは……」
レーナはここ二週間の出来事を話した。
「ええ!? だから王様が捕まったの!?」
「ローラは知ってるの?」
「知ってるわよ、これでも新聞には目を通しているもの。そっか、レーナに尋問かけてノアさんの逆鱗に触れたわけね」
「レーナは本当にノアさんに愛されているのね。でも、メイのことは意外だったわ。普段から思っていることをきちんと言葉にしないから誤解されるのよ」
「私もメイには嫌われてると思ってたから……。でも、これからはきちんと話したいって思ったんだ。同じ魔女だしね」
「レーナがいいなら止めないけど……。その、嫌じゃないの?」
「確かに嫌なことは言われてきたけど、『お手つき』になったことをあんなに心配してくれたし、お店のことや立派な魔女になるという夢のことを言ってくれたのがけっこう嬉しかったの。だから、これからは友達になれそうな気がする」
「ええ? あのメイと?」
リリスは分かりやすく嫌そうに顔を顰めた。
「ふたりが嫌なら無理強いはしないよ。私達は魔女だし、きっと分かり合えると思うの」
「……そうね、レーナがそう言うのなら私は信じるわ」
「私も信じる。だって、レーナは誰よりも運がいいもの!」
その晩、レーナはノアに女子会のことを話した。
「ローラとリリスがね、私がノアに愛されてて羨ましいって言ってくれたの。私もノアに愛されてるなあって分かってるから、ふたりの前で惚気ちゃったよ」
「あら、本当? どんな風に愛されてるって言ったの?」
甘くキスをしながらノアはくすくすと妖しく笑い、レーナの首に吸い付く。
「ん……。ノアは優しくて、私を最優先に考えてくれるところとか……」
「他には?」
「えっと、王様から身を挺して守ってくれたところとか……」
「ねえ、アタシからこんな風に愛されるって教えてあげた?」
唇を合わせ啄むようにキスをしたかと思えば、下唇を甘噛みされる。口の中に入ってきた舌を迎え入れたレーナは、蹂躙される口内に気持ちよさが加わる。じゅうと舌を吸われ、ふたりの唾液が混ざったものを飲まされる。レーナがこくんと飲み干したことを確認したノアは、「ふふ、可愛いわ、レーナ」と再びキスをした。
キスの合間にレーナは「こんなえっちなこと、言えるわけないよぉ」と口から唾液をこぼしながら、蕩けた表情でノアに抗議した。
「そうよね、レーナは恥ずかしがりやさんだから言えるわけないわよね」
服をするすると脱がされ、下着の上から胸の突起を舐められる。
それがどうにももどかしい。
直接触ってほしいレーナは自分からホックを外し、ノアの前にぷるんと揺れる胸をさらけ出した。
「さわって……」
恥ずかしさに顔を赤らめながら、それでも欲望を満たそうとする愛しいレーナの女の性を見たノアは、あまりのいじらしさにときめいてしまう。
「本っ当に可愛いんだから……! どろどろに溶かしてあげるわ」
舌で乳首をつつき、舐め回す。もう片方は指で捏ねくり回すと、レーナは甘い声が我慢できなくなる。
淫魔としての力が覚醒したノアに触れられるだけで感度が上がってしまったレーナは、乳首だけでも絶頂できるようになったのだ。
「ああん……!」
身体ががくがくと震え、快感にレーナは頭がぼうっとしてきた。
「ほら、まだ終わりじゃないでしょう?」
脚からするりとショーツを脱がされると、愛液がしとどに溢れ下生えまでぐっしょり濡れていた。
「レーナったら快感に弱くて最高にアタシ好み。あなたと出会えて本当によかったわ」
レーナは深く呼吸をしながら、ノアの言った言葉を反芻する。言葉通りに受け取ると、セックスできる相手ができてよかったとも捉えることができる。
頭がうまく回らないレーナは、不安が口からこぼれた。
「……えっちできる相手として?」
悲し気にノアを見つめるレーナは、その自己肯定感の低さから自分に自信が持てないでいた。
その一因となったメイとは和解することができたようだが、長年の癖はそう簡単には治らないようだ。
ノアはレーナが勘違いしないように、努めて優しく話しかけた。
「違うわよ。もちろん身体の相性もいいのは確かだけれど、それ以上にアタシはレーナというたったひとりの女の子が大好きなの。世界で一番愛してるわ、アタシの可愛いレーナちゃん」
ノアから極上の愛の言葉を囁かれたレーナは、嬉しくて泣きそうになる。
「嬉しい。私も世界で一番ノアが大好きだよ」
「お揃いね」
「うん」
足を割られ、その間にある蜜口を舐められると意識が飛びそうになる。ちょうどいい力加減でクリトリスを舐められたらすぐに達してしまったレーナは潮を吹き、ノアの美しい顔を濡らした。
「あっ、ごめんなさい……!」
「いいのよ、これくらい。アタシが覚醒してからレーナの感度が上がったことが嬉しくてたまらないの」
ノアは魔族で淫魔という悪魔だ。
レーナと心から結ばれたことにより、淫魔としての力が開花したのだ。
淫魔は能力が開花すると、相手を誘惑するためにフェロモンを出す。
それが媚薬となって快感を呼び起こすのである。レーナの身体が火照るのも無理はないのだ。
ノアは十分にほぐれた蜜口に勃起したペニスを宛がう。
「挿れるわよ」
「ん……」
ノアのそそり立つペニスは、レーナの中にミチミチと入っていく。
最初こそ挿れるのに少し時間がかかったが、何度かそうしていくうちにレーナの身体が順応したようで、痛みを感じることはなくなった。
中が馴染んだことを確認してから、ノアは腰を動かす。
ぱちゅんと肉同士がぶつかる音が聞こえる。
レーナはまだ正常位しか経験していないが、ノアの顔が見えるこの体勢が好きだった。いつも余裕綽綽のノアの顔に汗が流れるのをぼんやりと見つめ、悦に浸っていた。
「ちょっと、レーナ、なに考えてる、のよ」
受ける快感以外に心がどこかにあると気づいたノアは、穿ちながらレーナをねめつける。
意識をこちらに持ってこさせようとしたノアは、レーナの乳首を指先で弾いた。
「ああっ!」
敏感なところを弾かれたせいできゅうきゅうと中を締め付ける。レーナが感じていることが嬉しいノアは、こちらに意識を持って来ることができて満足する。
「もう、いじわる……!」
「レーナが、心ここにあらず、だったからよ……!」
「ノアのことしか、考えて、な……! ノアと、えっちする時、ノアに汗が流れてるのが、好きなのっ」
「え……?」
ノアは言われたことの意味をよく考えた。
それは、レーナの大好きなノアが、セックスする時にしか見せない男の顔やら何やらが好きと捉えたノアは、淫魔らしくもなく人間の小娘に胸を掴まされているのだと気づき、心がキュンキュンした。
「っもう、本当に淫魔たらしなんだから……!」
ノアの腰を穿つスピードが速くなり、レーナの奥を容赦なく責め続ける。
「それだめっ、すぐイっちゃう!」
「イきなさい」
思い切り最奥を突かれたレーナは大きな嬌声を上げて絶頂し、ノアも達した。ゆるゆるとペニスを動かして、レーナの子宮に精を擦り付けるように何度も奥を突く。
それだけでも快感を拾ってしまうのか、レーナは再び達してしまった」
「ふふ、レーナはコレが好きね……」
コレとはもちろんノアのペニスのことだ。
「うん、すき。きもちいいから」
快感に浮かされ呂律の回っていないレーナは、ふうふうと大きく息をついた。
「アタシは?」
「だいすき、ずっとすき……」
レーナは両手を広げ「ぎゅってして?」と可愛くおねだりした。
「もう、もう! アタシも大好きよ!」
レーナを抱きしめながら、そっと体重をかける。大の男に伸しかかられたら重いだろうに、レーナは文句を言わずその重みを受け入れた。
「私だけのノア、だいすき」
「ええ、レーナだけのノアよ」
「ふふ、うれしい」
「アタシも嬉しいわ」
繋がったままのふたりは、そのまま何度もキスをくり返した。
そして、さらに一週間後。
行方知らずだった王女シーラが見つかったという連絡を、王室の速達届けを見て知ることになる。
異母きょうだいの多いシーザは王妃の血を引く第一王子で、唯一母を同じに持つシーラのことを特に可愛がっていた。
無理やり進められそうになる輿入れに、シーラは敬愛する兄シーザに助けを求めた。
「好きなひとがいるの、そのひとと結婚したい」
その相手とは、シーラ付きの近衛兵カインという、侯爵家の次男だった。カインもまたシーラのことを愛しており、ふたりは秘密の恋人となった。
それを泣きながら訴える妹に心を揺さぶられたシーザだが、いくら侯爵家の者だとしても次男では降嫁は難しいと諭したが、決定的なことを言われて妹の離宮を許した。
「贅沢な暮らしなんていらない、カインさえいればわたしは幸せなの」
その言葉を聞いたシーザは愛する妹の逃げる手段を考えて、こっそりと逃がしてやった。
シーラの行方がいつまで経っても分からなかったのは、シーザの息がかかった部下を捜索隊に組んでいたからである。シーザは絶対に漏らすなと命じ、それに従った忠実な部下はシーラとカインが遠い海の向こうへ渡れるまで見守った。
妹の身を案じていたシーザだったが、レーナから妹のことを案じる言葉を聞いて、愛する妹シーラも幸せに生きる未来が見えたことで、この手紙を送ったのだという。
シーラは海のまた向こうにある遠い国で平民として暮らし、カインとともに市井の生活を楽しんでいるらしい。
このことは公にはせず、王室とレーナ一家にだけ知らせ、後は闇に葬ることにしたのだそうだ。
そして、件の前国王はノアの望む斬首は免れたが、民が納めてくれる税金を湯水のように使ったことで財政難に陥った責を取らされることになる。一生幽閉されることが即座に決まり、豪華絢爛とは程遠い平民より質素な生活を送っているという──。