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遥にとって、性的なことは「快楽」ではない。少なくとも、最初からそれを信じたことはなかった。
それは、痛みの延長であり、支配されることと直結している。
拒否すれば乱暴にされ、受け入れても何かが壊れた。
だから、どちらも選べないまま、ただ無感の顔を貼りつけていた。
快も不快も、どこかに置いてきた。
身体の感覚を切り離すことでしか、自分を守れなかった。
けれど――。
日下部だけは、なぜか“壊し方”が違っていた。
無遠慮なのに、加害者の顔じゃない。
不器用なのに、こちらの顔を必ず見ようとする。
そして、たった一瞬だけ見せる「やわらかさ」に、遥は不意に息を呑む。
それが憎かった。
許せなかった。
お前が、優しくするなら。
俺はどうしたらいい。
優しさを信じたい俺は、ただの弱者じゃないか。
だから――、試す。
無表情で、差し出す。
受け入れるふりをして、境界をずらす。
反応を、観察する。
それは、遥にとっての生存本能であり、同時に唯一のコントロールだった。
性は、侵入と支配でできている。
だから、遥は自分から開くことでしか対抗できなかった。
“支配されたふり”で、“相手の手を奪う”ために。
けれど、日下部はその“段取り”に乗ってこない。
そのときだけ、ふと子供のような顔になって、
遥が作り上げた冷たい枠組みを、いともたやすく外してしまう。
だから遥は混乱する。
「される」側ではなく、「見つめられる」ことで――
初めて、自分の内側を問われてしまう。
それが、いちばん恐ろしい。
何もないことを、自分が一番わかっているから。
でも。
もし、ほんの少しだけ、
この無防備さを“見せること”が愛しさに変わるなら。
俺は……、このまま“無垢なふり”をやめてもいいのかもしれない。