テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
遥にとって、性的なことは「快楽」ではない。少なくとも、最初からそれを信じたことはなかった。
それは、痛みの延長であり、支配されることと直結している。
拒否すれば乱暴にされ、受け入れても何かが壊れた。
だから、どちらも選べないまま、ただ無感の顔を貼りつけていた。
快も不快も、どこかに置いてきた。
身体の感覚を切り離すことでしか、自分を守れなかった。
けれど――。
日下部だけは、なぜか“壊し方”が違っていた。
無遠慮なのに、加害者の顔じゃない。
不器用なのに、こちらの顔を必ず見ようとする。
そして、たった一瞬だけ見せる「やわらかさ」に、遥は不意に息を呑む。
それが憎かった。
許せなかった。
お前が、優しくするなら。
俺はどうしたらいい。
優しさを信じたい俺は、ただの弱者じゃないか。
だから――、試す。
無表情で、差し出す。
受け入れるふりをして、境界をずらす。
反応を、観察する。
それは、遥にとっての生存本能であり、同時に唯一のコントロールだった。
性は、侵入と支配でできている。
だから、遥は自分から開くことでしか対抗できなかった。
“支配されたふり”で、“相手の手を奪う”ために。
けれど、日下部はその“段取り”に乗ってこない。
そのときだけ、ふと子供のような顔になって、
遥が作り上げた冷たい枠組みを、いともたやすく外してしまう。
だから遥は混乱する。
「される」側ではなく、「見つめられる」ことで――
初めて、自分の内側を問われてしまう。
それが、いちばん恐ろしい。
何もないことを、自分が一番わかっているから。
でも。
もし、ほんの少しだけ、
この無防備さを“見せること”が愛しさに変わるなら。
俺は……、このまま“無垢なふり”をやめてもいいのかもしれない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!