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都築七美
322
#夫婦
設楽理沙
981
#深澤辰哉
クリオネ?
132
「人気があるんだなっ」
人の気も知らないで頓珍漢なことを……。
人気があるのはあ・な・た。あなたのほうなのよ。
「それほどでも……って人気があって私に話し掛けてくれたのだったら
よかったんだけど。人気があるのは、大林さんのほうよ。
大林さんと私、近くで一緒に苗の植え付けしてるから
『大林さんとは仲いいんですか? とか昔からの知り合いなの?』
とかって、訊かれてたんです」
「なに、それっ」
「そーよね。私たち仲良しかって訊かれたらビミョーですもんね」
「なにっ、それ。仲良しだろ? 娘預けてるんだし」
「そうなの? そう思ってていいの?」
「そーだよ。私たちは仲良しさんだぞ」
「そうかなぁ~」
「難しく考えない。ほれっ、うちは3つとも苗付け終了っと」
「やばいっ」
「面白いな。苺佳はしゃべってると手が止まるんだ」
◇ ◇ ◇ ◇
い、苺佳ぁ~。
大林さんから突然苺佳呼ばわりされて私は焦った。
だって苺佳呼ばわれするほど私たちの距離はそんなに狭まってないもん。
「はいはい、そこーっ!恥ずかしがらない。私たちは仲良しさんなのだから
下の名前で呼び合おう。私のことは |瑤《けい》って呼んで」
「えーっ」
「それでさぁ、他のおかあさんたちから……ほらっ、さっき言ってただろ、
昔からの知り合いなのかとかって訊かれたって。
ちょうどいいやっ、昔からの知り合いってことにしておこう。
いずれ苺佳が比奈を預かってくれてることも周囲に分かることだろうし。
いろいろ詮索されるの、あなたも嫌でしょ?」
「あー、言われてみればそうよね。
大林……じゃなかった瑤ちゃんって頭の回転早いー」
「何、今頃分かったって? お・そ・いー」
「参りました」
私のところのプランターも苗付けが終わり、周囲もほとんど
終わったみたいで、ひとり・ふたり・と皆、帰り始めた。
子供たちは『さよなら』を言いに先生のところまで走って行った。
子供たちがこちらに戻って来るのを目にしながら私は、
大林さんに話し掛けた。
「来月は父親のふれあい保育があるみたいだけど、うちは仕事が忙しくて
まだ参加できるかどうか分からないのよ。
大ば……瑤ちゃんのほうはご主人来られるの?」
「あっ……」
私の質問に『あっ』と言ったきり、大林さんは固まってしまった。
「悪い、その質問保留な。
答えるには今日はちょっと時間が足りないや。
今から病院行かなきゃだし、お迎えに行った時か、夜にでも話すわ。
じゃあ行ってきます、お先に。比奈のことよろしく」
そう言って彼女はヒラヒラと比奈ちゃんや私たちに手を振り、
来た時とは対照的に速足で園を後にした。
元々彼女、今日は一日有給を取る手はずにしていたようだが、
私が比奈ちゃんを預かるということになり、今日のことも半日
預かれると話したところ、午後からの出勤を決めたようだった。
外来患者の診察以外にもいろいろとこなさなければならない業務が
山ほどあるからだと聞いている。
それにしても何だろう、複雑な事情でもあるのだろうか。
そんな含みのあるよう言葉を残して帰って行った人。
彼女の旦那さんって今、海外にいるとか?
そんなことしか閃かず、彼女が比奈ちゃんを迎えに来る時まで
ご主人の話は待つしかなかった。
モヤモヤしていたものの、子供たちのお昼ご飯の用意をしたり
家の用事をしているうちに、あっという間にお迎えの時間になった。
けど、彼女も夕飯の支度のこととかもあり案の定、我が家で話し込める
時間などあろうはずもなく、ご主人の話は夜へと繰り越されることとなった。
◇ 真実
その夜、大林さんからLINEが届いた。
『今から電話しようかと。いいかな?』と。
『トゥルルルゥ~』
『もしもし』
『お待たせ……』
『……』
◇ ◇ ◇ ◇
『比奈は実の娘じゃないんだ。急死した姉の子なんだ』
『え~っ』私は情けない声しか出せなかった。
『驚かせてゴメン』
『そっか、それであなたのこと、瑤ちゃんって呼んでたのね』
『教えてないのに、保育園ではママって言ってるらしい』
『健気だね、泣きそう』
『泣いてろっ』
そんな言い方おかしくない?
時々、私の理解不能なことを言ってくる彼女に腹立つぅ。
『ゴメン……』
『許さんっ』
『『ふふっ』』
『ほんとは両親が世話できれば良かったんだけど生憎父親が病気で
入退院を繰り返しているような状況だったもので、研修が終わり
勤務先も決まってた私が比奈を育てることになったんだ』
『そうなんだ。何て言えばいいか分からないけど……いろいろと』
『いいよ、改まって何か言葉が欲しいわけではないし。いつも通りにしてて』
『うん、分かった』
『私には夫なんていなくて、比奈が姉の子だってことだけ、
理解しててくれれば』
『じゃあ来月のふれあい保育は……』
『私が出席するよ』
『そうだよね。我が家も私が出席するかも。
まだどうなるかはっきりとはわからないけど』
『じゃあ、そういうことで、切るね』
『おやすみなさい』
『おやすみ~』
◇ ◇ ◇ ◇
彼女は独身だったー。
比奈ちゃんのおかあさんじゃなかったー。
なんか、興奮してきたー。
その夜、私はなかなか寝付けなかった。
コメント
1件
わあ、大林さんの秘密が明かされる回でしたね…!苗植え付けからの電話での告白、一気に距離が縮まった感じがしてドキドキしました。「比奈は実の娘じゃない」って核心をポンと出してくる瑤ちゃんの潔さと、それを受け止める苺佳さんの反応がすごく自然で、人間関係ってこうやって作られていくんだなあとしみじみ。寝付けなくなる気持ち、分かりますよ〜!