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薄暗い神域本部の廊下を、零の体がゆっくりと運ばれていく。担ぎ手は他の異能者たちだったが、彼らの表情には安堵と困惑が混じっていた。
「零様、これ以上無茶をされては…」
救護室の扉を開けながら、一人がため息混じりに呟く。
零は痛みをこらえつつも、うっすらと笑みを浮かべる。
「無茶? こんなの、ただの遊びだ。」
しかし、その声は明らかに弱々しく、いつもの威圧感はなかった。救護室のベッドに横たわると、医療スタッフが手早く治療を始める。
「渋谷…次はもっと楽しませてくれるだろうな。」
目を閉じる零の口元には、まだ薄い笑みが浮かんでいた。
一方、海沿いの崩れかけた小道では、南無が渋谷を担ぎながら歩いていた。その後ろには湊、石動、法師が足取りでついていく。
南無は渋谷の顔をチラリと見て、不機嫌そうに眉をひそめる。
「なんで毎回こうなるの? 渋谷、ほんと面倒くさい。」
湊が南無をなだめるように声をかける。
「まあまあ、渋谷さんは頑張ってくれたんだから。無事に帰れるだけでもありがたいよ。」
石動は小声で呟いた。
「でも、あそこまでやり合う必要あったのかな…。零って、どう見てもやばい相手だったし。」
法師が静かに答える。
「それが彼の流儀でしょう。それに、狩り手が追い詰められるほどの戦闘は滅多にない。彼がどこまで耐えられるか、私も興味深く見ていました。」
石動はその冷静な答えに驚きながらも、法師の穏やかな口調に納得するしかなかった。
狩り手たちは、傷だらけの渋谷を連れて本部へと戻った。教皇のいる部屋に入ると、南無が渋谷を降ろし、ため息をつく。
「もう、こんな重いの担ぎたくない。」
教皇は静かに椅子に座りながら、渋谷の状態を確認するように目を細めた。
「渋谷よ、よくぞ帰還した。だが、次は自分を見失わぬようにな。」
湊が一歩前に出て、教皇に向き直る。
「教皇様、渋谷さんは零と互角に戦いました。今後の戦略を練るうえで、彼は重要な情報になるはずです。」
教皇は湊の言葉にゆっくりと頷いた。
「ふむ…その通りだな。だが、渋谷一人ではなく、皆で支え合いながら次の一手を考えねばならぬ。零はまだ動く。次に備えよ。」
石動が控えめに手を挙げる。
「教皇様、でも具体的にはどうするんですか? 僕たち、次はどこに向かえばいいんでしょう?」
教皇の目が鋭く光る。
「次の動きはまだ定まらぬ。ただ、神域の真意を探る必要がある。」
その場に重い沈黙が漂う中、南無があっさりとした声で切り込む。
「なんでそんな大事な話、今まで言わないの? あと、港は骨折中だけど戦力になるの?」
その言葉に、教皇も少し笑みを浮かべた。
「お前たち狩り手は、常に準備を怠るな。今は休め。そして再び集え。」