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15年前――
とある辺境の小さな村。そこは今とは別の世界のように静かで、古びた木造の教会が村の中心に佇んでいた。
当時、まだ若き司祭だった教皇は、この村でひっそりと説法を続けていた。しかし、村にはある問題があった。それは、異能者への差別と迫害。
そして、村の片隅で1人の少年――零が暮らしていた。
彼は村人たちから「忌み子」と呼ばれ、家族からも見放されていた。その理由は、彼の持つ異能」その力は恐れと偏見を呼び、零は幼いながらも孤独と憎悪に満ちた日々を送っていた。
教会の中――
零は教会の窓を叩き割り、中へと侵入した。彼の目には狂気と怒りが宿り、手には村人から奪った錆びたナイフが握られていた。
「お前も俺を見捨てるんだろ? 神のくせに!」
教皇はその時、ゆっくりと祭壇から振り返った。彼の瞳には怒りも恐れもなく、ただ穏やかな光が宿っていた。
「見捨てることなどない。お前は神に見放されるような存在ではない。」
零はその言葉に一瞬戸惑ったが、すぐにナイフを振りかざした。
「黙れ! みんな俺を嫌ってる! 俺だって――みんなを消してやりたいと思ってるんだ!」
教皇は静かに手を差し伸べた。
「では、私を殺せばいい。その憎しみを私にぶつければ、少しは楽になるだろう。」
零は一歩、また一歩と教皇に近づいた。そしてナイフを振り下ろした。だが、その刃は教皇に届くことはなかった。
彼の手を掴んだのは、教皇の柔らかい手だった。
「力に飲まれるな、零。その力をどう使うか、それはお前自身が決められる。」
零の目に涙が浮かび、彼はその場に崩れ落ちた。
その後――
教皇は零を引き取り、自らの教えを説いた。零の異能はやがて制御され、彼は「死神」としての力を研ぎ澄ましていった。しかし、零は次第に村人たちの理不尽を忘れられず、教皇のもとを離れることを選んだ。
教皇は零を止めようとはしなかった。ただ一言、背中越しに呟いただけだった。
「お前がどんな道を選ぼうと、私はお前を見捨てることはない。」
それから10年、零は異能者の世界でその名を轟かせる存在となった。そして現在――。
教皇は狩り手たちが集まる本部の一室で、静かに目を閉じていた。零との戦いで負傷した渋谷たちの報告を受けつつ、ふと彼の脳裏に零の少年時代の面影が浮かぶ。
「零…お前が再び私の前に現れたのは、偶然ではないのだろうな。」
教皇の独り言を聞いた南無が首をかしげる。
「教皇様、零ってどんな人だったんですか?」
教皇は微かに笑いながら、南無に答えた。
「ただの孤独な少年だった。だが、彼の心には強い火が灯っていた。」
南無は納得がいかない表情で肩をすくめる。
「ふーん、なんか大変そうですね。まあ、私は強いから別に大丈夫だけど。」
教皇はその言葉に笑みを深めると、小さく呟いた。
「お前たちが零と向き合う日が来たとき、果たしてどうなるか――楽しみにしているよ。」