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夜は深かった。
崩れたホテルの一室。
割れた窓は板で塞がれ、外から聞こえるのは風の音と、遠くを徘徊するゾンビたちのうめき声だけ。
ベッドは一つ。
その上で二人は肩を寄せ合うように眠っていた。
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いや。
正確には。
一人しか眠っていなかった。
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ピザガイは目を閉じていない。
静かな暗闇の中で、ただ隣を見ていた。
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エリオット。
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月明かりに照らされた金髪。
穏やかな寝顔。
規則正しい呼吸。
世界が終わる前も後も変わらない、どこか安心させる存在。
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ピザガイは小さく息を吐いた。
そして。
そっと手を伸ばす。
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長い金髪が指先に触れる。
柔らかい。
思わず驚くほどに。
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一本。
また一本。
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指に絡める。
離す。
また絡める。
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意味なんてない。
ただ何となく。
眠れない夜にしてしまう癖みたいなものだった。
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エリオットは動かない。
穏やかな寝息を立てている。
気付いていないように見える。
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だが実際は。
起きていた。
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完全に。
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(ああ……)
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エリオットは心の中で思う。
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またやってる。
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初めてではなかった。
むしろ最近は時々ある。
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ピザガイは自分が眠っていると思っている時だけ、少しだけ警戒を解く。
そして。
こうして髪を触る。
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無意識なのか。
意識的なのか。
それは分からない。
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でも。
嫌ではなかった。
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むしろ。
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嬉しい。
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胸が少しだけ苦しくなるくらいに。
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だから気付かないふりをする。
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寝息も続ける。
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そうしていると。
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ふいに。
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髪を撫でていた手が止まった。
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静寂。
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エリオットの心臓が少しだけ速くなる。
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何だろう。
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そう思った次の瞬間。
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柔らかな感触。
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ほんの一瞬だけ。
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髪の先に触れる温もり。
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ピザガイがそっと髪へ口づけを落としたのだ。
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本当に短く。
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触れるだけの。
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誰にも見せないような仕草。
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エリオットの身体がぴくりと反応しそうになる。
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必死で堪える。
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(ずるいなぁ)
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心の中で呟く。
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普段は何も言わないくせに。
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大事なことほど隠すくせに。
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こんな時だけ。
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こんな風に優しくなる。
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月明かりが揺れる。
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ピザガイはもう一度だけ金髪を撫でると、ようやく目を閉じた。
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その手は自然とエリオットの近くに残ったまま。
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まるでそこにいることを確かめるように。
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エリオットは薄く目を閉じたまま、小さく微笑む。
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今はまだ気付かないふりでいい。
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朝になれば。
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きっとまたいつも通りだ。
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「動くな」
とか。
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「うるさい」
とか。
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ぶっきらぼうな言葉ばかりになるだろう。
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それでも。
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今夜だけは知っている。
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誰にも見せない優しさを。
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誰にも聞かせない想いを。
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だからエリオットは安心したように身体を丸める。
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指先に残る温もりを感じながら。
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二人は静かな夜の中で、同じ夢を見るように眠りへ沈んでいった。
ゆゆゆゆ
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ゆゆゆゆ
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