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ゆゆゆゆ
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ゆゆゆゆ
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夜は静かだった。
珍しく。
本当に珍しく。
ゾンビの唸り声も聞こえない。
ルナティックの気配もない。
二人は廃墟となった給水塔の上に座り、簡単な夕食を取っていた。
缶詰。
クラッカー。
ぬるくなった水。
終末世界らしい食事だ。
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「平和だねぇ」
エリオットが空を見上げる。
満天の星。
世界が終わってから、星だけはやけに綺麗になった。
「嵐の前だ」
ピザガイが答える。
「相変わらず夢がないなぁ」
「現実的と言え」
「同じことじゃない?」
「違う」
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いつものやり取り。
いつもの空気。
だから。
本当に軽い気持ちだった。
エリオットにとっては。
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「ねえ」
「なんだ」
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エリオットはクラッカーを齧りながら笑う。
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「もし僕がゾンビになったらさ」
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その瞬間。
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ピザガイの動きが止まった。
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「ピザガイが撃ってね」
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笑顔だった。
冗談みたいに。
軽く。
いつも通り。
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「僕、腐ったまま街を歩き回るの嫌だし」
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沈黙。
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風が吹く。
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エリオットは返事を待った。
軽口の応酬が返ってくると思った。
「縁起でもないこと言うな」
とか。
「馬鹿か」
とか。
そんな感じの。
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だが。
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返ってきたのは。
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怒りだった。
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「……二度と言うな」
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低い声。
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エリオットが目を瞬く。
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「え?」
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次の瞬間。
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胸ぐらを掴まれた。
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「っ」
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強い力だった。
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大柄な男の手。
戦い続けてきた腕。
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逃げられない。
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黒い瞳が目の前にある。
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怒っている。
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今まで見たことがないくらい。
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だが。
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その奥には。
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怒りだけではない何かがあった。
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「ピザガイ……?」
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声が少し震える。
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ピザガイは数秒何も言わなかった。
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まるで。
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言葉を飲み込んでいるみたいに。
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それから。
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ようやく口を開く。
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「お前を撃ったその弾で」
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低く。
掠れた声。
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「俺も死ぬ」
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エリオットの呼吸が止まった。
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「……え」
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「だから」
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掴む力が強くなる。
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「勝手に死ぬな」
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風が止んだ気がした。
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給水塔の上には二人しかいない。
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世界には何億もの人間がいたはずなのに。
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今は。
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本当に二人しかいないみたいだった。
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ピザガイは目を逸らさない。
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その瞳は真っ直ぐだった。
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嘘ではない。
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脅しでもない。
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本気だ。
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本気で言っている。
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もしエリオットがゾンビになったら。
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自分で引き金を引く。
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そして。
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その後、自分も生きない。
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そんな覚悟を。
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当たり前みたいに抱えていた。
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「……馬鹿だなぁ」
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エリオットは小さく笑った。
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だが。
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目の奥が熱い。
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「馬鹿はお前だ」
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即答だった。
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「そんなこと簡単に言うな」
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怒りが滲む声。
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「俺が何人失ったと思ってる」
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ぽつりと零れる。
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「もう十分だ」
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エリオットは初めて聞いた。
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この男の弱音を。
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ほんの少しだけ。
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「これ以上は嫌だ」
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静かな声だった。
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その一言の方が。
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どんな叫びより重かった。
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エリオットはしばらく黙っていた。
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それから。
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胸ぐらを掴む手に、自分の手を重ねる。
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「ごめん」
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ピザガイは何も言わない。
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「軽い気持ちだった」
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本当に。
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軽口のつもりだった。
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でも。
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この男にとっては違ったのだ。
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生きる理由そのものだった。
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エリオットは少しだけ笑う。
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今度は冗談ではなく。
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優しく。
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「じゃあ約束する」
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青い瞳が見上げる。
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「勝手には死なない」
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ピザガイは黙っている。
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「だからさ」
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エリオットは続ける。
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「君も勝手に死なないでよ」
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今度は。
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ピザガイが言葉を失った。
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しばらくして。
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ようやく。
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「……努力する」
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そんな返事が返ってくる。
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あまりにも不器用で。
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あまりにも彼らしい答えだった。
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エリオットは吹き出した。
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そして。
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夜空を見上げる。
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星は相変わらず綺麗だった。
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終わった世界の中で。
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それでも。
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隣にいる男だけは失いたくない。
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その気持ちは。
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きっとお互い様だった。
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