時は少し遡り、『暁』が無事に本拠地へと集結したころ。
遂に『オータムリゾート』は十六番街への本格的な攻勢を仕掛けていた。
「片っ端から奪い取れ!この区域は私達のものだ!敵は皆殺しにしてやれーっ!」
「「「おおおーっっっ!!」」」
リースリットの号令により『オータムリゾート』構成員及び資金力にものを言わせてかき集めた傭兵団は、凡そ五百人という大群となって一斉に十六番街へ侵攻。
各地にある『エルダス・ファミリー』の事務所などを片っ端から襲撃。また彼らの支配下にある店舗なども制圧していった。
シャーリィ達を包囲するため一ヶ所に兵を集めていた『エルダス・ファミリー』支配地域は完全に無防備な状態となっており、そこに大軍が攻め込んできたのだからたまらない。
更に指揮を執っていた幹部マクガレスの死亡により指揮系統は完全に混乱。武闘派集団とは言え混乱した彼らは満足な抵抗も出来ずに次々と討ち取られていった。
この状況で利はないと悟った『エルダス・ファミリー』に雇われていた傭兵が我先に逃げ出して、結果せっかく集めた二百人の部隊は跡形もなく消え去った。
侵攻開始から数時間後、制圧した会館に本部を置いた『オータムリゾート』は、そこで数々の報告を受ける。
「はぁ?なんだそれ?八割だと?バカなのか?」
報告を受けたリースリットは呆れ果てていた。
制圧した『エルダス・ファミリー』支配の店舗を調べると、その税率の高さは驚くべきものだった。各店主の話によると、売り上げの八割を『エルダス・ファミリー』に徴収されていたという。
「八割も売り上げを取られてりゃこれだけ荒廃してるのも頷けるな。あいつら経営なんて考えは無いらしい」
幹部であるジーベックもため息混じりに感想を述べた。『エルダス・ファミリー』は支配地域の拡大には熱心だったが、支配した後は成長を促すのではなく出来る限り資金を吐き出させることに注力。
結果十六番街は港湾エリアに最も近いと言う利点があるにも関わらず荒れ果てていたのだ。
「どれもこれも磨けば光るような店舗や人材が居るじゃねぇか。エルダスの奴はバカなんだな?」
「所詮は盗賊上がりだ。そんなもんだろうさ」
『エルダス・ファミリー』は本来盗賊であるエルダスが率いた盗賊団が成り上がったもの達である。
「そんな馬鹿に支配されてりゃこうなるわな」
「再建には金と時間がかかるぞ、ボス。しばらくアガリを取るのも控えた方が良さそうだ」
ジーベックは侵攻による支出と収入予測を見て顔をしかめる。明らかに赤字なのだ。
「今はな。けど、うちには金が腐るほどある」
リースは目を光らせる。彼女はギャンブルの女王。その勘と運に絶対の自信がある。
「今から一年、アガリは取らねぇ。売り上げは全部自分の物にして良いって伝えな」
「正気か?収入がないんだぞ」
「今から取れる額なんてタカが知れてる。それとうちの金庫から問題になら無い程度の額を投資に当てな。もちろん『暁』にも話を持っていけよ。シャーリィなら分かる筈だからさ」
「……共同で支配するつもりか?聞いたことがねぇぞ」
「普通ならやらねぇだろうなぁ。相手がいつ裏切るか分からねぇんだから。けど、私にその心配は無い」
「ボスがあの嬢ちゃんを可愛がってるのは分かるがな、あいつは普通じゃねぇぞ。何を考えてるか分からねぇ女だ」
ジーベックの言葉にリースリットは笑みを浮かべて、自分の豊かな胸の谷間から手紙を取り出す。
「あり得ねぇよ。やっぱりレイミは幸運の女神様だ。私に利益を持ってきてくれる」
手紙を受け取ったジーベックは内容に目を通す。そして目を見開いた。
「ー!レイミがあの嬢ちゃんの妹!?」
「その通りさ。これでうちと『暁』は身内になった。シャーリィが妹を必死に探してるのは知ってたけど、まさかレイミとはねぇ。運命って奴は分からねぇなぁ?ジーベック」
笑みを浮かべるリースリット。そしてそんな奇跡のような縁を引き当てた自分のボスの幸運に改めて感心するジーベック。
「相変わらず持ってるな、ボス」
「だろ?出来ればシャーリィも娘として引き取りたいくらいだ。シスターが怖いからしないけど」
「ああ、ありゃ暗黒街で一番怒らせちゃ不味い女だからな」
苦笑いを浮かべる主従。
「早速シャーリィに話を通してくれ。出来れば数日中に会って話がしたいからな」
「分かった、直ぐに書状を出しておく」
『オータムリゾート』が戦後を見据えていたころ、追い詰められた『エルダス・ファミリー』は。
「これじゃ無駄死だ!出来るだけ身体を隠しておけ!今は逃げるぞ!生きてりゃやり直せるからな!」
エルダスは残った手下達に身を隠すように指示を出して自らも逃亡する。
それは『エルダス・ファミリー』の壊滅を意味しており、実質的にシェルドハーフェンのひとつの区画を支配していた大勢力の終焉ともなった。
それを成し遂げたのが結成から僅か三年の新興勢力である『暁』であることは、誰の目にも明らかであった。
この抗争によって『暁』の名は暗黒街全域に轟き、そしてあらゆる勢力がその動向に注意を向けることとなる。
それはシャーリィの復讐へ一歩近付くことになるが、同時に更なる動乱に『暁』が巻き込まれることを意味していた。
それから数日後、農園。
私室で療養するシャーリィはレイミと穏やかに語らっていた。
「『オータムリゾート』との共同統治ですか。それは面白い。お義姉様も大胆なことを考えたものです」
届けられた手紙をレイミに渡しながらシャーリィは笑みを浮かべる。
「有史以来共同統治は大抵失敗に終わるのですが。大丈夫でしょうか?」
「心配は無用ですよ。私達姉妹の絆は前例など容易く覆せます。それに、お義姉様は決して愚かな方ではありませんからね」
「それはもちろん、リースさんの事を信頼していますけど……」
「それよりも、『帝国日報』を読みましたか?『エルダス・ファミリー』は壊滅。エルダスは逃げ出したみたいですよ」
「ひとつの時代が終わったことを意味します。そしてそれを成し遂げたのは、お姉さまです。妹として誇らしく思います」
姉を尊敬の眼差しで見つめるレイミ。
「誉めてもなにも出せませんよ?それに……今回の件で私達は有名になりました。これからは様々な勢力が接触してくるでしょう。善意と悪意を潜めて、ね」
「舵取りが厳しくなりますね」
「望むところですよ。もとより私が選んだのはイバラの道ですからね。伯爵家を襲撃するような勢力です。背後にどんな大物が居るか分かりません。まだまだ強くならないといけないんです」
決意を秘めた瞳を向けるシャーリィ。
「お姉さまにとってこれからの苦難すらも糧にすると?」
「負けることもたくさんあるでしょうね。今回だって、レイミが居なければ私は死んでいましたから」
「『我々はこれからも敗北を続けるだろう。最後の戦い以外は』」
「レイミ?」
「どんなに失敗しても良いじゃないですか。最後に勝てれば良いんです。私が、私達がお姉さまを支えます」
そっと姉の手を握る。
「そうですね……レイミや、皆が居る。この意地悪でクソッタレな世界でハッピーエンドを成し遂げましょう。そして神様に言ってやるんです」
「「ファック。ふふっ」」
同じ言葉を口にして、姉妹は穏やかに笑い合うのだった。
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