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海の紅月くらげさん
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ぼんやりとしながら街中を歩いていた。
行くあてなんてない。けれど、家に帰らずにこのまま考え事をしていたかった。 泉くんの話があまりに衝撃的で、彼の考えは私には到底理解できそうにない。
私の恋はとっくに終わっているはずなのに。
「おねーさん、おねーさん」
目の前に茶髪の男の人が立ちふさがった。
無視したくてもわざと道を塞がれていて素通りできそうにない。
「カラオケの割引券あるんだけどさ、一緒にいかない?」
「結構です」
「用事あるの?」
しつこく後をついてくる男の人にうんざりした時だった。
「ましろ」
背後から聞こえてきたのは覚えのある声。
「ごめん、お待たせ」
男の人は舌打ちをして私を睨みつけると身を翻して気怠そうに去っていった。どうやら彼の嘘が効いたようだ。
「悪い、困ってるかなって思って。待ち合わせしたフリした」
「ううん、歩くんありがとう」
お礼を告げるとすれ違う人とぶつかりそうになる。
「端に寄ろ」
彼が私の腕を強く引いた。向かい合うように歩くんを見つめながら、掴まれた腕から熱い体温が流れ込んでくるのを感じた。
「ましろ? 大丈夫?」
思わず見惚れてしまっていた私の顔を心配そうに歩くんが覗き込む。
「あ、うん! 歩くんがきてくれてよかった!」
「よかった」
ふわりと柔らかい笑みで歩くんは安心した様子で言った。制服じゃないからか、いつもより大人っぽい雰囲気だ。
「こんなところで会えるなんて思わなかった」
「あーバイト帰りにちょっと武蔵に呼ばれてさ」
気まずそうに視線を落とした歩くんはそこから先の話はしなかった。
「帰るとこなら家まで送ってく」
迷ったけれど、なんとなくもう少しだけ歩くんと話がしたい気分だったので、私は頷いた。