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『暁』が密かに『オータムリゾート』と密約を結んでいる頃、十六番街にある寂れたバーではエルダス・ファミリー幹部クリューゲの腹心バルモスは焦り酒を痛飲していた。
「このままじゃ、クリューゲの兄貴に見捨てられちまう。そんなことになったら、俺は破滅だ」
先日の『暁』の輸送馬車襲撃でまさかの返り討ちにあったバルモスは焦っていた。上司であるクリューゲは頭脳派の策士ではあるが何よりも失敗を嫌い失敗を犯したものには厳しすぎる処分を与えることで有名であり、その場面を何度と無く見てきた彼を焦らせるには充分な状況だった。
「いや、まだ挽回のチャンスはある。せこい真似をした俺の落ち度なんだ。要は、『暁』とか言う奴等が港湾の利権を兄貴に渡せば良い話なんだ」
相手は弱小だと慢心した結果である、油断しただけだと信じ込むバルモスは、次なる手を考える。小細工ではなく、より直接的な手段に訴えようとしていた。
「兵隊を集めろ。それと、金の無い奴等にも声をかけて、出きるだけ人数を集めるんだ。美味い話があると言えば飛び付く馬鹿がたくさん居るからな」
「へい」
部下に指示を出して、バルモスは下品な笑みを浮かべる。
「そうだ、最初に抵抗なんかするからこうなるんだ。兄貴には叱られるだろうが、結果さえ良けりゃ問題ない筈。いや、褒美を期待できるってもんだ。ヒヒヒッ」
怪しく笑うバルモス。だが、これほど露骨な招集を掛ければ当然それは目立ち、奇襲と言う最も有利な条件を自ら手放すこととなり、そしてそれらの行動は全てシェルドハーフェン中に張り巡らされた『オータムリゾート』の情報網にあっさりと察知される。
支配人リースリットは躊躇無くその情報を『暁』に流し、ついでに偽の集金情報を細心の注意を払いつつ十六番街へと流し始めた。
明らかに情報戦で遅れを取っていることに気付かないバルモスは自ら破滅の道へと足を踏み込んだ。
同じ頃、腹心の失策を知らない幹部クリューゲはエルダス・ファミリーのボスであるエルダスに呼び出されていた。場所は十六番街の中心部にある喫茶店。
「それで?三ヶ月が経ったが……なにか良い知らせはあるんだろうな?クリューゲ」
椅子に座るのは逆立った金髪に引き締まった肉体を持ち、胸を豪快に開いたコートを纏う男。エルダス・ファミリーのボス、エルダスその人である。五十代を過ぎつつあるが、鍛え上げられた肉体と強い野心を秘めた金の瞳は実年齢より彼を若く見せていた。
「はい、ボス。少しばかり手間取ってしまい申し訳ございません。ですが、事は順調に進んでおります。近い内に吉報をお届けできるものと確信しております」
立ちながら報告するのは知性を感じられる紳士的な眼鏡の男性、エルダス・ファミリー幹部のクリューゲである。今回の呼び出しに応じて馳せ参じ、遅延を謝罪しつつも確固たる自信を持って報告を行っていた。
「なら良いんだがよ。三ヶ月も掛かってるって他の奴等がうるさくてな。自分達にやらせろと吠えてやがる」
武闘派揃いのエルダス・ファミリーでは、クリューゲを敵視する幹部も多く手柄の奪い合いや妨害などは日常茶飯事である。
「お待たせして申し訳ございません。ですが、ボスから下命された此度の件は必ず私が成し遂げて見せます。今少しだけお時間をいただけませんか?」
「他でもないお前の願いだからな、もうしばらく待ってやる。うちがもっとデカくなるには、港を手に入れなきゃいけねぇからな。だが、他の奴等だと揉め事を起こす。だから、お前に任せたんだ」
「有り難き幸せ」
だが、このクリューゲが既に『オータムリゾート』と『暁』に手を出していることをエルダスは知らない。つまり、揉め事は起きているのだ。エルダス・ファミリーを危機に陥れる可能性がある規模の物が。
クリューゲの焦り故による独断行動だが、彼はまだ挽回できると考えていた。
『暁』は新興勢力、脅し付ければ必ず利権から手を引く。『オータムリゾート』については、後日間違いであったと謝罪して策を実行したバルモスの首を差し出せば事は収まると読んでいた。それが大きな間違いであることを知らずに。
「とは言え、そう長く他の奴等を止めることはしねぇからな。やる気に関わる」
「はい、そこはご安心を。ボスのご心配はすぐに晴らしてごらんに入れます」
「期待しとくぜ、クリューゲ。上手く行けばお前を相談役に抜擢する。俺の右腕だ」
「身に余る光栄に存じます。必ずやご期待に沿うよう邁進いたします」
深々と頭を下げるクリューゲを眺めながらエルダスは上機嫌に葉巻を吹かし始める。これが破滅への第一歩であるなど、神ならぬ身である彼が知る由も無かった。
~数日後 シェルドハーフェン郊外 教会付近~
そこには百名近い男達が集結していた。半分はバルモスが招集したエルダス・ファミリー構成員、残る半分は彼が甘言を用いて集めた町のチンピラである。
「バルモスさん、こいつら役に立ちますかね?」
「数さえ揃えれば良いんだよ。本命はお前達なんだからな」
バルモスは声をかけてきた構成員に答える。最早後がないバルモスは、自分が動かせる戦力で直接『暁』の本拠地を攻撃することを決めた。短絡的ではあるが、成功すれば全てをひっくり返せる。バルモスはそれに縋るしかないのだ。
「あの連中は大金を溜め込んで、女も居る!ボスは小娘だ!そいつだけは殺すなよ、全部が台無しになる!」
「それ以外はどうすりゃ良いんで?旦那ぁ」
チンピラが下衆な笑みを浮かべる。
「ヒヒヒッ、好きにしろ。なにを壊しても、なにを奪っても良い!好きなだけ暴れろぉ!」
「「「うぉおおおおおおおおおっっ!!!!!」」」
野良犬共が様々な武器を掲げて雄叫びをあげる。この時点で相手に気付かれるだろうが、バルモスは気にしない。備えがあるだろうが、数で押し潰すつもりだ。バルモスが今まさに攻撃開始を宣言しようとしたその時。
「遠慮は無用だ!一人とて生かして返すな!ここを奴等の墓場にせよ!殲滅せよ!」
突如響いた号令と無数の銃声により、バルモスは自らの短慮を思い知り顔をひきつらせた。そして、自分達が罠に掛かったことを悟った。
そして、『暁』の反撃が始まるのである。