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 エーゼ・ロワンが黒崎創建とキルゲ・シュタインビルトの前で資料を持って説明する。


「先日のアイリスディーナ様暴走事件ですが、大まかな流れが把握できたのでご報告いたします」 

「ああ、頼む」 

「最初に、テロを起こした黒ずくめの男達をアンダー・ジャスティスで捕縛して情報を抜き取ろうとしましたが、失敗。強い洗脳によって既に精神が壊れていました。その他の特徴からも、テロを起こしたのは黒ずくめの男はニャルラトホテプ教団のC級信者であると思われます」 



 ニャルラトホテプ教団C級信者

 ニャルラトホテプ教団は孤児や貧しい平民の子から、僅かでも魔力適性が見つかれば攫い専門の施設で育てるのだ。そこでは厳しい訓練と洗脳教育、そして薬剤投与が繰り返され、生きて施設を卒業する者は一割に満たないといわれている。


 C級とは、その中でも出来損ないと呼ばれ、捨て駒として使い捨てられる存在だ。精神が壊れているため情報が漏れることもなく、しかし戦闘力はそこらの騎士を遥かにしのぐ。 


 B級なるとその精神は安定し、数少ないA級になると世界有数の実力を持つという。 無論それは現世から侵攻した光の帝国は別の話だが。


「そして、テロを起こした現場にアイリスディーナ様が居合わせ、対処していた星十字騎士団一般兵に助力。そこでテロそのものは収まります。しかしそこからモンスター、胸に空いた穴と異形の仮面から悪霊が出現、一般聖兵を殺害。アイリスディーナ様と交戦し、虚化にて撃退」

「それで終わりじゃないのか?」

「はい。実力者として様子を伺って待機していたライナー・ホワイトを発見、ライナー・ホワイトの挑発に乗って意識が怪物に乗っ取られ、暴走事件へ繋がります」


 ふむ、とキルゲ・シュタインビルトは首を傾げる。


「内なる怪物を屈服させたとしても、怪物化中は理性を容易く奪われ暴走する。魔力があるからこそ御しやすくもあり、逆に暴走しやすくもある。やはり現地民の怪物化には問題点は幾つもありますね」

「それに一般兵とはいえ星十字騎士団の兵士を殺した悪霊も問題だ。少なくともこれまでの悪霊なら、下級巨大悪霊でさえ、一般兵で対処できていた。それを二人を瞬殺。人為的な工作か、悪霊化が進化を遂げている可能性がある」

「アンダー・ジャスティスついてはもう首領をライナー・ホワイトと公表してしまいます。正面切って戦争を仕掛けてくるなら多々潰し、暗躍のみなら放置で構いません。アンダー・ホワイト内部でエーゼ・ロワンが演説し、最終的にライナー・ホワイトは死ぬべく世界は動き出しました。その親玉が、誰かはいずれ明かされることです。今やってしまっても問題はない」

「わかりました。そのように手配します」


 頷くエーゼ・ロワン。

 キルゲ・シュタインビルトは難しい顔で、机を叩く。


「問題は、悪霊……いえモンスターですね。ふぅむ、一般聖兵を凌ぐレベルのモンスターですか。確かこの国の軍事力は新種のモンスターに当てられている、という話でしたよね?」

「はい、キルゲさん。なので治安維持に回す戦力も欠けていて、そこを僕たちが補う形で占領した。確かにこの世界の基準において英雄レベルの星十字騎士団の一般兵が、即殺されるモンスターの出現。そりゃあ、軍事力の全てを傾ける必要が出てきますね」 

「我々としてもこの国が消えるのは不都合だ。情報連携を密にして、今回の件を言い訳に情報提供をしましょう。ニャルラトホテプ教団はエーゼ・ロワン主導でアンダー・ジャスティスに確実に潰してもらいます。そして星十字騎士団はアーティファクトの確保を最優先に動きます」


 そこで、エーゼ・ロワンが手を上げて、耳に手を当てる。アンダー・ジャスティスの者から魔法による通信が入ったのだろう。


「今、確定情報がはいりました。王都魔法剣士学園に所属するアーティファクト解析の少女ならびに研究成果を狙って動くものがいるそうです。ニャルラトホテプ教団で間違いない、と」

「おや、それは僥倖ですね。ニャルラトホテプ教団というカルト宗教テロ組織の証明、アンダー・ジャスティスというテロ組織とその首領の公表が重なれば、流石に国内に警備を配置しないわけにはいきません。しかし自分達の軍事力はモンスターの対処で手一杯」

「政治的に合理的配慮をして、光の帝国・星十字騎士団の兵士を公に内部浸透させる絶好のチャンスです」

「創建くん、頼みます」

「わかりました」

「では、私達はアーティファクトを解析するために頑張っているお姫様を守りに行きます。行きますよ、エーゼ・ロワン」

「はい、キルゲ・シュタインビルト様」

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