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第77話:MeTubeマネーの全額投入!主、山を買う〜聖域の防衛戦と、元社畜の兵站術〜
春の柔らかな日差しが降り注ぐ、十勝の限界集落。
俺の愛機であるコンパクトなiPhone miniの画面に表示された『天文学的な口座残高』を見た瞬間、スーツ姿の悪徳業者たちの顔から、サァッ……と血の気が引いていくのがわかった。
「な、なんだよそのふざけた桁数は……! てめぇ、何者だ!?」
「ただの、在宅で細々とコールセンター業務をしている元社畜ですよ。ただ、俺のバックには少々『規模の大きい共犯者たち』がついているだけの話です」
俺が淡々と告げると同時に、ジンバルにセットされたスマホから、MeTubeの通知音が滝のように鳴り響き始めた。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Hahaha! Buy the mountain, Master! If it’s not enough, I will buy the whole town for you!“(ハハハ! 山を買え主よ! 足りなければ私が町ごと買ってやろう!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Excellent liquidity! A perfect investment to protect the sanctuary!“(素晴らしい流動性だ! 聖域を守るための完璧な投資だな!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×10連発)=”Get out of our sanctuary right now!“(私たちの聖域から今すぐ出ていきなさい!)』
世界を動かすVIPたちからの怒涛の援護射撃。
さらに、俺の足元では神獣シロが『シャーッ!』と威嚇の声を上げ、その毛並みから放たれる凄まじい威圧感(マイナスイオンの裏返しの静電気)が、業者たちの足元を凍りつかせた。
「ひっ……! ぼ、暴行罪で訴えてやるからな! 覚えとけよ!」
圧倒的な資金力と、神獣のプレッシャーに完全に心を折られた男たちは、這うようにして真っ黒なSUVへと逃げ込み、泥水を跳ね上げながら猛スピードで限界集落から走り去っていった。
「……ふぅ。これで第一陣は撃退、か」
俺は小さく息を吐き、緊張でズボンの裾にしがみついていたキタキツネの兄弟、コン吉とコン次郎の頭を優しく撫でた。
「大丈夫だ。お前たちの遊び場は、誰にも奪わせない」
『キュゥゥ……』
『コンッ!』
二匹は安心したように俺の手にすり寄り、シロもまた、いつもの『とろけるスライム状態』に戻って縁側で香箱座りを始めた。
だが、あの手の業者は一度目をつけたらしつこい。根本的な解決を図るためには、物理的な『陣地』を確保するしかないのだ。
「小春ちゃん。ちょっと留守番を頼めるか? 散歩がてら、村長の家に行ってくる」
「はい! お気をつけて、お兄さん! 業者さんがまた来たら、私がほうきで追い払いますから!」
意気込む小春ちゃんに見送られ、俺は雪解けの道を歩き出した。
向かった先は、この集落の土地の大半を管理している村長の家だ。
玄関を叩くと、村長は縁側で渋い顔をしながらお茶を飲んでいた。
「……おお、兄ちゃんか。実はな、最近怪しい連中が山を売れとうるさくてな。ワシらももう歳じゃし、山の管理も限界じゃから、手放そうか迷っておったんじゃよ……」
村長の話を聞き、俺はかつて陸上自衛隊『需品科』で叩き込まれた、完璧な兵站(ロジスティクス)と調達の計算式を頭の中で組み上げた。
迷う理由は一つもない。
「村長。その山、そして俺が借りているあの古民家も含めて、一帯の土地をすべて俺に売ってください」
「は……? 兄ちゃん、何を言っとるんじゃ。あの山林全部となると、田舎とはいえ相当な額になるぞ? ローンなんて組めるわけが……」
「キャッシュで、今すぐお支払いします」
俺は再び、iPhone miniの残高画面を村長に見せた。
ゆうき あきや
3,596
259
#心理描写重視
村長は老眼鏡をずらし、画面の数字を三度ほど数え直した後、腰を抜かしかけた。
「ひ、ひえええっ!? 兄ちゃん、お前さん一体どんな悪いことをしてこんな大金を……!」
「悪いことなんてしていません。ただ、うちの猫が可愛くて、キツネたちが元気なだけです。……村長。あの山は、村の皆さんが守ってきた大切な場所だ。メガソーラーやリゾート地なんかで、めちゃくちゃにさせたくないんです」
俺の真っ直ぐな言葉に、村長はシワだらけの目からポロポロと涙をこぼした。
「……ありがとう、兄ちゃん。あんたみたいに、この土地を愛してくれる若いもんがおるなんてな。……わかった。あの山は、あんたに託すよ」
その日の午後。
司法書士を交えた特急の事務手続きを経て、俺の口座から莫大なMeTubeマネーが引き落とされ、代わりに分厚い『権利書』が手渡された。
ブラック企業で、蛍光灯の光しか見えなかった社畜時代。
家賃数万円のボロアパートで、カップラーメンをすすりながら「俺の人生、何もないな」と絶望していた俺が。
北海道の限界集落で、一山まるごと買い上げる『山主(やまぬし)』になった瞬間だった。
古民家に帰り、俺はジンバルに向かって、分厚い権利書を掲げて見せた。
「世界中の皆さま。ご報告です。……先ほど、この古民家と裏の山林一帯、すべて買い上げました。これにて、限界集落防衛戦、完全勝利です」
その瞬間、三百万人が見守るチャット欄が、物理的にバグったような速度で吹き飛んだ。
『うおおおおおおおおお!!!!!』
『有言実行すぎるwwww マジで買いやがったwww』
『限界社畜、ついに限界集落の地主にジョブチェンジ』
『MeTubeの収益を全額山に突っ込む男』
『これでシロ様もキツネたちも、一生平和に暮らせるな!!』
『最高だ!! 涙が出てきた!!』
画面は、世界中からの祝福と、滝のような極彩色のMeTubeギフトで埋め尽くされている。
「お兄さん……! 本当に買っちゃったんですか!? あの山全部!?」
小春ちゃんが、目を丸くして権利書を覗き込んでいる。
「ああ。これでもう、誰にも邪魔されることはない。……ただ皆さま、誤解しないでいただきたいのですが、これは決して成金趣味ではありません」
俺はキリッとした真顔になり、いつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「ミニマリストたるもの、生活圏内のノイズは極限まで排除しなければなりません。怪しい業者の騒音や、重機の排気ガスは、俺の『玄米と大豆パティ』の風味を損ないます。これはあくまで、俺自身のミニマルな食生活と精神の平穏を守るための、極めて合理的な『環境投資』に過ぎないのです」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、たまらず俺の肩をバンバンと叩いた。
「山を丸ごと一つ買うミニマリストがどこにいるんですか!! どう見たって、シロちゃんとコン吉くんたちの居場所を守るために、全財産叩き込んだんでしょうが!! お兄さんは本当に、素直じゃないんだから!!」
『小春ちゃんの正論パンチ炸裂ww』
『ミニマリズム(山まるごと購入)』
『環境投資(全財産放出)』
『適応力バグおじさん、ついに不動産経済学まで歪め始める』
『不器用な主の優しさに泣ける』
俺の理不尽すぎる言い訳と、小春ちゃんの愛あるツッコミに、三百万人の視聴者たちは大爆笑し、そして最高に温かい涙を流していた。
『ミャウ(私の領地が広がったわね)』
シロが、俺の胡座の上にトコトコと登ってきて、満足げに喉を鳴らした。
コン吉とコン次郎も、「僕らの山だー!」とばかりに、庭から裏山へと続く道を元気いっぱいに駆け出していく。
「……まぁ、理由はどうあれ。良い買い物だったな」
俺は温かいほうじ茶を啜り、大きく息を吸い込んだ。
土の匂い、雪解け水の音、そして微かに混じる、ふきのとうの香り。
世界中の誰が何と言おうと、ここが俺たちの聖域だ。
どれだけ時代が変わっても、俺はこの場所で、最高に温かくてバグった日常を、動物たちと一緒にのんびりと守り抜いていく。
新たに『山主』となった元社畜の顔には、ブラック企業時代には決して見せることのなかった、穏やかで満ち足りた笑みが浮かんでいた。
コメント
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あおいです、読み終わりました〜!「山をまるごとキャッシュで買う」ってまさか本当にやるとは思わなくて、村長さんが腰抜かすシーンで声出して笑っちゃいました。でも「俺のミニマルな食生活を守るための環境投資」って言い訳する主人公に、小春ちゃんがツッコむところが一番好きです。シロ様もキツネたちも安心して暮らせる聖域、これからも温かく見守っていきたいなって思いました🌷