「それでその、お話というのは?」
「まずはこちらをご覧下さい」
杉野さんが着いていた席に座った私は水を運んで来てくれた店員さんにコーヒーを頼んだ後で呼ばれた理由を尋ねると、彼は鞄の中からファイルを取り出してそれを差し出して来た。
恐らく中を見て欲しいという事なので、私はそのファイルに入っている紙の束を取り出すと、数枚の写真も一緒に出て来た。
「これは……」
「先週の日曜日、このカフェで女性と待ち合わせて暫く過ごし、その後で、ここから見えるあのホテルで夜まで過ごしていました」
「……そう、ですか」
差し出された物は所謂調査報告書で、写真に写っていたのは私たちが今居るカフェで撮影されたものと、外へ出た後で女性が貴哉の腕に自身の腕を絡めて仲睦まじく歩く姿、そして、少し歩いた先にあるラブホテルに二人で入って行く姿と、陽が落ちて暗くなった頃に二人でホテルから出て来る姿を収めた写真だった。
先週の日曜日、確か貴哉は取引先の人と接待があると言って出掛けて行った。
分かってはいたけど、やっぱり嘘だったんだと呆れてくる。
そして、何よりも私はこの写真で初めて、不倫相手の容姿を知る事になったのだけど、彼女は私とまるで正反対の派手めな人だった。
綺麗な人ではあるけれど、化粧も服装もとにかく派手。
結婚前に聞いていた貴哉のタイプとも大きくかけ離れている。
「化粧が濃い女は好かないから、お前はとにかく薄化粧にしろ。服装も派手なものは恥ずかしいからシンプルな物にしろ」なんて私には常日頃言っていたくせに、貴哉の新たな一面を知る度、怒りは募っていく。
そのせいで、義母にはいつも嫌味を言われていた。
「璃々子さんは何だか地味ねぇ。もう少し着飾ったら?」「お洒落に気を遣えないなんて、貴哉が可哀想だわ」と顔を合わせる度に。
全て、貴哉が要求してきた事なのに。
「――小西様?」
「え?」
「大丈夫ですか? 顔色が優れないようですが」
「あ、すみません。大丈夫です」
「いざこういう物を目にすると、複雑な気持ちになりますよね」
「そうですね……。その、相手の女性がどんな人なのかを見たのは初めてなもので、こんな派手な方なんだなって少し驚いてしまって」
「そうですか。彼女の事も少し探りを入れまして、彼女の名は紺堂 美里亜。二十二歳。昼間は駅近くにあるネイルサロンでネイリストとして働いていて、夜は週に二回程、キャバクラで働いています」
「二十二歳……」
見た目から若そうだとは思っていたけれど、ほぼ一回りも離れている女性だなんて思いもしなかった。
しかも、驚くべき事実は他にもあった。
「実はですね、小西様にお伝えしなければならない事がもう一つありまして……ご主人にはもう一人、頻繁に会っている女性がいるんです」
「え……?」
「私が確認した限り、二週間の間に三回は会っていました。お相手は同じ職場の別の部署の女性社員、日比谷 華。二十八歳です」
何と貴哉にはもう一人不倫相手がいるようで、その人は先程の女性と似ていて派手めな外見をしていて、貴哉と同じ会社の社員だった。
これは予想外過ぎて、言葉が出て来ない。
「私が見る限り、一番は紺堂さん、二番は日比谷さんといったところかと思いますが、女性の方はまさか小西様以外にライバルがいるとは思っておられないと思うので、ご主人は余程上手くスケジュール管理をなさって好きな時に好きな女性と会うよにしているのでしょう」
一人でも許せないのにまさかのもう一人の存在に頭を抱えたくなる。
一つ言える事は、貴哉は本当は派手な女が好きだという事。
私に地味な格好をさせていたのは元から好みでは無いからなのか、それとも、あまりお金を掛けて欲しく無かっただけなのか……そんなところだろうと思った。
貴哉の秘密を知れば知る程怒りしかない。
そんな私を憐れむように見つめてくる杉野さんは、惨めな気持ちになって落ち込んでいる私にとある提案を持ち掛けてきた。
「小西様さえ宜しければ、少しばかり追加料金は掛かりますが、ご主人に復讐をしませんか?」と。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!