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「えっ?教団が?!」
俺はまさかの発言に少し声が大きくなってしまった。
声を出した瞬間、自ら気が付いてすぐ抑えめにしたがそれは一体どういうことなのだろうか?
「少し前からこの依頼が来ていたのだが、アースルドたちからあの話を聞いてから改めてこの依頼関連の情報を確認してみると少し気になる点があってね」
「気になる点、ていうのは?」
俺は少し前のめりになってグランドマスターの話を聞く。Sランクになることには消極的だが教団が関わっている可能性があるというのは正直無視できない。もちろんお嬢様のことが心配であるということも理由の一つであるが、一番大きな理由は彼らの目的である。
あのジェラという男が言っていた『マモン』とやらの復活に成功されることがあれば、聞いた話が本当であれば間違いなくこの世界が文字通りの地獄と化してしまう。そんなことになれば俺のスローライフどころではなくなるだろう。
「実はこの依頼書にもあるように現在、王都の北方にあるコキュートン山脈周辺でワイバーンたちが生息地を大幅に外れて暴れまわっているみたいでね。周辺の村々でそのワイバーンによる被害が多発していると聞いているんだ。だからその原因調査とワイバーンの撃退が依頼として来たんだけど…」
「その村に住んでいる者の目撃証言によると、山脈の山頂付近で黒い靄を纏った謎の飛行生物がいたと言うんだよね」
「黒い靄を纏った飛行生物?」
俺は黒い靄と聞いて何か引っかかるような気がした。
そこで教団関連の記憶の中で何があったかを必死に思い出してみる。
「あっ、そういえばあの時ジェラが持っていた魔力水晶も黒い靄が溢れていたような…」
「ああ、黒い靄を纏った生物と言えば私も心当たりがある…」
「「…マモン」」
俺とグランドマスターは息を合わせたかのように同じ言葉を発する。グランドマスターはまるで実際に黒い靄を見たことがあるかのような口振りだった。
「グランドマスター、もしかしてマモンをご存じなのですか?」
俺はそう尋ねると気難しそうな顔をしてしばらく下を向いて黙ってしまった。そして何か嫌な思い出でも思い出していたのか頭を振り払うように顔を上げる。
「ああ、知っていると言えば知っている…かな。詳しくは言えないけれどね」
「そう、なんですか」
俺は何となく重い雰囲気を感じてそれ以上聞くことはやめておいた。今はその依頼のことに集中するとしよう。
「で…その黒い靄を纏った生物がもしかしたら教団が関係していて、そいつが原因でワイバーンたちも生息域を追い出されたということですかね…?」
「ああ、私もそのように考えてるんだ。だからこそ今回の依頼はその黒い靄を纏った生物の調査も併せて行ってほしいんだよ。それに…実はそのような生物が確認されているのはここだけじゃないんだ」
まさか、この山脈以外の場所にも黒い靄の生物が?一体何が起ころうとしているんだろうか…とても嫌な予感がする。
「他の場所の調査にはSランク冒険者たちを向かわせているんだけれど、ぜひこの山脈の件を君に頼みたいんだよ。お願いできるかい?」
こんな話を聞いてしまっては断るわけにはいかないよな。俺にも全く無関係な話ではないからな。
「分かりました。この依頼、受けさせていただきます」
「ありがとう。何が起こるか分からないから十分に気を付けてくれ」
俺はグランドマスターから依頼に関する他の細かい情報を聞き話し合った結果、十分に準備をしてから向かうべきだということに落ち着いたので出発は2週間後ということになった。コキュートン山脈近くの村までの移動手段はグランドマスターが用意してくれるらしい。
そうして俺はグランドマスターとの相談もひと段落したところで応接室を後にする。二階の窓からはもうすでに夕日が差し込んでおり、想った以上に時間が経っていたことに気が付く。
とりあえずギルドの一階へと降りるとそこではテーブルを囲みながら長椅子に座っているレイナさんとセレナお嬢様、そしてその側で立っているマリアさんの姿があった。もしかしてずっと待っていてくれたのだろうか?
「お待たせしました!」
俺は急いで彼女たちの元へと駆け寄って声をかける。すると俺が下りてきたことに気づいたお嬢様が退屈そうな表情を一変させて急いで椅子から立ち上がり駆け寄ってきた。
「お待ちしておりました、ユウトさん!かなりお話しが長かったですね?」
「ええ、とある依頼を受けることになりましてその相談をグランドマスターとしていたんですよ」
俺は教団関連の情報は伏せてコキュートン山脈での依頼について3人に話した。するとレイナさんとお嬢様がSランク相当の難易度の依頼だということもあってかなり心配してくれたのだが、マリアさんの説得もあって少し不安そうな感じではあったが最後には応援してくれていた。
マリアさんは一度俺とある意味事故的な感じではあったが手合わせしたこともあるので俺の実力をかなり高く評価してもらえているようだ。それに先ほどのグランドマスターとの手合わせの件もあってSランクに任命されたことも何ら不思議に思っていないらしい。
「そ、そういえばユウトさん。私はどうしましょう?」
俺の依頼についての説明と説得がひと段落したところでレイナさんが俺にそのようなことを聞いてきた。確かに俺の付き添いで王都まで来てくれたのだが、流石に俺が依頼から帰って来るまで待っててもらう訳にもいかないだろう。
「そうですね…レイナさんのお仕事も終わったことですし先にサウスプリングに帰ってもらっても大丈夫ですよ」
「…そうですよね」
何だか少し悲しそうな表情に一瞬なった気がしたが気のせいだろうか?
するとそんな俺たちの会話を聞いていたお嬢様が突然ある提案をしてきた。
「レイナさん、もしよければユウトさんが依頼から帰ってこられるまで私たちの屋敷に泊まりませんか?」
そんな突拍子もない提案にレイナさんは慌てふためく。
「そ、そ、そ、そんな!お世話になるわけには…!!!」
「いえ、私がレイナさんともっと一緒にお話ししたいんです。それに…」
するとレイナさんの耳元へと顔を近づけて小声で話しかける。
小さすぎたので俺にはなんて言っているかはっきりとは分からなかった。
(….んとの関…ても少…..たい….こち…….きますか?)
「えっ?!そっ、それは…」
レイナさんが先ほどまで以上に動揺した感じになり、それに耳まで赤くなるほどに顔を赤らめていた。一体お嬢様はレイナさんに何を言ったんだろうか?
「わ、分かりました…お、お言葉に甘えてお世話になります」
「では、決まりですね!ユウトさんもレイナさんのことは私たちにお任せください!」
「あっ、はい。よろしくお願いします」
俺は状況をよく理解できていなかったが、とりあえずレイナさんのことはセレナお嬢様やマリアさんにお任せすることにしよう。
そうして俺たちは今後の方針も定まったところで夕食を一緒に食べることに決めた。しかし、さすがに公爵家令嬢をそこら辺の料理屋に入らせるわけにもいかず絶対に行く機会のなかった高級レストランで夕食を頂くことになった。
もちろん俺とレイナさんも高級な料理を食べることになったのだが、緊張で全く味の分からないという状況になっていた。そして15歳の少女であるお嬢様に奢ってもらうのも何だか気が引けたので俺がお代を払うことにしたのだが、あり得ないほどの金額が飛んでいってしまったのは言うまでもないだろう…