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それから少しの間、二人は黙って歩いていた。夕焼けが夜に変わる境目で、街灯がぽつぽつ灯り始める。
「くっさん」
「んー?」
「さっきのさ」
「どれ」
「忘れんなってやつ」
葛葉は足を止めて、ローレンを見る。
「……なんだよ」
「先輩らしくない」
「うるせ」
そう言いながらも、否定はしなかった。
ローレンは一歩近づいて、真正面から葛葉を見る。
「葛葉、卒業してもさ」
「うん」
「会いに来いよ」
あまりにも真っ直ぐな言い方で、葛葉は一瞬言葉を失う。
「……は?」
「三年だからって、急にいなくなるの嫌なんだけど」
「それ、後輩が言うことか?」
「俺は言う」
低い声が、やけに近い。
葛葉は視線を逸らして、照れ隠しみたいに鼻で笑った。
「ローレンさ」
「なに」
「俺のこと好きすぎじゃね」
「今気づいた?」
即答だった。
「……」
「くっさん?」
「いや、ずるいわそれ」
葛葉は額に手を当てて、ため息をつく。
「俺さ、こういうの弱いんだよ」
「知ってる」
「努力とか我慢とか嫌いだし」
「それも知ってる」
ローレンは少しだけ声を落とした。
「だから、俺がする」
「……なにを」
「待つのも、追いかけるのも」
その言葉に、葛葉の胸がぎゅっと掴まれる。
気づいたら、ローレンの手首を掴んでいた。
「ローレン」
「なに」
「可愛いこと言うなよ」
「事実しか言ってない」
葛葉はしばらく黙ってから、小さく笑う。
「じゃあさ」
「うん」
「俺が卒業するまで」
「うん」
「隣、いろ」
ローレンの目が少し見開かれて、それから柔らかく細まる。
「……それ、約束な」
「破ったらどうする?」
「全力で迎えに行く」
葛葉はくしゃっとローレンの髪を撫でた。
「生意気」
「くっさんにだけな」
「……まあ、いっか」
手を繋いだまま、二人はまた歩き出す。
先輩と後輩。
でもその距離は、もう名前だけのものだった。