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それからの日々は、不思議なくらい穏やかだった。
朝、昇降口で目が合えば軽く手を振る。
生徒会室では、ローレンが資料を広げて、葛葉が椅子にだらけてる。
「葛葉、そこ間違ってる」
「えー、ローレンやっといて」
「先輩だろ」
「後輩が優秀すぎるのが悪い」
そう言いながらも、ローレンは文句を言いつつ直してくれる。
葛葉はその横顔を見るのが、最近の癖になっていた。
「なあ、ローレン」
「なに」
「俺が、卒業してさ」
「うん」
「急に会えなくなったら、どうすんの」
ローレンはペンを止めて、葛葉を見る。
「……なんで今それ聞くんだよ」
「なんとなく」
嘘だった。
なんとなくじゃない。
考えないようにしてただけだ。
「会えなくなるわけないだろ」
「根拠は」
「俺が会いに行く」
迷いのない声。
葛葉は目を細めて笑った。
「後輩のくせに強気」
「くっさんが弱いだけ」
「否定できねぇ」
放課後、生徒会室に二人きりになると、空気が変わる。
話さなくても、沈黙が重くならない。
ローレンが立ち上がって、窓を閉めに行く。
その背中を見て、葛葉は無意識に声をかけていた。
「ローレン」
「ん?」
近づいて、距離が縮まる。
手を伸ばせば触れる距離。
「……俺さ」
「うん」
「ローレンに甘えてるよな」
「今さら?笑」
ローレンは少し困った顔で笑う。
「でも嫌じゃない」
「じゃあさ」
葛葉はローレンの袖を掴んだ。
「もうちょい、このままでいさせろ」
「先輩命令?」
「お願い」
一瞬、ローレンの目が揺れた。
それから、そっと葛葉の背中に手を回す。
「……離す気ないから」
「は?」
「俺のほうが我慢してんの」
低い声が耳元に落ちて、葛葉の心臓が跳ねる。
「ローレン」
「なに」
「それ、ずるい」
けど、離れなかった。
むしろ、少しだけ体を預ける。
生徒会室の時計が、静かに時を刻む。
卒業まで、あと少し。
先輩と後輩のままでいられる時間は、もう長くない。
それでも今は、互いの温度を確かめるように、ただそこにいた。