コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
【閲覧注意⚠︎】この小説はnmmnです。nmmnが苦手な方やタグの意味が分からない方は一度ご確認の上、再度閲覧をするかのご検討をお願いします。又、この小説は作者の妄想・フィクションです。ご本人様(キャラクター等)には一切の関係・関連はありません。ご迷惑がかからぬよう皆で自衛をしていきましょう!
閲覧は自己責任です。
※その他弱シリアス・BL要素有り( 🟦×🏺)
今一度ご確認の上、ご理解ご了承頂ける方のみ本文へお進みください🙌
ご確認ありがとうございます!!!
それではどうぞ〜🫶✨
🏺『』その他「」無線「”○○○”」
ふとした時に気がついたことがある。
事件の対応中や人と関わっている際には全く微塵も気にならないのだが、一人になるとどうにも身体の違和感が拭えない。
『…?、はぁ〜…、なぁんか痒いんだよなァ…、』
共有の冷蔵庫から一つだけ甘い飲み物を取り出して、ゴクリと一気に飲み干す。
疲労や空腹のせいで身体がムズムズとしているのかと最初は思っていたが、どうやら糖分を取っても何も変化は起こらない。
足や腕の皮膚…その内側が所々じんわりと痒いのだ。
『意味わかんねぇなァ』
つぼ浦は小首を傾げてその痒みのある場所のひとつを引っ掻いてみる。
すると、その引っ掻いた腕からピキリと小さな痛みを感じた。
まるで触らぬようにと気を付けていたかさぶたを勢い余って剥がしてしまったかのような感覚だった。
『ッて。…?、ンだこれ…、』
一瞬眉間に皺を寄せてから、つぼ浦はまじまじと自分の腕を見つめる。
『…血管?、いや。こんなすれっすれにある訳ねぇか。…分からん』
見つめた先にはほんの少しだけかすった皮膚の下に薄緑色の何か。
凝視して見てもそれ以上の事は分からずに、つぼ浦は棘でも刺さってしまったのかと一人ごちた。
『入り込んでて取れそうにもねぇな。クソ、やっちまったぜ』
ペシペシとその部分を叩いてから一つため息を漏らして、取り敢えず包帯でも巻いておけば気にならないだろうと安直に考えてスタッシュを漁る。
「ナニしてるの?」
『゙ん?、あぁ猫くんか』
取り出した包帯を握りしめたまま振り返れば、そこには後輩の猫マンゴーが居た。
マンゴーはつぼ浦の手に持っている包帯を見てから小さく首を傾げて、もう一度質問を投げかける。
「怪我したの?」
『ん〜まぁな。少し引っ掻いちまっただけだ。怪我って程でもねぇが、見える場所にあると気になるだろ?』
そう言ってマンゴーにもちらりと腕を見せる。
しかし、先程の薄緑色の何かは滲んできた血に紛れて本当にかすり傷の様なものにしか見えなくなっていた。
『あ。意外と深くやっちまったか…、』
「ホントだ。引っ掻くの良くないよ。怪我してる」
マンゴーはゴソゴソとポケットを漁って、ひょいと絆創膏を手に収めてからつぼ浦に一歩近づいた。
「包帯じゃ余計に気になるヨ?、面積考えないと」
『そうか。確かにな』
丁寧に貼られたその絆創膏に目をやって、それからつぼ浦は笑みを浮かべる。
『助かったぜ。さすが猫くんだな』
「ン。それほどでもナイヨ。、ふは(笑)、くすぐったい」
ぽすぽすと少し固めなその猫の頭を撫でれば、マンゴーはにへらと声を漏らしてその手を掴む。
「…?、」
掴んだその手は少しだけひんやりとしていて、特段それ以上の違和感はなかった。
今日は冷え込んでいたしなぁと事件対応の時にビュンビュンと肌に刺さる冷たい海風を思い出して、マンゴーはヨシヨシとつぼ浦の手を握っては撫でる。
『何だァ(笑)?、俺の真似か?』
「んーン。これは労りだヨ。ちょっとだけ冷たいからね。あったかくしな?」
数回撫でてからパッと手を離し、マンゴーは“これでヨシ”と満足気に頷く。
「じゃあ俺は大型行ってくるからね」
『おう。俺もパトロール行ってくるぜ、ありがとな』
たったか軽快な足取りで去っていくその姿を見届けてから、つぼ浦はもう一度絆創膏が貼られたその部分を眺める。
『……、』
いつの間にか痒みは引いていた。
じわじわと痛みは感じるものの、痒みより痛みの方が幾分か慣れている。
『…まぁいいか。どうせ取れねぇしな』
“てめぇは死ぬまで俺の身体の一部だぜ”と嫌味ったらしく棘に呟いて、つぼ浦もトタトタとサンダルの音を響かせながら本署を後にした。
他の箇所のむず痒さには知らぬフリをして、その日の職務はいつも通りに全うする事が出来た。
『ン…ッ…、゙ンー…、……いてぇ…、、』
じわじわとした痒みを本格的に無視できなくなってきた今日この頃、思えばあのむず痒さが一点ではなく広範囲に渡って所々感じるという事実に違和感を持つべきだったと今更ながらに反省した。
ロングスリーパーなこともあり、数十時間眠りについてから意識を浮上させれば、途端に体が痛みを伝達してくる。
『なんだァこれ…、くそ痛ぇじゃねぇか…、』
眠っている間ずっと眉間に皺を寄せていたらしく、ピクピクとしているその額を解すように片手で自身のおでこを手荒く揉みほぐす。
『゙ッ、…。……は?』
ゆるゆると動かしていたその手にピキリと痛みが走り、その手を天井に掲げてみれば…何故だかその手の甲にちょこんと新芽がくっついている。
『………、』
意味が分からないが何故だかゾワリと身体が冷えて、そのまま視線だけを手の甲から腕の方へと動かした。
『、…おいおいおい…、ンだよこれ…、』
引きつった口元でどうにか苦笑いを浮かべて、自身の身体の異変に頭を働かせる。
以前猫マンゴーが貼り付けてくれた絆創膏を無理やり押し上げるかのように、その植物はもこりと立派な葉を体外に表出させていた。
『スゥー…、意味が分からん。…これ、くっついてるっつーより…、、生えてる、よな?』
ぺりっと絆創膏を剥がしてからよくよくその葉を眺めれば、つぼ浦の推理はぴたりと的を得る。
『うわ生えてるわ…、腕にも足にも生えてるじゃねぇか。゙っ、つーか痛てぇしよ…、』
まだ生えたばかりの若々しい色をしたその茎や葉は、つぼ浦の皮膚をぴきりと突き破ってまばらに生息しているらしかった。
不意に左の鎖骨部分に手を置いてみれば、そこにももさりと植物の葉の感触が伝わってくる。
『…だいぶヤベェな』
ぱちぱちと瞬きを繰り返してから、のそりと上半身を起き上がらせて息を吐く。
『ふぅー…、、痛てぇし草生えてるし、何の歪みだこれ…、』
身体を動かす度にピキリと痛みが広がり、つぼ浦は根性で無理やり立ち上がればとりあえずこのウザったい植物たちをどうにかしようと歩き出す。
身体の異常で目が覚めた為か、まだ辺りは薄暗く渡り廊下を歩いても人気がほとんど感じられ無かった。
『武器庫…より、キッチン行った方がなんかありそうだな』
意味もなく生えてきた葉っぱや茎をスパンと切れる何かがあればいいのだが、キッチンにいざ到着してみれば意外と手頃な道具は見つからない。
『包丁はさすがに危ねぇしな。ハサミ、、はなんかでけぇなこれ。あとはー、果物ナイフ…、まぁこれなら扱い易いか』
手のひらにちょうど収まりの良い果物ナイフを軽く握って、試しに腕に生えているその葉を茎ごとぶった切る。
『゙っ、…あー…まぁこんなもんか』
切ってもそこまで痛みはなく、ただ純粋に肌を突き破ってくる行為自体が痛みの原因らしいと突き止める事が出来た。
それを理解したつぼ浦は少しだけ茎を残しつつも邪魔な部分をチャキリとナイフで落として行く。
『足はまぁあったって気にはならんが、首のやつは流石に邪魔だなァ…』
腕の葉を切り落としてから、軽い面持ちで鎖骨と首筋の部分にぽつぽつと芽吹いている葉を切り落とそうとナイフをその首にあてがう。
ひたりと触れたナイフは冷たくて、鏡もないので綺麗に切れるかどうかは分からないが取り敢えず一思いに切ってしまおうとその腕に力を込めた。
『っ、と。よーしまずは一個』
トサリと床に落ちたそれを確認して、つぼ浦は息を吐く。
さわさわと触れればまだ刈りきれていない部分もあり、もう一度指先で確認してからまたナイフを首にあてがう。
『っ…、』
「つぼ浦?」
『゙ッ?!、ってぇッ!、だァやっちまったッ!、』
突然の声掛けに手元が狂った。
その声が聞こえた方へと身体を向ければ、書類やらノーパソやらを両手に抱えた青井が呆然と立ち尽くしている。
「…つぼ浦、何やってるの?」
『見りゃわかんだろ葉っぱ切ってんすよ。゙ッ〜、つーかくそ痛てぇ…、手元が狂っちまった、゙あ〜痛てぇ、、』
痛い痛いと言いながら、つぼ浦は首筋を抑えてもう一度ナイフをその褐色な肌にあてがう。
「…”ねぇみんなキッチン来てくれる?、今すぐに。大至急ね?”」
そんなことを青井が無線で呟けば、直ぐにガチャリと開く会議室の扉。
「なんすかァらだおさん。やっぱ資料クソ重かったんじゃないですか?」
「だから俺らも一緒に行こうかって言ったのに〜」
“素直じゃないんだからぁ(笑)”と二人で笑みを浮かべたのもほんの数秒の間だけ。
青井が両手の塞がっているその手で指差した方向へと目を向ければ、何故だかつぼ浦が自身の首にナイフをあてがっている。
そして既に首筋から割とエグめに血を滲ませて、それでもその行為は一向に止まることを知らない様子だった。
「なななな何してる?!、まって?!、ちょっと待って!、つぼ浦?、何してんの?、はぁ!?、え、あ、ストップストップ!、」
『゙あ?、何だイトセンか。カニくんも居るじゃねぇか』
「はい居ますが?、まずはそのナイフ下ろしてくれます?」
成瀬が冷静にそう語りかければ、つぼ浦は首を傾げて仕方なしにそのナイフを下ろした。
出血を抑えている左手だけは首筋に貼り付けたまま、キョトンとした表情で成瀬を見つめ返す。
『どうしたんだカニくん。事件か?』
「いやぁ大事件っすね。もうとんでもないですよ。アンタ何してるんですか?」
『俺?、俺はそうだなァ。よく分からんが歪みか何かで身体から草が生えてきてな。それを切ってたんだ』
そう言ってぎこちなくキッチンカウンターから出てくるつぼ浦の姿は、確かに所々…特に足の部分にその草とやらが生えているのが見える。
『意味分かんねぇだろこれ。うざってぇから切ってたところだぜ』
「その血は?」
『これはアオセンが急に声掛けて来るから、手元が狂ってやっちまったんだ。首に生えてるもう何ヶ所かを切り落としたら止血だな。゙あ〜いてぇ…、』
思考も行動も意外と落ち着きのあるもので、三人はほっと息を吐いてからアイコンタクトをする。
身体から葉が生える状況こそ最も意味が分からない単語ナンバーワンだが、実際問題そうなってしまっているのであれば対応するしか他ない。
青井は二人につぼ浦の対応を任せ、一旦会議室へと荷物を運び込む。
「つぼ浦…、そー…だな。それ切りたいんだよな?」
ぺいんがトントンッと軽く自身の首を叩けば、こくりと頷くのでそのまま近づいてその手に持つナイフをするりと取り上げる。
「じゃあ俺が切ってあげるからさ、ちょっと大人しく出来るか?」
『ガキじゃねぇんだから(笑)、それぐらい出来る』
つぼ浦は空気が読めるので、先程一番騒いでいた伊藤ぺいんがめちゃくちゃ冷静に対応しようと努めていることに気がついていた。
手元も若干震えていて危なげだったが、つぼ浦はそのまま何も言うことは無く…ただ立ち尽くして言われた通りに大人しく待つ。
「…、…。…、よし。切れた!、全部切れた!」
「はい待ってましたァ巻きまーす」
スイッチするかのように居場所を交代して、成瀬が手際よくその首に包帯を巻いていく。
『゙っ、ッ…』
「?、なんか触れてると逆に痛いっすか?」
『かも知れん、茎んとこ当たるとクソ痛てぇ…』
そう言われてしゅるりと包帯を取り外し、それならばと応急処置でやらかした部分にぺたりとガーゼを貼り付けて、成瀬はつぼ浦の表情を覗き込む。
「これでどうっすか?」
『…ン、これなら平気そうだ』
“助かったぜ”と息を吐いて、つぼ浦はそこでやっと緩く笑みを浮かべた。
怪我よりも何よりも、邪魔くさい葉っぱを切れたことが嬉しいらしい。
キッチンに戻ってきた青井も含めて、三人はくるりとつぼ浦に背を向けてからウィスパーでプチ会議を開く。
「なんか身体から物理的に植物生えてるんですけど…、なんの歪みっすかアレ」
「全く検討つかないけどさ…、でも絶対病院には連れていくべきだよね?」
「……んー…、俺なぁんか知ってるような知らないような…、、まぁでも俺たちに出来ることは無いしね。うん。病院連れて行こう」
コクリと頷いてからつぼ浦の方へと身体を向ければ、普段ならまだ眠っている時間であった為か…やりたい事も達成して目元がウトウトと微睡んでいる。
「…つぼ浦、寝てもいいからさ。ちょっとお前の体を検査しに行ってもいい?」
『ん、ぁ?、なんだ?』
「病院で検査。オーケー?」
成瀬の言葉に“病院かァ…”と呟いて、つぼ浦は一つ欠伸を漏らす。
『実験体にでもされたらたまったもんじゃねぇな』
「宇宙人ですら自由に暮らす街だよ?、絶対そんな事にはさせないしならないって」
『ンー…、ふぁ…、、まぁ、それもそうか』
カクンッと頭を船のように漕ぎ始めたその様子に、青井は何気なく静かに近づいて両手を広げる。
「おいでつぼ浦。寝ていーよ。病院まで連れてってあげるから」
『………、あぁ、そんなら…、そうして、貰うか』
重い瞼はもう限界で、つぼ浦が青井にゆるりと手を伸ばしたところでガクンっと身体から力が抜け落ちる。
必然的に意識も夢の中へと落ちているのだが、青井は全く焦る様子もなくしっかりとその身体をキャッチして軽々と抱き抱えた。
「よいしょ〜。ふぅ、じゃあ行こっか」
普段は鳴り響くことの無い3時過ぎの街中に、パトカーのサイレン音がほろりと溶けて響き渡っていた。
お医者さんの大大大会議を数回に分けて繰り広げたのち、曰く、つぼ浦の身体の異変は歪みではないらしい。
しっかりと病名も実在しているものであり、しかし本来であればこの世に存在しているとは言いきれないグレーな病気だった。
あやふやなアンバランスさを兼ね備えたその病は、色々なものが混在しているロスサントスだからこそ明確に発症している奇病なのかもしれないと医者たちは眉間に皺を寄せて結論を出す。
「めちゃめちゃ難しい顔するじゃん」
「いやぁまぁそうですよ。植物人間って言ったって、本来の植物状態の患者とはまた違うものですし…、調べた所でパロディのものだと出てくるんですから」
この世には存在しないはずの病。
名を“花咲病”と言われ、細かな病名よりも先に検索欄で現れるのはどこもかしこもこの名称だった。
「花咲病…、ネットでの内容を見る限り、どうやらつぼ浦さんは治療法も不明な未知の病にかかってしまったようです」
雷堂が真剣にそう呟けば、輪になって見解を解いていた他の医療従事者も小さく唸る。
「分かっている事とすれば現段階のつぼ浦さんの症状はまだ軽度のもので、彼自身は植物に対して嫌悪感を抱いている。…しかし、時が経てばいずれは…、、」
身体から茎が生えて、花が咲いて、身体中に根が広がって、いつしか抵抗を見せなくなる。
それが幸せな事なのだと感じるような思考に陥ってしまうのだと言う。
「……確かにそうは記してあったが…、本当に、そんな事が有り得るのか?、だって…俺たちが治せないってことは…数年、十数年後には、アイツがもうこの世に居ない可能性だってあるんだぞ?」
どストレートに告げたその言葉はあまりにも重く、けれども避けようのない事実であった。
花咲病になった人間はゆっくりと時間をかけて花に身体を奪われていく。
人によるがその侵食は数ヶ月、数年…、運が良ければ寿命がこと切れるその瞬間まで生きることが出来るらしい。
しかしまたそれも、いつまで生きられるかは誰にも分からない。
あまりにも分からない事が多すぎるのだ。
「俺、ッ…、そんなの耐えられない。アイツは馬鹿だけど馬鹿じゃないし、この街には居なきゃいけない存在だろ」
「…落ち着け神崎。ロスサントスは他の街とは訳が違う。怪我を負ったその人間が生きたいと希望を抱き続ける限り、…俺たちは絶対に救う事ができる」
命田の言葉に光を灯した医者たちは、力強く頷いて拳を握る。
せめて進行が早まらぬように、そして取り返しがつかなくなる前に、ピルボックス病院の医師たちは急ぎ早に行動を移すことにした。
「………という事らしいけど。分かった?、つぼ浦」
『゙ん〜っとなァ…、いやぁー…さっぱり分からん』
「だよねぇ。そう言うと思ったよ」
医者たちが告げていた言葉を簡略化して伝えたものの、結局つぼ浦匠はつぼ浦匠のままで、今のところ緊張感も危機感もまるでないのが現状だ。
至る所にゆるゆると痛みを伴わない程度に包帯を巻かれて、つぼ浦は病室のベッドに横たわる。
どうやら果物ナイフで乱雑に切除した部分は、首だけではなく他の箇所も知らぬ間に怪我を負っていたらしい。
『つーかよォ、俺がアンタに病院へとぶち込まれてから結構時間が経ってないか?』
「うん。だってお前相当深く寝てたし」
意識がプツリと切れて目が覚めれば、強制的に病院へと運び込まれてから四日は経過していた。
『流石に寝過ぎじゃねぇか?。起きて下さいよ』
「いやいや(笑)、それこっちのセリフね」
“普通に心配したんだから…”と軽く呟かれたその言葉に、つぼ浦の瞳は零れ落ちそうなほど大きく見開く。
「ん?、なに」
『、あぁ、いや、』
普段は見えないそのタレ目な瞳の奥がキョロキョロと揺れて、明らかに青井の言動による反応だと瞬時に理解した。
「だから何なんだって言ってるでしょ。吐けつぼ浦」
『ぇや、その。、俺なんかを心配してくれて、アンタは出来た先輩だなーと(笑)…、思ってよ』
少しだけ恥ずかしそうに、くしゃりと笑みを浮かべてから自身の首筋をそっとなぞる。
『ッて、あぁ、触っちまった』
首を傾げる時に手を添えるのが癖なのか、つぼ浦は眉間に皺を寄せてムスッとした表情を浮かべる。
「感情豊かだねぇお前は(笑)」
『゙あ?、何がだ』
コロコロと変わるその表情と声色に、青井は鬼の被り物の下で小さく笑った。
そしてこれからの行方を何となく想像して、自分でも気が付かぬ間にギリ…と奥歯を噛み締める。
「…ねぇつぼ浦」
『?、なんすか』
「俺にはどうする事も出来ないけど、割と真面目に心配してるからね」
『んな改まって言われてもなァ(笑)、俺も出来ることなんてねぇし…ふふ(笑)、まぁ、めちゃめちゃ嬉しいけどな』
青井の真面目な言葉に“ありがとうございます”とこちらも割と真面目に言葉を返す。
病室の空調はほんの少しだけ冷たく感じて、つぼ浦はピリリ張るその肌に気が付かないフリをした。
いつからだろうか。
自身の身体に謎の違和感を覚え始めたのは。
『゙ンー…、やっぱ肩凝ってる気がするんだよなぁ』
花咲病という病にかかってから半年程が経過して、最初は署員の皆や出会う人全てに心配の声をかけられる事が当たり前だった。
でもこのロスサントスに住む人間は驚く程に適応能力が早くて、どデカいスキャンダルがあっても、誰が何かしらの理由で帰国すると言っても、まぁそれがお前の決めた道ならばと首を縦に振ってくれる。
そしてその事実たちは目まぐるしい日々のひとつに過ぎなくて、思い返す暇さえなかなか与えてくれやしない。
要はいつか忘れるのだ。
所詮は他人事、心の底から他人を想える人間など極小数だと言い切れる。
『…。俺が死んだらどうなるんだろうな』
ふとそんな疑問が脳裏に過ぎった。
物理的な攻撃では死なないこの街で、もし自分が死んでしまったのであれば…いったいどこの誰が悲しんで、思い続けてくれるのだろうか。
「そんなこと言っちゃダだめ〜っ!、ダメだよつぼ浦さん!、」
『゙ぅおッ、びびったぜ安保くん、。大丈夫か?』
「大丈夫じゃないよぉ〜(泣)、つぼ浦さんが変なこと言うからぁ〜(泣)、」
“゙も〜…ッ、”という唸り声と共に、さぶ郎はポカポカと軽くつぼ浦の肩を叩く。
『いててててッ、痛ぇいてぇ、安保くんタンマ!』
その瞬間にさぶ郎の身体はピタリと化石のように固まって、鼻をすする音だけが僅かに聞こえる。
『あ〜効くなァ、っててて…、』
違和感を拭いきれていなかったその肩に軽く手を添えて、この際だからとつぼ浦は腕を回したり上げてみたりとぎこちなく身体を動かす。
「スンッ…、っ…、ごめんなさいつぼ浦さん。痛かったですか??、」
『いや、いつもなら何ともねぇはずなんだけどな。安保くんのパンチが強くなったのか、俺の身体が脆くなったのか…』
ぺたぺたと肌に触れて、腕を回して、次いでに伸びをしてみようと頭上に両腕を上げる。
『゙ンーッ…、。…?、あぁ。まずいなこりゃ』
「どうしました?」
さぶ郎の問いかけに答えるかのように、つぼ浦はもう一度全力で伸びをする。
すると、やはりピキピキとしたぎこちのない動きの範囲でしか身体が動かせない事に気がついた。
『安保くんのおかげで思い出したが、この身体は次の段階へと移行したらしい』
肩こりだと思っていたものが実は病の進行具合の表れで、どんなにテキパキと動こうと思っても上手く身体が動かせない。
まるで糸を引っ張られた操り人形のように、自分の身体には植物の根が張り巡らされつつあるのだと悟った。
『いやぁ〜そうか(笑)。やられたぜ』
一周まわって笑いが込み上げてきたつぼ浦は、真相を引き出してくれたさぶ郎に明るく感謝を述べる。
「ありがとうなんてそんな、、さぶ郎はなにもしてないのに…」
『んな事ねぇぞ?、安保くんなら何でも出来る。もっと自信持った方がいいぜ』
二転三転と話が飛んでいくものの、さぶ郎はそんな先輩の大きな背中と明るさが大好きだった。
「ふへへ(笑)、じゃあそうします」
『おう。そうしとけ』
嬉しそうな声色に笑みを浮かべて、つぼ浦はまたグルグルと肩を回す。
『……(にしても回んねぇな)』
身体がつっていると言うより、根が侵食してきて筋肉がピンと張っている?、様な気がする。
一つひとつの関節が動かしにくいなんて、本当におかしな病気だ。
スマホに添付してもらった花咲病に関する資料をもう一度軽く読み込んで、つぼ浦はため息を小さく漏らす。
『(いつまで動けっかなァ…俺の身体、)』
そんな思考をぐるぐると巡らせながら、今日も一生懸命に働いた。
それからまた1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月が経過して、ぎこちないながらも動いていたその身体はとうとう悲鳴を上げて、車椅子生活が始まった。
侵食を遅らせる薬は飲んでいたものの、結局未知の病はお構い無しに身体の自由を奪っていく。
『“君の為に改良を施した車椅子だよ。感謝したまえ”…はぁ。それでこんなゴテゴテなメカみたいな車椅子になったのか?』
「うん。そうみたい」
『やばくねぇかこれ』
「大体のことはどうにかなるってさ」
救急隊に長々と説明を受けてから、野暮用があり現れることの出来なかった市長の達筆な手紙を押し付けられて今の状況だ。
一緒に説明を聞いていた他の警察官たちも、事件が発生してしまえば現場に行かざる負えない。
しかし最終的につぼ浦の隣に残る判断をした青井らだおは、全ての説明を聞き終えた後に苦笑した。
「かっこいい(笑)、ね」
『笑ってんじゃねぇか』
人が歩く速度とまんま同じスピードで、つぼ浦は警察署を目指す。
「最高何キロ出るんだっけ?」
『240キロだ』
「高級車じゃん」
『ロケランも搭載してるぜ』
「働く気満々じゃん」
身体は動かせずとも手元や首の周りはいつも通りに動くので、つぼ浦は首をコキリと鳴らしてから息を吐く。
『飯も移動も階段も乗り降りも全部どうにかなる。とんでもねぇなこの車椅子』
「カスタムすれば色も変えられるって言ってたね」
『いらんいらん。このままで十分だぜ』
この州で流通している車椅子と同じ色合いで、一見して見れば普通の車椅子だがよくよく見てみれば付属品やゴツいパーツが取り付けられている超絶スーパーな車椅子。
「またこれで犯人検挙できるんじゃない?」
『出来るだろうなァ。ったく(笑)、死ぬその時まで働き続けろってか(笑)?、』
“俺は特殊刑事課なのによォ”とボヤいて、つぼ浦はクスクスと鼻で笑う。
「、……。」
つぼ浦の口から流れるように告げられた死の概念に、青井はピタリと歩みを止めた。
隣に居たはずの青井がいなくなった事に気がついて、つぼ浦も車椅子を一時停止させる。
『?、どうした?、アオセン』
滑らかな動きでUターンをし、つぼ浦は少し離れたその距離で青井を再度呼んだ。
『おーいアオセン、…?、歪みか?』
仕方なしに近づいて、つぼ浦は青井を見上げる。
その瞬間ゆるゆると青井の身体はしゃがみ込んで、その流れでつぼ浦の両手をぎゅっと握りしめた。
『ッ、…ええと…、どうしたんだ?、アオセン、』
状況が飲み込めずに、問いかけることしか出来ないつぼ浦はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「…、……。あのさぁ、」
『おう』
「…死ぬとか、言わないでよ」
『…まぁ、でも、事実…だしなァ…(笑)、』
つぼ浦は困ったように小さく笑みを浮かべて、その目をうっすらと細める。
『心無きと称されるアンタが、動揺してんのか?』
「……してるね」
“はぁ〜…”と長く長く息を吐いて、青井は鬼の被り物をパカりと取り外す。
「俺も一応は人間だからさ。それがお前だと、余計に動揺する」
何故だか分からないが、とてもとても心臓が痛んだ。
『へぇ〜…、やっぱりアンタは良い奴だな。俺みたいな奴にも目を掛けてくれて。忙しいだろうにな』
言葉にすると少しだけ悲しくなってきて、つぼ浦はそんな気持ちに蓋をするようにゴクリと空気を飲み込む。
次にどんな言葉をかければ良いのか分からなくなってしまって、ばちりと交わるその視線から逃げるようにそっぽを向いた。
「…つぼ浦」
『なんすか』
「俺みたい、じゃなくてさ。お前だから、だよ」
普段は明るくて破天荒で、その実しっかりと空気を読める真面目なお前がこんな事になっているから、俺を含め署員のみんなが心配をしている。
『…俺だから…。ッ、はは(笑)、なんか、悪い気はしねぇな』
控えめに指を掴まれて、つぼ浦の身体は心做しかピクリと震える。
驚きで思わずチラリと正面を見れば、普段は見ることの出来ないその整った顔が、青い瞳が、全てが俺だけの為に向けられていた。
『ッ…、…、その、…えっと、、』
ドキドキと心臓が高鳴って、首の後ろが急激に熱を持つ。
何かがゾワリと背筋を伝って、その異物感が蛇のように頭へとつたって来るのが分かった。
『っ、ッ…、』
この病にかからなければ…きっと手を握られる事も、視線を交わらせる事も、こうして…慈愛に満ちたかのような瞳で見つめられる事もなかっただろう。
「……?、つぼ浦?、」
『゙ッ、いや、…、何でもねぇ、平気だ』
ピキピキと頭の中に根が広がっていく感覚がして、痛みはないが不思議と何かが抜け落ちていく。
不安だとか、焦りだとか、否定的に感じていたこの病が…何故だかとても良いものの様な気さえする。
「どうしたの?、…一旦、病院戻ろうか」
『……、…いや。何ともないぜ、本当に』
首を傾げる青井の手をきゅっと握り返して、つぼ浦は瞬間二パリと笑った。
『なぁ(笑)、それよりさっさと犯人ぶっぱなしに行きませんか?。小型でも大型でもいいぜ』
“今の俺は最強だ!”と豪語するつぼ浦に、キョトンとしてから苦い笑みを浮かべる対応課。
「えぇ〜…さっそく?」
『あぁ、せっかく手に入れたんだし。お手並み拝見と行こうじゃねぇか』
やる気に満ちたいつも通りのつぼ浦に、青井は仕方がないなぁと息を吐いて立ち上がる。
つぼ浦の頭の中で、何かがパキりと強制的に変化した一日だった。