「てか、矢っ張り納得できないわ」
「何が?」
お姫様抱っこしながら連れてこられた橋の下でようやく下ろして貰った私は、降りて早々にアルベドに文句を言った。
その言葉に彼は首を傾げる。
本当に分からないのだろうか。この男……
私が、はあ……とため息をついてやればひでぇなあと馬鹿にしたように笑うし、本当になんなんだこの男は。
そして、私は再び口を開く。
「だから、約束してた日時と違うじゃない」
「ああ、それで怒ってたのか?」
アルベドは、やっと合点がいったという顔をする。
「一日も、二日も大差ねえだろ」
「あるのよ! こっちは!」
「どうして」
と、アルベドは訳が分からないと言ったような表情を私に向けた。
如何してと聞かれた、答えようがないのだが、兎に角此の男と一日半一緒とかもう簡便なのだ。
「だって、明日って言ったじゃん」
「それは、聞いた」
「む……」
そう言われると言い返せない。
しかし、それでも釈然としない私は口を尖らせる。すると、アルベドは可笑しそうに笑って私の頭を撫でる。
そう、まるで小さい子供をあやす様に。
まあ、でもアルベドが来てくれなかったらあの状況を一人でどうにも出来なかったわけだし、助けてもらったのも事実ではある。だから、その助けてもらった料とかだった……としても、それを刺し医ひたとしても此の男と長い時間一緒にいたくない。
そんな私のアルベドから逃げたい思考はぐるぐる回って、そうして、私はあることを思いだし、それを口にした。此の男が助けに……介入してきたとき言ったことを。
「そういえば、アンタ、色々理由があるって……二人きりになった時に話すって言ってたじゃん。あれ、内容何だったの?」
そう、私が聞けばアルベドはばつが悪そうに紅蓮の髪をかきむしりながらああ。とこぼす。
それから、少しの間を開けてアルベドは頼むと両手を合わせた。
「お前んとこに泊らせてくれ」
「はあ!?」
思わず声を荒げてしまう。
私にアルベドは慌てて弁解をした。そんな彼に私は呆れつつも、ため息をつきつつ言う。
流石に、止めてといった相手を野宿させるほど鬼畜ではないが、理由が分からない。
「何でよ。というか、私の質問に答えてないじゃん」
「だーかーら、それとコレが繋がってんだよ」
「どれと、どれよ!」
全く話が見えないんだけど……! と叫べば、彼は耳が痛いとでも言うように耳を塞ぐし、拉致があかない。
私は、頭を抱えて項垂れた。だって、矢っ張り此の男と話すの面倒くさいというか、話が進まないというか。
まあ、私も私でアルベドの事になると、知能指数が下がるというか、子供みたいな対応してしまうと言うか。
(私が感情的になるのは、推しの事とかだけだと思ったんだけどなぁ……)
と、心の中でため息をつく。
そんな私を見て、何を思ったのかは知らないけど、彼も困ったように笑っていた。
そうして、彼が口を開く。
「ラヴァインが帰ってきたんだよ」
「ラヴァインって、ああ……えっと、アルベドの弟だっけ?」
私が問えば、彼はこくりと頷いた。
彼の弟のラヴァインと言えば、アルベドにしょっちゅう暗殺者を送っている男である。実際に会ったこともないし、アルベドのストーリーを覚えていないために顔も性格も浮かばない。だが、アルベド曰く、弟として見れないらしく、命を狙われているため良い思い出が1つもないとか。現に、父親を殺そうともしておりそのせいで、アルベドの父親は意識不明だとか。
そして、この間まではそのラヴァインは行方が分からなかったと言っていたのだが……
「いきなり帰ってきたんだよ。それも、何か多くの従者連れてな。見たこともねえ奴らばっかだった。俺ん所は、俺を次期当主にと支持する奴とラヴァインを支持する奴の半々だからな。だが、そいつらが来たせいで肩身が狭くなっちまった」
「じゃあ、次期当主の座はラヴァインに?」
「どーだろな。まあ、俺が殺されりゃあそうなるだろうけど」
何とも言えない表情をしながら、アルベドは言う。そんな、なんとも言えないとかいう表情で済ますアルベドを見ていられなくて目をそらした。
兄弟同士で殺し合うとか、考えられなかったからだ。
それを、アルベドは受け入れているし私が口出せるようなこと一つもないだろうけど。
弟の仕向けた暗殺者のせいで、アルベドは夜も安心して眠れなくなってしまっているわけだし……まあ、弟が帰ってきた今、彼の安息の場所は限り無くなくなってしまったわけである。
「つーことで、泊めてくれねえか」
「ど、同情はするけど、聖女殿に? 嫌だ」
「んで、そうなるんだよ。俺の事可哀相だと思わねえのか?」
「全然」
「あぁ?」
「ちょっとは……」
そんな、不良みたいなガラ悪く言わなくても……と、ドスのきいた声で言ってくるアルベドに押されながら私は仕方なしに頷いた。
いや、もうそれしか道なくない!?と思いつつ、彼の好感度が2上昇していたので、まあ割に合わないが目を瞑ることにした。
アルベドは、本当に分からないから。
「他に頼れる人いなかったの……?」
「信用出来る奴がいねぇし、光魔法の奴らは俺の事嫌ってるしで……信用出来る奴って、真っ先に浮かんだのがお前だった」
「私……?」
そう聞き返せば、アルベドは何でだろうな。と微笑んでくる。その笑顔に、不覚にもドキッとしてしまったのは内緒だ。
にしても、さっきのブライトの事もあって信用出来るとか言われると心に来るものがあって、私は内心喜んでいた。アルベドは超危険人物の筈なのに、物腰柔らか好青年のブライトよりも、従順で危険な香りのするグランツよりも何故か安心できる自分がいた。
きっと、それは、アルベドが嘘をついていないからだと思う。
本心で、本音でぶつかってくれるのはもしかしたら攻略キャラの中で彼だけなのかも知れない。
(リースは何を考えているか分からないし……)
ふと浮かぶのはリースのこと。まあ、それもあって星栞には彼の心の内が分かりますようにって書いたわけだし……叶うとは微塵も思っていないけど。
そんな風に他事を考えいてると、いきなりにゅっとアルベドが私の顔をのぞき込んできた。
「ほげあぁあああああ!?」
あまりに吃驚して、私はそのままうしろにのけぞりかっこわるく転がる。
「何つー声出してんだ」
と、呆れるように言うアルベドを見て私はアンタのせいよ。と睨み付けてやる。
いや、そりゃあそうでしょうよ! だってアンタ顔近いんだもん! 一応攻略キャラだし、顔面偏差値高いって子と理解してよね!
と、内心叫びながら再びアルベドを睨みつける。
すると、何が彼の中でツボったのかピコンと機械音を立てながらアルベドの好感度が上昇していた。
(ほんと、アルベドの好感度の上昇って理解できないんだけど……)
私がそんな事を思ってると、アルベドが口を開いた。
「つことで、泊めてくれんだろ?」
「何か話飛んだけど、私もそこまで鬼畜じゃないからね。泊めてあげないこともないわ」
「なんで上から何だよ」
「だって、アンタは泊らせて貰う立場じゃない」
そう私が言ってやれば、まあそうか。と納得してくれたのかアルベドは私に手を差し伸べて、起こしてくれた。そして、私はアルベドの手を取って立ち上がる。
その瞬間、またアルベドの好感度が上がる。
(アルベドの手……温かい……いや、熱いぐらいか)
と、アルベドを見つめていると、彼の黄金の瞳と目が合い、私は顔を赤く染め、とっさに顔を逸らしてしまった。
これでは、好きな人に見つめられて恥ずかしいけど喜んでいる恋する乙女みたいじゃないか。
「何だよ。顔逸らして。まさか、俺に惚れたとか?」
「な、なわけないでしょ! 誰が、アンタなんか!」
「顔赤いけど?」
「暑いのよ!」
そう誤魔化してやれば、アルベドは「そういうことにしておく」とニヤニヤと笑っていた。
完全に誤解された。
でも、まあいいかと思い直す。じゃないとやっていけない。
私は、そう思いながらアルベドと聖女殿に向かって歩くことにした。
「あ……」
「何だよ。あって」
「いや……えっと、ううん、何でもないや」
あっそ、と冷たく返されて少しイラッとしたが、彼に悟られるわけにはいかないのだ。また調子に乗りそうだし。
(って、待って待って。アルベドって闇魔法の家紋の人間よね!? 聖女殿に連れて行って大丈夫なの!? というか、私がそんな人連れてきたって知られたら、皆にどう思われるか! 怖くて矢っ張り連れて行けない!)
けど、今更無理とかいってもアルベドは強行突破してきそうだし、私が彼に強く言えるわけもないし、腹をくくるしかなかった。
もし、私が罵倒されても可笑しいって言われてもリュシオルが味方してくれるだろうし、アルベドは私の味方でいてくれるだろう。何だかそんな気がする。
「フッ……」
「なに笑ってるのよ。気持ち悪い」
「気持ち悪いってひでぇなあ。いや、ちょっと思い出し笑いだ」
「思い出し笑いって……何を」
私がそう問いただせば、待ってましたと言わんばかりにアルベドは口角を上げた。
「星流祭のジンクスをだよ。ほら、最終日に一緒に花火を見た奴と結ばれるとか何とかって……俺の誘いをOKしてくれたってことは、少なからず、エトワールは俺に気があるって事で……」
「んなああ!? 違うわよ。アンタに誘われたから仕方なくだったし、へ、へーそんなジンクスあったんだー」
「棒読みだぞ」
私は、必死でアルベドの言葉を遮った。だって、これ以上は聞いていられないもの。
知ってる。星流祭のジンクスとか、恋人の祭りとか何とか、知ってるけど。知ってるけど、ほんと仕方なくなの強制イベントなの!と内心言い聞かせ、私はアルベドがからかってきても無視することにした。
「あー、もう……ほんと調子狂ぅ……」
明日、アルベドと星流祭まわるとか憂鬱過ぎて仕方がない。
一気に足が重くなりながらも、私はアルベドと聖女殿へ向かって足を進めるしかなかった。
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