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あー、食べた食べた。会食でお腹いっぱい食べるのはいけないことかもしれないけど、夢にまで見た地球の料理を思う存分堪能しちゃった。もちろんフェルへのお土産も忘れてない。あんまり冷えないうちに、今夜の会談が終わったら戻って食べさせてあげないと。
幸い“ギャラクシー号”は直ぐ側にアリアが待機させてくれてるし、軌道上のプラネット号まで往復一時間も掛からない。
予想外だったのは、お父さんが愛用している栄養ドリンクを飲んだジョンさんがムキムキマッチョにジョブチェンジしちゃったことかな。
体に異常は無さそうだけど、アードの食べ物や飲み物を地球へ持ち込むのは慎重にならなきゃいけない。害はなくてもどんな結果を産み出すか分からないって事が分かったから。
ダメだなぁ、こう言うのは前世の社会人として当たり前の感覚なんだけど……前世の記憶も朧気になってるからなぁ。
今世が幸せ過ぎるから、極力思い出したくないからだけど。もう少し責任感を……いや、それに雁字搦めになった結果が前世だから、好きなように生きていくと決めたんだ。
最低限迷惑を掛けないように立ち回ろう。無理だろうけどね。
食休みした後、改めて会議室でハリソンさん達との会談に臨んだ。
「やあ、ティナ嬢。夕食はどうだったかね?」
「とても美味しかったです!それに、わざわざ包んでくれてありがとうございます」
フェルのために料理を包んで貰ったんだ。
「それは良かった。さて、これから少しだけ真面目な話をすることになるが、まあ気楽にね。リラックスしよう」
ハリソンさん以外にもこの国の重鎮さん達が集まってる。さっき挨拶した国連の偉い人も居るね。
「はい、宜しくお願いします」
いよいよ交渉が始まる。気を引き締めないと。
「君からはある程度データを貰っている。銀河の反対側から来訪との事だ。信じ難いが、我々には確認する術がない。つまり君の言葉を信じるしかないのだが、本日ニューヨークで君が成し遂げたことは我々が君を信用するに足るものであると考えているよ」
ハリソンさんは笑顔だ。多分、緊張しないようにしてくれてるんだろうな。
「当然の事をしたまでですよ」
「正義感が強いようだ。君個人は非常に好感が持てるが、アード側の要望を聞かせてくれるかい?我々としては友好的な関係を築きたいと考えているが」
「残念ですが、アード政府は地球との交流に消極的なんです」
私はアリアの助けも借りながら簡単に今のアードが置かれている状況を説明した。センチネルについては、外宇宙の脅威としてね。詳しくはまだ話していない。明日の記者会見で話すつもりだから。
「なるほど、閉鎖的な惑星であることは理解した。では、君の立場はどうだろう?民間人の旅行客として見るべきかな?」
「ちょっと難しいです。地球との交流を任されてはいますが、私を異端と見なしている方も居ますから」
「それでは今回の歓迎も無意味だと!?」
「落ち着きたまえ、彼女には事情があるようだ。ティナ嬢、続きを」
声を荒げた人が居たけど、ハリソンさんが抑えてくれた。
「私自身信じられない気持ちなんですが、この交流は女王陛下の許可を頂けたんです」
「女王陛下、君主が居るのかね?」
『アードは地球で言う立憲君主制に近い政治体制となっています。普段女王陛下は政に関与されず沈黙を保たれていますが』
「それ故にその言葉は重いと」
「はい」
アリアが解説してくれて、ハリソンさんも理解を示してくれた。女王陛下が私の活動を認めた以上、地球とアードの交流は規定事項になるみたい。
政府は慎重だけど、私の活動次第で本格的な交流も夢じゃない。
「君の立場は良く分かった。では親善大使と言う立ち位置だと認識して構わないかな?」
「はい。私は地球と交流して地球の産物や良さをアードへ伝えます。そうすれば、政府も重い腰を上げるでしょう。女王陛下は未来を見通す力を持つと言われていますし、これまで無意味なことはなさらなかった。この交流はアードにとっても良いことだとお考えなのでしょう」
「うむ、銀河の正反対から遙々来てくれたんだ。先ずはお互いを知ることが大切だね。必要なら私が親書を書こうじゃないか。翻訳して貰う必要はあるが」
「ありがとうございます、ハリソンさん。でも親書はちょっと待ってください。先ずは政府の関心を惹かなきゃいけませんから」
「道理だ。まあ、気楽にやろう。君の立場がどうあれ、君は我々にとって大切な客人だ。我々はニューヨークでの恩を忘れない」
「ハリソンさん……」
皆さん笑顔だ。あの時は咄嗟に手を貸してしまったけど、結果オーライかな?
「それじゃあ、我々のことをよく知って貰うためのお土産についてだ。ケラー室長」
「はい。ティナ、別室に国を問わぬ様々な品物を用意させて貰った。後で吟味してくれるかな?」
「もちろんです!あっ、でもその前に……今日のお礼、とはまた違いますけど、私からもお土産を持ってきたんです」
「ほう、アードの品かね?それは興味深い」
皆さんが興味を示してくれた。先ずは……うん、此方からにしよう。ニューヨークで使ったし、もしかしたら情報が回ってるかもしれないし。
「これです」
私が胸元から取り出したのは掌より少し大きい真っ白なテープ。医療シートだよ。
何故胸元かって?この服に収納できる場所なんて無いんだよね。だからまあ……ね?
「こほんっ!ティナ嬢、余計なお世話かもしれないが年頃のレディがするにはちょっと早いんじゃないかな?」
「あはは、そういうお年頃だと言うことで」
ハリソンさんにやんわり注意されちゃったよ。まあ、逆の立場でも言うかも。
「それで、それは?」
「ニューヨークで使った医療シートです」
「ほう、それが」
「聞けば、張り付けた場所の外傷を瞬く間に癒してしまうのだとか?医学会が大騒ぎしていますよ」
「うむ、まさに魔法の道具だな」
皆さん興味津々だね。良かった。
「治癒魔法を込めたシートで一回限りの使い捨てなんですけど、張り付けた場所の怪我を癒してくれる道具です。ただ、病気には意味がありませんからご注意を」
「あくまでも外傷のみに効果がある、と言うことかね?」
「はい。本当は100枚持ち込んだんですけど、ニューヨークで大半を使いきっちゃって20枚くらいしか残っていません……ごめんなさい」
「謝る必要など無いよ、そのお陰で命が救われたのだから」
「ありがとうございます、ハリソンさん。こちらを進呈しますね」
私は残った医療シートをハリソンさんのところまで歩いていって直接手渡した。
「ありがとう。本当に必要な人に使うと確約しよう」
ハリソンさんも神妙に受け取ってくれた。よし、次は“トランク”。医療シート以上に地球を良くして……劇物にもなる品物だよ。