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お土産として用意した医療シートは皆さんにも好評だった。数は少ないし、どんな感じに使うのか……そこまでは私も口を挟めない。彼等の良心に期待するしかない。地球人類だって愚かじゃないと信じたいだけかもしれないけどね。
さて、お土産は医療シートだけじゃない。むしろ本命は此方だ。
「実はもうひとつあるんです。アリア」
『転送します』
私の後ろに突然10個の“トランク”が現れて、ハリソンさん達は目を見開いて驚いてる。
今回用意したトランクは最も安くて古いタイプだ。少なくとも生き物を収納することは出来ないし、収納できる量にも限りがある。
とは言え、一個で中型トラック1台分は易々と積み込めるけどね。最新式?大型倉庫1棟を軽々と収納できるみたいだよ。科学と魔法の融合した逸品だ。重要なのは、取り扱いの際に魔力を使わなくて済むことかな。
「いや、驚いた。銀河の反対側からこちらまで来ることが出来るんだ。転送も御手の物、かな?ティナ嬢」
「まあ、嵩張りますから。これはトランク。たくさんの物を収容して簡単に持ち運べる魔法の品です」
「なんと!?」
「それは確かなのかね!?」
周りの人達が興奮してる。まあ、とんでもない品だよね。
「収容能力は?」
ハリソンさんは大統領らしく落ち着いてる。
「えっと、これ1つで中型トラック1台分だそうです。正確な数値は難しいのですが……」
「中型1台分だと!?」
「あの小ささでか!?物流に革命が起きるな」
「在庫管理の概念が根底から覆されますな。いやはや、まさに革命だ」
皆さん真剣に議論してる。まあ、今の地球からすれば劇物だよねぇ。
「ティナ、ちょっと良いかい?」
「はい、ジョンさん」
「実際に物の出し入れを見せてくれないかな?そうだな、そこの余った長テーブルを使ってほしい」
「わかりました。使い方は簡単ですよ?」
私は左手にトランクを持って、右手で長テーブルに触れる。
「片手でトランクを持って、反対側の手で収納したいものを触るんです。そして……収納」
呟くと、長テーブルが光に包まれてどんどん小さくなっていく。その光景を皆さんが驚きながら見てる。
しばらくすると、ミニチュアサイズになった長テーブルが私の手のひらに乗ってる。
シルバ◯ファ◯リーの家具並みに小さくなる。それをトランクの中にいれたら完了。
「「「おおおっ!」」」
「戻す時も簡単ですよ?ミニチュアサイズの物を取り出して、戻したい場所に置いて」
ミニチュアサイズの長テーブルを床に置く。
「トランクを持ったまま命じます。戻れ」
指示を出すと、再び光に包まれた長テーブルがもとのサイズに戻った。
「「「おおおっ!」」」
「あっ、戻す時は元の大きさをちゃんと考えてくださいね?周りにものがあったら壊しちゃうかもしれないから」
「これは……凄いな。重さはどんなものかね?」
「重さもなくなりますよ。それと、容量一杯になったら収納と唱えても動作しないので分かりやすいですよ」
変位魔法の応用……らしい。詳しくはわからないけど。大事なのは、とても便利な道具ってこと。容量確認がちょっと手間だけどね。
ちなみに、今回持ってきたトランクは全部地球の、まあ英語に対応してる。
「素晴らしい!だが、取り扱いは慎重にしなければいかんな。特に管理は重要だ」
そう、トランクは悪用しようと考えたらとんでもなく悪いことが出来る道具でもある。だから、保険を掛けておく。
「ハリソンさん、これを持ってください」
私が、トランクの1つを差し出したらハリソンさんは快く引き受けてくれた。
「ロック」
呟くと、トランクが淡く光ってハリソンさんの持っている手を包み込んだ。そして直ぐに消える。
「大統領!?」
「大丈夫だ。ティナ嬢、今のは?」
他の人達が慌てて立ち上がり、ハリソンさんはそれを制しながら聞いてきた。
「ビックリさせてごめんなさい。今のは……マスター認証みたいなものです。解除しない限り、そのトランクはハリソンさんしか使えません」
アードでもトランクの扱いは慎重で、そのためにマスター認証魔法が付与されてる。
ちなみにマスター認証されたトランクには防護魔法が付与される。地球の技術力じゃ開けるのは無理かな。魔法だしね。
「なるほど、仮に盗まれても相手は使えないと」
「ついでにマスターには位置情報が自動的に送信される仕組みです」
ハリソンさんからトランクを受け取り、後ろに隠してみる。
「ハリソンさん、目を閉じてトランクの事を思い浮かべてください」
ハリソンさんは私の指示に従ってくれた。目を閉じて、少しすると面白そうに笑顔を浮かべた。
「だっ、大統領?」
「いや、これは凄いな。トランクはティナ嬢の後ろにある。周りも見渡せるな」
「なんと!」
マスターが思い浮かべたら、トランクの場所と周辺の光景が直接頭に送られる。魔法を使えない地球人だけど、これはテレパシーみたいなものだからか上手くいったみたい。原理?分かんない。
ちなみにこの認証魔法、遠隔操作で解除できる。アードでは荷物をトランクで送る際は相手から届いたとの連絡を受けて、間違いがないか確認してマスター認証を切って相手に権限を譲渡する形で行われてる。
ちょっと手間だけど間違いを避けるためにね。
「これなら盗難防止になるな。マスター認証はティナ嬢の助けが必要かね?」
「今回は十個ですから、私に任せてください。ハリソンさんが全部管理しても良いですよ?」
「それは大変そうだ。信頼できる人材に任せるとしよう」
「はい。数が増えたら新しいやり方を考えなきゃいけません」
「うむ、その点は慎重に議論しよう」
先ずは十個。そして、トランクの存在は直ぐに広まると思う。秘密を隠し通すのは難しい。
この十個を地球の皆さんがどう管理して取り扱うか。それは見定めなくちゃいけない。信じたいけど、その結果悲劇が起きたら堪らないし。
「我が国が独占しているなどと言われては困るな。国連で管理するようにしよう。加盟国の承認を取り付けないとな」
「直ぐに各国へ働き掛けます」
「任せた。保管場所は我が国で良いだろう。ティナ嬢、これらの品は人類のために活用するとここで誓おう」
「ありがとうございます。私が持ち込んだ品で不幸が起きたら悲しいです」
そう、悲しい。医療シートもトランクも悪用されたら大変なことになる。
私は地球の皆さんを信じたい。願わくば、期待を裏切らないでほしい。そんな結果になったら、交流なんて無理だからね。
早速難しい話し合いを始めた皆さんを見ながら、私はこっそりとため息を吐いた。喜んでくれて良かったぁ。
……なにも言わず、私を気遣うように側で笑顔を浮かべてくれるメリルさん、話し合いの最中でもチラチラと私を気にしてくれるジョンさんの優しさにほっこりした。