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ある日のことだった。
母の頼みを受け、赤い頭巾をかぶった少年・なつは、祖母のお見舞いに向かって森を歩いていた。木漏れ日が柔らかく揺れ、影と光が入り混じる森の奥は、どこか優しくも、ほんのり不穏な気配を帯びていた。
赫「 ♪〜 」
なつは、鼻歌を口ずさみながら歩いていた。
すると、茂みの中から突然、かすかな物音が響く。
ガサガサガサ!
赫「 ! 」
驚き、身をひるがえす。そこに現れたのは、狼の耳を持つ獣人の少年、いるまだった。
茈「なつ、どこ行くの?」
いるまの低く落ち着いた声に、なつは思わず微笑む。母も祖母も「赤ずきん」としか呼ばないが、この少年だけは、彼女の本名を呼んでくれるのだった。
あなた「ばあちゃんのお見舞いに行くの。あ、それとワインがあるけど、いるま、飲む?」
なつはカゴからワインを取り出して差し出す。
いるまは眉間に皺を寄せて
茈「それ、お前のばぁちゃんへのお見舞いなんじゃねーの?」
赫「でも、病人にワインをアレじゃん…」
茈「そーかもしんないけど…ぁ、なつ。あそこに花畑あるよ。花でも摘んで、花束にしてばぁちゃんに渡したら?」
いるまの指さす先に、鮮やかな色彩が広がる。なつは駆け寄り、色とりどりの花を丁寧に手に取り、小さな掌でぎゅっと束ねた。
赫「これなら、ぜっっったい、ばぁちゃん喜ぶじゃん!」
茈「…………」
いるまは細め、獲物を狙う獣のように、静かに、しかし鋭く。
そっと、なつに近づく。
息をひそめ、気配を悟られぬように。爪先に力を込め、まるで捕らえようとするかのように身を潜める。
茈(今なら、確実に食える)
頭の中で計算が走る。食らいつくのも、容易いはずだと。
しかし、その瞬間
赫「 いるま、いるま!」
茈「 ! 」ぴたっ
なつがふと振り向き、手にした小さな花の冠を、そっと、いるまの頭上に載せた。
茈「…………は?」
いるまは目を見開き、言葉を失い、全身の力が一瞬抜けたかのように硬直する。
赫「おー、流石イケメン!似合ってる!」
茈「…」
赤「いるまも、花の冠作ろ! 」
なつは無邪気に声を弾ませ、いるまに近づいた。
茈「いや、俺は……そーゆうのは、作れないし。」
いるまは少し顔を背け、眉間に皺を寄せる。言葉には自信なさげだが、耳の先や尻尾の微妙な緊張が、内心の動揺を隠せていない。
赫「じゃあ、俺が手伝うからさ。」
なつは一歩、ぐっと距離を詰める。
その距離感に、いるまの身体が反射的に硬直する。
茈「……!」
思わず息を呑み、瞳が大きく見開かれた。
赫の笑顔は柔らかく、手には色とりどりの花。
その手が差し伸べられると、いるまは一瞬、獣のような鋭さも忘れてしまう。
赫「いるまは、簡単な指輪から作ろう!ね?」
なつはにこにこと笑いながら、隣にしゃがみ込み、手元のシロツメクサで小さな指輪を作ってみせる。
赫「ほら、こうやって、花をくるっと重ねて……できた!」
小さな手先の器用さに、なつの目がきらりと輝く。
赫「……できそう?」
赫は優しく問いかけ、目を細める。
いるまは少し戸惑いながらも、赫の隣に座り、ぎこちなく手を動かす。
茈「……」
不器用な指先は、花を絡めるたびに形が崩れるが、必死に真似てみる。
なつはそれを見て、くすくすと笑う。
赫「大丈夫、ゆっくりでいいんだよ。俺が手伝ってあげるから。」
その言葉に、いるまの耳先がわずかに揺れ、少しだけ緊張が解けたようだった。
しばらくして、なつが顔を上げているまにもう一個の花の冠を見せる。
赫「いるまー!できた!」
なつが、誇らしげに振り向くと、いるまはすっと立ち上がり、なつの手をぐいっと引っ張った。
ぐいっ
赫「わっ!?」
思わず体勢を崩すなつ。だが、次の瞬間、いるまの手はなつの薬指にシロツメクサの指輪をそっとはめていた。
赫「……え?」
なつは驚き、顔を上げる。
いるまはその小さな指輪が指に収まった様子を、まるで宝物を見つめるかのように、じっと愛おしそうに見つめていた。
主(え、 なにこれ…???)