藤澤視点
「きゃあっ!」
近くを通っていたスタッフが、
両手に抱えた荷物で、
足元がよく見えていなかったのか、
盛大に転んでしまう。
その声に弾かれたようにすぐ彼が反応して、
すぐに彼女の元に飛んで手伝い始めた。
窘めながらも気を使わせないように怒る。
「もう⋯⋯女の子が無茶しない!」
そう言うと軽々と荷物を持ち上げて、
どこへ運べばいいか場所を確認する。
彼は優しくて紳士的だった。
「TASUKUさん⋯⋯⋯今日も格好いい」
彼女が小さくなった彼の背中にそう呟く。
ああ、
彼は誰にでも優しいのか。
そう思うと心がシュンとする。
理由なんて分からないけど、
なんか嫌だな。
何故かそれだけははっきりと感じた。
その後も彼に話しかけたかったが、
とてもそれどころではなかった。
何故ならーーーーー
「TASUKUさん、
これってどう言う意味ですか?」
「ああ⋯それはねーーーー」
「TASUKUさん!
この機材の場所ってどこですか?」
「あー⋯説明が難しいんだよね。
案内するから一緒に探そうか」
最早彼は裏方スタッフの一員ではないのか?と思うほど、
さばいてもさばいても、
彼の元には複数のスタッフが詰めかけていて、
その対応に追われていた。
僕が話かける余裕すらないほど忙しなく動き回り、
ちゃんと休めているのか心配になる程だった。
「ギタリストって普通ここまでしないよな?」
不審そうに彼を見つめながら、
若井が呟く。
「明らかな時間外労働じゃないの?」
「やっぱり元貴もそう思うよね」
こんなことをいつまでも続けたら、
体がもたなくなってしまいそうだ。
そんな不安に駆られながらも、
今日の仕事であるファッション雑誌の撮影に挑んだ。
ところが肝心の衣装がない。
物は搬入はした筈だが、
保管場所を間違えたようで、
探している最中らしい。
そこに大慌てで息を切らしながら、
ハンガーラックと共に男女が走り込んできた。
「走って走って!」
「はい!」
一人は彼で、
もう一人がスタッフのようだ。
え?
なんでここに?
僕はポカンとしてしまう。
その間も手早く動きハンガーラックから衣装を見繕うと、
彼女に手渡して何やら指示をしていた。
彼のおかげでどうにか撮影はスムーズに滞りなく終わった。
「すいませんでした!」
太ももに額がつきそうなほどに、
彼女がカメラマンへ深く頭を下げて謝罪した。
しかしその隣で彼が静かに頭を上げるように制する。
「いや⋯それは違う。
僕が保管場所の指示を間違えたせいです。
仕事に影響を与えてしまい申し訳ありませんでした」
彼が頭を下げてそう謝罪し直すと、
隣にいたスタッフは面食らったように、
驚いた表情のまま固まっていた。
ん?
事実じゃないのか?
どうしてそんな反応をするのだろうか?
「いや⋯何というか、
次から気を付けてくれればいいよ」
「はい、
すいませんでした」
やはり彼女の反応がおかしいため、
気になって去っていく彼らの後を追った。
すると休憩室近くの自販機で、
彼が立ち止まる。
彼女にエナジードリンクとコーヒーどっちの気分が聞いて、
彼は結局両方買って、
エナジードリンクを彼女に渡した。
「どうして私みたいな新人を庇ったりしたんですか?」
やっぱりそうか。
彼は嘘をついてまで、
彼女の評価を守ったのだ。
そうするのがさも当然のようにーーーー
「新人もベテランもミスを犯すものだよ。
次からは気を付けてってさ『次は期待してるよ』って意味だと思わなきゃ!
まあ⋯ミスっても僕をスケープゴートにしちゃえばいいって。
スタッフは家族なんだからさ」
彼はカラカラとよく通る声で弾むように笑いながら、
彼女に「尊敬している人からの受け売りなんだけどね」とどこか誇らしげに付け足した。
彼はまさにスタッフにとって、
きっと「みんなの王子様」なのだろう。
だから自分の評価が下がることも厭わないで、
スタッフのミスでさえ庇う。
彼の優しさは僕だけのものではないのだ。
そう理解すると何故か少し寂しく感じた。
(この気持ちは一体?)
雫騎の雑談コーナー
藤澤さんが天使もといお姫様様なら、
星崎は騎士というか王子様じゃね?
という安直さで書いてしまった駄作にございます。
だいぶ表現が見苦しいですね。
はい。
すいません。
ということ本編ですわ。
スタッフに対して訳アリ(その理由はおいおい書きます)事情がありまして、
必要以上に彼が仕事を補助しているんですね。
だから当然ひっきりなしに星崎の周りには、
自動的にスタッフが集まってしまうんです。
でも「スタッフは家族」だから「家族を助けるのは当然」の精神で、
時間外労働もミスも全て自分で請け負っているという状況です。
まあこちらでもオーバーワーカーの設定にしております。
さてさて次回はどうなることやら。
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