突然のことだったので驚いてしまったが、別に嫌な感じではない。むしろ心地良いくらいだ。
手を引かれるがままについて行くと、そこは店の裏にある物置部屋だった。
薄暗い室内に入ると、掴まれていた手が離れていった。
改めて女性の方に目を向けると、その顔からは表情が完全に消えており、ただじっとこちらを見つめてくるだけだ。
どうしていきなりこんなところに連れてこられたのかわからないが、特に危害を加えられる様子もない。
とりあえず落ち着こうと思ったところで、女性が話しかけてきた。
「ねぇ、あなたって幽霊とか信じる?」
女性が唐突な質問を投げかけてくる。
「うーん、まぁ信じなくもないけど……どうかしたんですか?」
「私ね、昨日見たのよ。夜に一人で散歩をしていたら、突然後ろから肩を叩かれて……それで振り返ったら誰もいなかったんだけど、代わりに足元に大きな影があったの。あれってもしかしたら、幽霊の仕業じゃないかしら?」
なるほど、これは間違いなく僕に相談を持ちかけているパターンだな。こういう相談を受けた場合、どう答えるべきかは決まっている。
「きっと疲れてるんですね」
僕の言葉を聞いた途端、女性の表情が変わった。
あれ? ひょっとして、怒らせちゃったかな?
「あの、ごめんなさい。気に障るようなこと言ってたら謝りますけど……」
僕の言葉を聞いているのかいないのか、女性は静かに笑みを浮かべると、そのまま踵を返してしまった。
一体なんなんだ? 僕は呆然とその背中を見送った後、改めてメニューを手に取った。
そこにはやっぱり写真など載っておらず、ただ文字だけが羅列されているだけだった。
『あなたの魂を捧げよ』
なるほど。これは確かに、ちょっと不気味な感じがしないでもないな。
でもまぁ、別にいいか。
お金はあるし、いざとなったら走って逃げようと思ったが、その必要はなかったみたいだ。
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