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6 - あの日君がしてくれたこと

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2025年08月26日

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8年前 ― 多摩川の交番



夜の交番に、私は転げ込むように飛び込んだ。

頬は涙で濡れ、喉はひりつくほどに荒れていた。


「助けて…っ!!お父さんとお母さんが喧嘩っ、して…っ、はぁ…、お父さん、…暴れ、ててっ、…!」


机に座っていた若い警察官――伊吹藍は、驚いた顔で立ち上がり、すぐに身を屈めて私の目線に合わせる。


「大丈夫。俺が行ってくるから、ここで待ってて。ね。」


その声に縋るしかなく、私は震える手で住所を伝えた。

彼は一度だけ頷くと、駆け出していった。


…あとから知ったことだが、伊吹は走りながら警察署に連絡を入れ、数分後にはパトカーが家を取り囲んでいた。

父は暴行罪で捕まり、母は入院することになったが、命に別状はなかった。


病院で母に会えたとき、伊吹が言った。

「お母さんも、君も無事でよかった。」


私は何度も頭を下げた。

「本当に、助けてくれてありがとうございました。…その、…私、お父さんから逃げるために、関西の方に行くことになりました。」


伊吹は少し寂しそうに笑ったが、それ以上は何も言わなかった。





現在 ― 第4機捜 分駐所



「今日から新人が入る。異例の三人バディになるけど、しっかり頼むよ。」

桔梗隊長の声に、分駐所の空気が引き締まった。


私は緊張しながら中に入る。制服に身を包み、背筋を伸ばし、前に立つ二人に敬礼した。


「配属になりました、○○です。よろしくお願いします。」


顔を上げた瞬間、そこにいたのは――あの夜、必死で走ってくれた人。


「…伊吹さん…ってあの日の…?!」


目を見開く私に、彼も同じように驚きの声をあげた。


「あれ!!あの日の!!…えー…ちょー可愛くなってんじゃん…!!」


いきなりの言葉に、頬が熱くなる。けれど胸の奥は、不思議と懐かしさと安心で満たされていた。


隣で腕を組んでいた志摩が、呆れ半分に笑う。

「あれ、知り合い?って…前言ってたあの子か。暴れる父親から救ったってあの子。」


「そうそう! やべぇ、マジで覚えてる!」

伊吹は子供のように笑い、私をじっと見つめる。


私は改めて頭を下げる。

「あの時は、本当にありがとうございました。…私、今度は逃げるんじゃなくて、誰かを助けられる人になりたくて。」


志摩がその言葉に、静かに頷いた。

「…いいじゃん。今度は、君が救う番だよ。」


分駐所の空気が、少しだけ柔らかくなった。

あの日の涙は、今はもう未来を形作る力に変わっている。


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