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新宿西口の陥没は、地上に巨大なクレーターを残した。
崩落したアスファルトと折れ曲がった鉄骨が、地下への入り口を無残に塞いでいる。
外部からの光は完全に遮断され、残されたのは非常用ランタンの頼りない光と、湿った土の匂いだけだった。
「……死ぬのを待つくらいなら、この壁の向こうへ行くぞ」
俺が指し示したのは、源蔵ですら「呪われている」と避けていた、戦前の古い地図にすら載っていない放棄された地下鉄の試掘坑道だった。
そこは長年、有毒なガスと地下水に支配され、新宿の歴史から消し去られた空白地帯。
「和貴、本気か。あそこは一度入れば二度と戻れねえぞ」
源蔵の声が震える。
だが、背後の通路からは、崩落を免れた神経ガスがじわじわと染み出してきていた。
「戻る場所なんて、もうねえんだよ。……行くぞ!」
俺たちは、崩れかけた壁の隙間を抉じ開け、未知の暗闇へと足を踏み入れた。
そこは、これまでの地下道とは空気が違った。
異常なほど乾燥し、壁一面には不気味な結晶がこびりついている。
だが、何より異様だったのは、その壁に「文字」が刻まれていたことだ。
『黒い百合は、ここより芽吹く』
古い墨で書かれたその文字を見た瞬間、俺の脳裏に親父の遺した言葉が蘇った。
「……ここは、組織の『発祥の地』だったのか」
三十年前、親父たちが組織を裏切った際、葬り去ったはずの「根源」。
そこには、最新のデジタル技術とは対極にある、血と呪術と狂気に彩られた『黒い百合』の真実が眠っていた。
「兄貴、見てください。これ……死体じゃありませんか?」
山城のライトが、壁に寄りかかるようにしてミイラ化した数体の遺体を照らし出す。
彼らの胸元には、一様に「黒い百合」の刺青が彫られ、その口元には満足げな笑みが浮かんでいた。
「……志摩、聞こえるか」
通信機を叩くが、返ってくるのは不気味なノイズだけだ。
地上の文明から完全に切り離されたこの場所で
俺たちはついに組織の「心臓部」よりも深い、「骨」の部分に辿り着いた。
その時
暗闇の奥から、カタカタと乾いた音が聞こえてきた。
それは、何十年も動き続けている古い印刷機の音だった。
残された時間は、あと2184日
100日の終わりに新宿が消える理由。
その答えが、この地底の静寂の中に隠されていた。